【第32話:じゃれ合い】

 ミヒメとヒナミの魔物討伐レベル上げは順調に進んでいた。


 二人が使う武器は『刀』。

 ミヒメがかなり長い刀一本なのに対し、ヒナミは短めの刀を二本使った二刀流。


 二人ともそれぞれの武器の適性ランクはAらしい。

 武器での戦いだけに限って言えば、槍の適性がSのオレの方が上のようだが、身体能力ステータスなどの伸びは職業クラス『勇者』の二人の方が遥かに高いはずなので、最終的にはオレよりも強くなるのではないかと思う。

 そもそも魔法に関しては、オレはほとんど使えないので、二人が魔法の扱いも極めれば確実にオレを上回るだろう。


「ふっ!! はぁっ!!」


 ヒナミは長い刀をまるで自分の手足のように巧みに操り、斬っては受け流し、受け流しては斬り、地を滑るような足捌きで以て敵を翻弄していた。


「あぁ、ごめん!? 桧七美! 一匹そっちにいったわ!


 しかし、二匹のゴブリンを瞬く間に斬り伏せたヒナミだったが、残った一匹が、横で別の一匹と戦っていたヒナミの方に向かって逃げ出してしまう。


「了解、美姫! まっかせて~! ……えぃっ!!」


 対照的にヒナミは、戦いの場を縦横無尽に駆け回り、バク転などの奇抜な動きも交えながら、激しい動きと手数で敵を圧倒していた。


 目にもとまらぬ二刀の連撃で戦っていたゴブリンを片付けると、逃げてきた一匹へと向き直り、駆け出すと同時に側転からバク転へとつなげて驚くゴブリンの前へと躍り出る。

 そして、宙をくるりと舞ったヒナミは、二本の刀を交差させると、逆さのまま、すれ違いざまにゴブリンの首を斬り裂いたのだった。


「やっぱり凄いな……見事だったよ」


 最初こそ緊張から動きに精彩を欠いていたものの、たった数戦しただけで、二人とも見違えるほどの動きを見せるようになっていて、本当に見事としか言いようのない戦いをするようになっていた。


「へへへ~♪ これでも剣道の有段者だし、全国大会ベスト8だからね!」


「ふふふ。ベスト8なんて恥ずかしくて自慢なんて出来ないわ! とか言っていたのは誰だったかな~?」


「ちょ、ちょっと桧七美!?」


「あっ、私は自慢しちゃうよ? 私、器械体操は種目別で床とか全国3位だよ~♪」


「ユウト聞いてよ! 桧七美ってね、段違い平行棒は痛いから嫌だと言って練習しないから、総合での順位はボロボロなのよ! 周りのみんな凄い期待してるのに、ひどいと思わない?」


「だ、だって段違い平行棒って、手の皮は剥けちゃうし、お腹はバンバンぶつけるから、す~っごい痛いんだよ!?」


 その後も二人のじゃれ合いは続いたが、ヒナミは痛いのが嫌だからと新体操に転向しようとしていたらしく、そこで習った棍棒の動きをアレンジして二刀流に活かしているらしい。


「なるほどな。オレと違って、二人が前の世界でも元々凄かったという事はよくわかったよ」


 扱う武器に高い適性があるからと言って、さすがに長年修練したような動きや技がいきなり出来るわけでは無い。

 オレは槍の適性がランクSなので、本当に思い通りに扱えるが、その思い描いた動きが槍の動きとして最善かと言われれば否だ。

 やはり基礎をしっかりと積み上げ、技を学び、実戦で経験を積む必要がある。


 その点、二人は実戦での経験以外は、既にかなり高いレベルに達しているように見えた。


「まぁね! 私たちにかかればこんなものよ!」


「あれあれ~? さっきまで凄い緊張してた子がいた気がするぞ~?」


「桧七美~!」


 またじゃれ合いが始まりそうだったので、手を叩いて注目を集め、注意をしておく。


「はいはい! 戦いはオレから何も言う事はないが、その油断はダメだな。ダンジョンは……いや、街の外は、突然想定外の強い魔物に襲われる事もあるんだ。戦いの最中だけでなく、それ以外の時でも気を抜きすぎないようにしよう」


「う、悪かったわ」


「はい……ごめんなさ~い」


「じゃぁ、反省したところで、魔晶石を取り出してみようか」


 オレがそう言った瞬間、可愛い顔を大きく歪めるミヒメとヒナミ。

 さっきから戦闘の数倍、この魔晶石の取り出しに時間がかかっている。


 勇者としての高い精神耐性は備わっているようだが、こういうことが苦手な事には、かわりはないようだった。


「さぁ、嫌がってても終わらないぞ? この世界で冒険者として生きていくなら、最低でも魔晶石を取り出せないと、収入も確保できないし生きていけないからな?」


「わ、わかってるわよ……」


「う、うん。頑張って終わらせちゃおうか」


 最初、オレが手伝おうとしたのだが、二人ともこれは分担してやらないとダメだと言い張って、今日は練習のために全部二人だけでやってみると自分たちから言ってきた。

 さすがに神様に勇者に選ばれるだけあって、本当に良い子たちだ。


「何かわからない事があれば何でも聞いてくれ。オレは一応周りを警戒しておくから」


 ここもダンジョンなので、基本的には魔物を倒した直後であれば安全なのだが、先日その例外に遭遇したところだ。

 それに、まだ今日は大丈夫だとは思うが、これからは教団の手のものも警戒しなければならないだろう。


 ウォリアードッグたちが遠巻きに警戒してくれているとはいえ、オレ達自身も常に油断しないように心掛けなければ……。


 その後もオレたちは順調に魔物を倒し続け、その日は誰一人怪我をすることなく、無事に街に戻ったのだった。

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