【第17話:ネギも大丈夫】
翌早朝、『赤い狐亭』で朝ごはんを食べたオレたちは、心配そうなダリアナと嬉しそうなリズに見送られて宿を後にした。
ちなみに朝ごはんは麺類では無かった。
「良し。それじゃぁパズ。案内頼むぞ?」
「ばぅ!」
召喚された場所から遠く離れた、しかも前世のオレとは肉体的には何の繋がりもないオレを探し当てたパズだ。
僅かだが明確に匂いが残っている箱を嗅いで、その中に入っていた物が、今どこにあるのか、わからないわけがなかった。
もし捨てられていたらとそこだけ心配だったが、パズ曰く、箱の中に入っていた物が原形をとどめないほど破壊されたり、燃やされて灰になったりしていれば、それは感じ取れるのだそうだ。
まぁそもそもこの件の黒幕や関係者は、まさかこちらが荷物を探して取り戻すつもりなどとは思っていないだろうから、案外、部屋の中で普通に置かれているかもしれないな。
あと補足しておくと、パズと出会った時、オレが目の前にいるのに気づかなかったりしたのは、あれはオレが一度通った道を折り返してきたためらしい。
川に流されたのは単に抜けているだけなのじゃないかと思うのだが、そこは深く聞かないでおいあげた。
元の世界では、足のつかない水の中に入った事など無かったらしいしな。
「ばぅ!」
「あ、ここを右ね」
そうして街の中を歩くこと三〇分。
門の方に向かっていたので、そのまま街の外に出るのかと思っていたのだが、意外にも、とある大きな家の前でパズは「ここだよ」と伝えてきた。
「ここって、この街で一二を争う
パズが探り当てたその家は、この街でも有名な大きな商店だった。
「あ、そう言えばここ、不動産も扱っていたよな? 単純にそう言う事なのか?」
こう言ってはなんだが、前世では結構べたな悪行。
やはり地上げで間違いなさそうだ。
そんな事を考えながら、店の前で立ち止まっていると、
「入口付近で立ち止まってんじゃねぇよ!」
と、怒鳴られてしまった。
「す、すみませ……ん?」
反射的に慌てて謝ったオレだったが、怒鳴ってきた相手の顔を見て、思わず言葉を止めてしまう。
「て、てめぇ……昨日の……」
そこにいたのは、昨日、宿で騒いでいた男の片割れだった。
「へぇ~奇遇ですね~。ここで働いているんですか?」
「う、うるせぇ!! どけ!」
今はここで通せんぼしてても意味はないので、そのまま道を譲ると、一旦その場を離れる事にした。
ちなみに、パズがマーキングしそうになったが、今回は止めておいた。
◆
「さて……ここから、どうする、かな。しかし、これ、旨いな……」
オレとパズは、近くに出ていた屋台で串焼きを買うと、通りから少し外れた路地裏に座り込み、一緒に串焼きを頬張りながら作戦会議をしていた。
味が濃い物はダメなんじゃないかと言ったら、神様にお願いして人と同じ物が食べれるようになったらしい……。
元々食生活の全く違う世界から勇者召喚した時用に、神様があらかじめ用意しておいたオリジナルチートらしい。
神様もまさかそのチート第一号がチワワになるとは思わなかっただろう。
まぁそんなチートを持っている事がわかったので、串焼きにはネギも入っているが、一緒に美味しく頂いている。
「ばぅむ、ばぅわぅ、ばむばむ……」
「えぇ……危なく、ないか? 大丈夫、か?」
パズが言うには、とりあえず荷物の中身だったと思われる物の気配を感じるから、それを奪い返してくるという。
「ばぅむ、わぅむ」
「んぐ……ふ~旨かった! じゃなくて、確かに迷宮の主を圧倒したパズに勝てる奴がそうそういるとは思わないが、こういう時の悪役って嫌らしい搦め手でくるのが相場じゃないか?」
ん? いや、なんか前世の記憶に引きずられているな……。
ドラマや小説の創作物でしか知らないのに、相場ってなんだよ。
そもそも世界が違うし、どうなんだろうな。
さっぱりわからないが……やっぱり街の悪者程度に、パズが負けるビジョンが全く見えないのは確かなんだよな~。
「ばぅ! ばぅわぅ!」
旨かった! そして僕に任せろ! らしい……。
「そうだなぁ。でも、パズが戦って負けるとはオレも思わないんだが、出来るだけこっそり取ってこなきゃダメだぞ? 出来るのか?」
オレがそう聞いた瞬間、パズの体が消えたように見えた。
「あっ!? 氷で光を屈折させたのか!」
「ばぅ♪」
よく見れば、普通にそこに何か透明の物体があるのがわかる。
見えないが、たぶん今頃、ちいさな胸を張ってどや顔で自慢げにしていることだろう。
だけど、これにパズの身のこなしが加われば、確かにそうそう見つからないかもしれない。
「わかった。任せて良いんだな?」
「ばぅ♪」
「じゃぁ、頼む! でも、油断せずに気をつけて、出来るだけ見つからないようにする事。それから、もし見つかったら、自分の身の安全を優先するんだぞ?」
「ばぅ!!」
最後に少し気を引き締めて返事を返したパズは、念のためにと霊槍カッバヌーイをオレに手渡すと、すぐに済ませるからこの辺で待っててと伝えて走り去っていった。
「さて、奥に少し開けた場所があるみたいだし、少しでも槍に慣れておくか」
パズを心配して、ここで何もせずにじっと待っているのは、何だか違う気がする。
それなら時間を有効に利用して、少しでもパズの強さに近づけるように、オレも色々と努力しないとな。
そんな事を考えながら、路地の先に見える空き地へと向かって歩き始めたのだが……。
「よぉ~あんちゃん、や~っと見つけたぞ?」
振り返ったそこには、昨日の二人組に加え、数人の荒事になれてそうな男たちが、路地の入口を塞ぐように立っていたのだった。
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