【第7話:びゅーびゅー】
前世の記憶を取り戻し、パズと主従契約を交わしたオレは、何故か
いや、頭に飛び乗ったパズを引き剥がそ……降ろそうとしたのだが、ここが気に入ったらしく、全く降りようとしないのだ。
そして、パズはオレより圧倒的に強いので、力尽くで降ろす事も出来ない。
主従契約とはいったい……。
「それにしても、体が嘘みたいに軽い……」
オレは何度目かの戦闘を終えると、霊槍カッバヌーイの構えを解いて呟いた。
職業クラスには適正武器が設定されているようなのだが、獣使いの場合は、槍がそうなのだとか。
オレは前世はもちろん、今世でも槍など扱った事はなかったのだが、ずっと今世で使っていた剣の扱いが稚拙に感じるほどには、思い通りに扱えていた。
それに、鵺を倒してステータスを大幅にアップさせた上に、パズと主従契約を結ぶことで
足元に倒れている数体のホブゴブリンから魔晶石を手際よく回収していく。
魔物は倒して完全に活動を停止すると、血をほとんど流さなくなるので、魔晶石の回収は、その場所さえ把握しておけばかなり素早く行える。
「これでラスト♪ パズ! これもよろしく!」
そう言いながら、オレは回収した魔晶石をパズに向かって放り投げた。
するとパズは「ばう」と一声吠えて、魔晶石をアイテムボックスに収納してくれた。
お陰で、荷物の量を気にして回収を諦める必要もない。
ホブゴブリンクラスになると、魔晶石もそこそこ大きいからな。
もちろん、最初に倒した鵺の魔晶石も回収しており、その大きさは驚く事に、パズよりも大きかった。
命が助かったばかりの所でアレだが、あの魔晶石の稼ぎだけでもひと財産になる。
パーティーを抜けることに決めた今、金銭面も心配だったので、正直かなり助かった。
◆
その後も、道案内は任せろというパズに従い、森の中を歩き続けていた。
多くの魔物とも遭遇したが、パズのサポートもあり、出会う側から倒しているお陰で、ステータスの伸びも順調だ。
もちろん懐具合もどんどん暖かくなっている。
前世の記憶が戻った今だからわかるが、この世界は色々とゲームのような所がある。
敵を倒せば倒すほど強くなっていくのが実感できるので、前世でハマったRPGのように、あともう少しと中々止め時が難しい。
しかし、さすがに日が陰ってきたので、ずっとこのまま続けるわけにもいかない。
きっとパズは、オレが戦いに勝つたびに強くなって喜んでいるのを感じ取って、遠回りしてくれていたのだろう。
だから、ちゃんと今日はここまでにして帰ろうと伝える事にした。
「パズ? そろそろ日が暮れそうだ、そろそろ出口に向かわないか? もう気を使ってくれなくていいぞ?」
ちょうど戦闘の区切りがついたのでそう伝えると、何故かパズは、ギギギと音が聞こえそうなぎこちない仕草で振り返った。
「ちょ、ちょっと待て……パズ? まさかとは思うが、迷ったりしていないよな……?」
「……ば、ばぅ?」
ま、迷ってないよ~? と言っている……目が泳ぎ、吹けもしない口笛を「びゅーびゅー」と吹きながら……。
「迷ったんだな……」
「ば、ばぅぅぅ……」
も、もしかしたら迷ったかな……と、冷や汗を流しながら、うな垂れるパズ……。
チワワとは思えない感情表現能力の高さに感心しつつ、オレは乾いた笑いを浮かべ、
「ははは……まぁ気にするな。オレも浮かれてパズに任せっきりにしてしまったしな。もう日が暮れるし、今日中に脱出するのは難しいだろうから、今日はどこかで夜営でもするか。無理せず、明日脱出しよう」
幸い、オレは『ソルスの剣』で荷物持ちをしていたので、野営の準備は整っている。
あいつらは荷物を放り出して逃げていったしな。
「とりあえず、魔物のわかないポイントを探そうか」
どこのダンジョンにも、必ず一定間隔で魔物がわかないポイントが存在する。
まぁ、今日襲ってきた鵺のように、一部の魔物の例外はあるのだが、その場所を見つければ、基本的には安全に野営する事ができるはずだ。
「ばぅ!」
「ははは。今度こそ任せろって? じゃぁ、今度こそ頼むよ」
こうしてオレは、尻尾をふりふりして先を行くパズの後ろをついていくのだった。
◆
「どうしてこうなった……」
オレたちのいるのは、森型のダンジョンだ。
正式名『トロリアの森』。
基本的にどこも木が生い茂り、視界は悪く、道もあるにはあるが、林道といった感じの非常に狭いものだ。
だけど、そんな森型のダンジョンでも、木々が生えず、ちょっとした広場が広がっている場所が存在する。
その一つが、オレたちが探していた魔物のわかない安全地帯だ。
しかし森型ダンジョンには、もう一つ、木々が生えず、開けた場所が存在する。
「なぜ、オレ達は未攻略のダンジョン最深部にあるはずのボス部屋の前にいるんだ……?」
「びゅーびゅー」
「それ、口笛吹けてないからな? それとも鵺の鳴き声の真似じゃないよな?」
とりあえずダンジョンのボスなんて、最低でも一〇人以上の大所帯で、時間をかけて挑む相手だ。
いくらBランクのネームドの鵺を圧倒する強さを持っているパズがいるにしても、一人と一匹で挑むのは危険すぎる。
「パズ、わかっていると思うが、手を出すなよ?」
実は、広場の最奥に『迷宮の主』と呼ばれるダンジョンのボスが鎮座しているのが、もう見えているのだ。
「ばぅ?」
「あぁ、迷宮の主はボス部屋から出てこれないはずだから、このままここを離れるぞ」
この森型ダンジョンのボスは狼型の魔物のようなのだが、さっきから咆哮をあげて威嚇してきており、一瞬パズがさっきの鵺戦のように対抗しないか心配だったのだ。
また、あの何を見せられているのかわからないような、変な戦いが始まったら困るので、さっさと離れる事にしよう。
「よし。ここまでの道ならオレが覚えている。引き返す事はできるから、ついて来てくれ」
今回はさっきと違い、オレも浮かれたりはしていなかったので、パズの辿った道は覚えている。
道をそのまま引き返せば問題ないだろう。
そう思って踵を返した時だった。
「グォォォォォーーーーン!!」
体をびりびりと震わすほどの、何か魔力の乗ったような特殊な咆哮が響き渡った。
ここまで強力なものは初めてだが、これは狼系の魔物の上位種が使う、特殊な咆哮だろう。
「危ない危ない。こんな魔力の乗った咆哮を至近距離で喰らったら、なにかの状態異常になってたかもしれない……」
物理攻撃なら、オレもステータスがあがったし、パズに貰ったこの『霊槍カッバヌーイ』で多少は抗えるかもしれないが、こんな精神攻撃系の技は防げる自信はない。
「さぁ、さっさと……」
離れるぞ。そう言おうとした時だった。
「ばぅばぅぅ~~~ん!!」
どこかで聞いた、へたくそな咆哮が響き渡ったのだった……。
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