【第6話:紡いでくれた縁】
「え? 主人ってなんだ? どういうこと?」
「ばぉぉん♪ ばぅわぅ!! ぶぅ~ばうわぅ!」
「え? クラス? 獣使い? ちょ、ちょっと待ってくれ! 話についていけてない!」
突然の話の流れに理解が追い付かず、オレはパズに詳しい説明を求めた。
そして、暫く話を聞く事で、なんとなくだがようやく話が見えてきた。
「つまり何か? この世界の人々には適性というものがあって、それぞれ職業クラスというものが割り当てられていると」
その中でも驚いたのが、職業クラスというものの存在についてだ。
例えば『剣士』のクラスについているものは、剣の扱いに長け、オレのように剣に適性がない者と比べると、剣を遥かに上手く扱える。
ただ、剣の場合は適性がなくとも、努力次第でそれなりに扱う事もできるだけマシなのだが、『魔法使い』などの魔法を扱えるクラスについていない者は、余程の外的要因が無ければ、魔法を扱う事は出来ないらしい。
だからこの世界では、魔法使いは一〇〇人に一人程度しかいないのか。
そしてその職業クラスというのが、オレの場合は『獣使い』というクラスになるらしい。
「それが職業クラスというものかどうかはわからないが、この世界には『魔物使い』って呼ばれている奴らがいるが、それとはまた違うのか?」
途中でそう聞いてみたところ、『魔物使い』というクラスも存在するようだが、そちらは魔物を使役するクラスで、また別らしい。
それに対して『獣使い』は、『獣』、つまり動物だけしか使役できない。
これだけ聞くと完全に『魔物使い』の劣化クラスのように感じるのだが、そのクラス特性に大きな違いがあるらしい。
特に一番大きいのが、魔物の場合は使役されることで
おまけに『獣使い』の場合は、その使役している動物と絆を深める事で、使役している動物も、その主も、より強くなっていくそうだ。
ここまでの話だけでも、もう頭がいっぱいいっぱいなのだが、そこへ最後に特大の話を聞く事になった。
「えっと……未だにまだ信じられないんだが、それじゃぁなにか。オレの前世はパズと同じ世界の住人で、おまけにパズのお婆ちゃんの飼い主が前世のオレだったと?」
「ばぅ!! ばうわう♪」
普通に考えれば、とても信じらないような話ばかりだ。
でもオレみたいな、なんの取り柄もない、今までごく普通に生きてきた人間を、こうしてわざわざ探してここまでやってきたというのだ。
もうここまで来たら、全部信じてみようと思った。
「それでパズは、オレの『獣使い』としての能力で、主従契約を結びたいと?」
「ばぅ♪」
オレからしたら、こんな凄い奴と仲間になれるなんて大歓迎なのだが、オレで本当に良いのだろうか?
「本当にオレとそんな契約結んで良いのか? オレはパズみたいな特別な力はないし、それにパズは、オレがどういった人間かなんてよく知らないだろ?」
だから、そうやって聞いてみたのだが、その考えを変えるつもりはないようだった。
「わかった。それじゃぁ、やってみる」
オレはパズの前にしゃがみ込んで目を合わせると、頭に手を翳し、パズの念話で教わった通りに、心のパスを繋ぐようなイメージを強めていった。
やってみるまで半信半疑だったが、パズの念話でリードして貰い、徐々にイメージを強めていくと、言っている意味がわかってきた。
「これは……」
数分だろうか、それとも数十秒だろうか。
暫く無心でイメージをしていると、心に何か暖かいものが流れ込んできたのだ。
最初はパズの記憶だった。
パズが小さい頃から、どういった環境で、どのような経験を積んで育ってきたのか。
どのような愛情を注がれて育ってきたのか。
だがその記憶は、魔法陣のような光に包まれた瞬間途切れ……。
「うっ……今度は、なんだ……」
先ほどのパズのものと思われる記憶とは、桁違いの情報量だ。
「これは……オレの前世の記憶か……」
その時間は、ほんのわずかな時間だったかもしれない。
だけど、その記憶の奔流は、オレに前世での半生を追体験させた。
「ははは。前世での名前も
前世でのオレの名前は『
神様の悪戯なのか、それともそう仕組まれたのか、今世でのオレと同じ名前だった。
その記憶の中には、パズのお婆ちゃんにあたる愛犬『ペジー』の記憶も。
どうやらオレは、前世で愛犬を救うために、身代わりになってトラックにはねられたらしい。
それが今と同じ一五歳だというのだから、やはり何か運命のようなものを感じる。
「そうか。ペジーがオレのあげたおもちゃをずっと大事にしていたから、パズはその匂いを辿ってここまでやってきたのか?」
まぁ生まれ変わって肉体が違うのだから、そんなわけはないか。
だから、きっと何か神秘的な力でオレを見つけ出したのだと思う事にした。
それでも、ペジーが紡いでくれた縁には違いない。
ペジーがオレのあげた玩具を大事にしていなければ、パズはオレの元まで辿り着けなかったのではないか?
根拠はないが、そんな気がした。
「え? ははは。くすぐったいよ」
いつのまにかオレの頬には一筋の涙が流れていたようだ。
それをパズが気付いて、ぺろぺろと頬を舐めてくれていた。
そこからは暫く涙が止まらなかった。
ベースは今世のユウトのままだと思うが、前世の記憶を追体験した事で、今のオレは紺野優斗でもあるように感じる。
パズとは、まだまだ細い絆で繋がっているだけだろう。
だから、ペジーに感謝しつつ、これからはパズと共に歩んで行こう。
そして、太く固い絆を築いていこう。
そう決意した瞬間だった。
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