異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

第一章

【第1話:ばう?】

 ここは中堅冒険者向けの森型ダンジョン。

 オレは目の前に迫ってきたホブゴブリンの突進を、仲間を庇って盾で受け止めた。


「うぅっ!? 凄い力だ……」


 この世界『レムリアス』には、魔物と呼ばれる人に害をなすモノ達が存在する。

 どういった生態かは未だに解明されていないが、オレたち人間や普通の動物のように普通に繁殖をしてその数を増やすのではなく、突然、魔力から生まれる異形のものたちだ。


 その中の一種であるホブゴブリンは、子供ほどの大きさのゴブリンという人型の魔物の上位種なのだが、こちらは筋肉隆々の大きな体を持っていた。


「ユウト! なにホブゴブリンこの程度の奴に力負けしてるんだよっ!! 相変わらず役に立たねぇな! 邪魔だ! 代われっ!!」


 オレを押しのけ飛び出してきたのは、このパーティーの盾役の大男『ガイ』だ。


「ご、ごめん! ガイ!」


 このパーティーは、故郷のソルス村出身の者たち四人で構成されている。

 と言っても、ソルスはそこそこ大きな村なため、冒険者を目指して村を出るまで、オレは他の三人との面識は無かった。


 このパーティーの中でガイは一番の巨漢で、二メートル近い体躯を誇るホブゴブリンと対峙しても引けをとらない。

 冒険者としてはかなり小柄なオレからすると、その恵まれた体躯だけでも羨ましい。


 このパーティー『ソルスの剣』は、現在Dランクの冒険者パーティーで、この森型ダンジョンを攻略する上では適正な強さのパーティーと言えるだろう。

 他のメンバーは皆一八歳。

 冒険者としてもう三年目のこのパーティーは、若手の中ではかなり実力がある方だ。


 だけど、三ヶ月前に村から出てきたばかりのオレはまだ一五歳で、とてもここで戦えるような実力は持ち合わせていなかった……。


「ガイ! 私に任せて!」


 ガイがホブゴブリンの突進を跳ね返したところで、今度は後ろにいた魔法使いの『シリア』が杖を掲げて声をかけた。


「闇を払いし清浄の炎よ! 我が命に従い、敵を討て! 【蒼き炎の礫】」


 シリアはこのパーティー唯一の魔法使いで、そこまで強力ではないものの、一〇〇人に一人ほどしか使えない魔法を扱えるパーティーの切り札だ。


 杖から放たれた蒼い炎の礫は正確に飛んでいき、ホブゴブリンの胴体に命中すると、燃え広がって上半身を炎で包み込んだ。


「ぐぎゃぎゃがぁ!?」


 致命傷とまではいかないが、魔物と言えど身体を燃やされて平気なはずがなく、炎を嫌がるように手を振り回すホブゴブリンの元に、今度はこのパーティーのリーダーである『ゼノ』が走り込んだ。


「おらぁ! 死ねやぁ!!」


 ゼノは荒々しい言葉を発しながらホブゴブリンの目の前に躍り出ると、両手持ちの武骨な大剣を振り上げ、呆気なくその身体を斜に叩き斬ったのだった。


 ◆


 戦闘を終えたオレたちは、倒れた魔物の身体から魔結晶を取り出すと、その場で休憩をとる事になった。


 普通の森だと血の匂いで襲撃される危険があるため、移動してから休憩するのが普通なのだが、ダンジョンの場合は違う。

 その場所の魔物を倒すと一定時間そこは安全地帯と化すので、短い休憩に限って言えばダンジョンの方が安全に休憩できる。


 ちなみに魔晶石と言うのは、魔物の心臓のようなもので、これを所属している冒険者ギルドに持って行くと買い取って貰え、さらに冒険者の実績として評価して貰える大事なものだ。


 そしてこの魔晶石の回収は、戦闘であまり役に立てないオレの担当だった。


「おい、ユウト! 回収終わったんなら、ちょっとさっきの川で水汲んで来い!」


「が、ガイ、オレもちょっとへとへとなんだ。休憩させてくれないかな……」


 戦闘であまり役に立てないとは言え、オレも魔物との戦いには参加しており、ここまでの強行軍もたたって、身体はもう悲鳴をあげていた。


「ちょっと~、役立たずのくせして一人前に休憩を要求するつもり?」


「ったく……村長の紹介状があったから、仕方なくお前をパーティーにいれてやってるんだぞ? それをもう三ヶ月にもなるのに、魔物の一匹もまともに倒せねぇ奴が言うようになったじゃねぇかっ!」


 そこまで言われるとさすがに返す言葉が無く、オレは諦めて水を汲みに行く事にしたのだった。


 ◆


 先ほど通り過ぎた小川まで辿り着いたオレは、思わず愚痴をこぼしていた。


「あ~ぁ……オレだって魔物の止めをさせれば、もう少し役に立てると思うんだけどなぁ……」


 オレは一〇歳の時に両親が魔物に殺され、その後は村長の家で育てられた。

 だから村を出て冒険者になると伝えた時に村長が心配して、村出身の彼ら『ソルスの剣』に紹介状を書き、必ずパーティーに加わらせて貰うようにと言われた。


 だけど……『ソルスの剣』の皆は、僕を歓迎してはくれなかった。


 三つ年上で村では全く交流の無かったオレは後になって知ったのだが、彼らは村にいた頃からあまり評判が良くなかったようだ。


 だけど彼らは、立ち回るのが凄く上手いらしく、目上の者にはとても良い若者に映るらしい。

 だから現に村長だけでなく、冒険者ギルドでも評判は良い。


 代わりに同ランク以下の冒険者からは、すこぶる評判が悪いのだけれど……。


 まぁそれはともかく、そんなパーティーに村長のコネで無理やり入ったものだから、オレの扱いは酷いものだった。


 まず、入った初日から、なんのアドバイスもなく、Dランク冒険者向けの危険な狩場に連れていかれた。

 雑用ぐらいは新入りだから受け持つのは構わないのだが、雑用を全てこなした上で、彼らと同じ働きを求められた。


 冒険者はFランクから始まり、E>D>C>B>Aと上がっていく。

 もちろんオレは、まだFランクのド新人だ。


 冒険者ランク一つの差は非常に大きく、だいたいEランクで一人前、Dランクはベテランと言われている実力を持つものたちが、ようやくたどり着くランクだ。

 だから、彼らの実力は若手の中では抜きんでている。


 そう。実力は間違いなくあるので、その点に関しては勉強になる事も多いのだが……。


「魔物に止めをさせないと、ステータス身体能力も上がらないからなぁ……」


 そんな愚痴を零しながら小川で革袋に水を汲んでいたその時だった。

 突然、小川の向こうの茂みがガサガサと揺れたのに気づいた。


「ま、魔物か!?」


 オレは革袋を投げ出して、慌てて腰の剣を引き抜く。


 ここはさっき通った時に魔物を倒した場所から近い。

 だから暫くは安全だと思っていたのだけれど、正確に距離を測ったわけでは無いし、どの程度離れれば再び魔物と遭遇し始めるのかなどは正確にはわからない。

 だからオレは、またホブゴブリンのような大きな魔物が現れるのではないかと生唾をごくりと飲み込んだ。


「ばうっ!」


 しかし、茂みをかき分け現れたのは、ちいさなちいさな魔物だった。

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