【第12話:いない】
オレとパズは、森型ダンジョンからほど近い街『セルムス』に帰ってきていた。
前世の知識で例えるならば、中世後期の西洋風の石造りの街といったところか。
もっとざっくりと答えるならば、ファンタジーRPGの世界観に沿った街だ。
そしてこのセルムスという街は、近くにいくつかのダンジョンがあるため、冒険者の街として非常に賑わっている。
今もオレの横を、剣や盾、魔法の杖などを装備した冒険者たちが通り過ぎていった。
パズを頭の上に乗せているせいで、すっごくじろじろ見られたが……。
ちなみに筋肉マッ……ウォリアードッグたちは、手続きをしないと騒ぎになるので、ダンジョンを抜けた所で消えて貰っており、今はいない。
ただ、ダンジョンで無双するウォリアードッグたちを見て、逃げ出した冒険者たちが何組かいたのだが、ダンジョンの中なので気にしない方向で……。
ちょっと色々一度に起こり過ぎて、これ以上あまり深く考えたくないというのが本音だろうか……。
まぁそれはともかく、オレたちは、とりあえず冒険者ギルドへと向かう事にした。
魔晶石の報酬を貰い、パーティーを抜けるためだ。
魔晶石は、ダンジョン最奥のボス部屋からの帰り道でも、ウォリアードッグの四匹が沢山の魔物を倒してくれたので、かなりの量になっている。
これを換金すれば、相当な額になるだろうし、冒険者としての貢献ポイントもかなり溜るはずだ。
「あ、先にパーティーを抜けておかないとな。さすがにあいつらに貢献ポイントをわけてやるほどお人好しじゃない……」
もうオレを斬りつけ囮にして逃げた事は不問にしようと思っているが、さすがに成果を案分してやる気は全くない。
オレはギルドの扉をくぐると、そのまま受付カウンターに向かった。
パズが頭の上に乗っかっているが、犬種はともかく、犬は普通にこの世界にもいるので、注目こそされ、それで注意されるような事もなかった。
パズが意地でも降りてくれないだけだが……。
「すみません。パーティーを離脱する手続きをしたいのですが……」
そして、ギルドの受付嬢が用件を尋ねる前に、開口一番そう伝えた。
「え? あ、はい。所属しているパーティーを抜けられるのですね」
「はい。抜けるのはリーダーの承認いらないですよね?」
「えぇ、そうですね。入る時はリーダーの承認がいりますが、抜ける時は、その……揉められている事が多いので、抜けるメンバーご本人か、もしくはリーダーの手続きだけで行えます」
その説明を聞いた時、一瞬嫌な予感がした。
「それでは身分を証明するギルドカードを提示ください」
言われるままにギルドカードを渡して、暫く待っていたのだが……。
「あの、ユウトさま。どうやら、その……」
言いにくそうにしている受付嬢を見て察する。
「あぁ……、もう
「は、はい。昨日のうちにリーダー権限で、ユウトさまはパーティー『ソルスの剣』から除名されております」
ちょっとカチンときたが、まぁ下手に死亡報告されていると手続きが面倒だっただろうし、事情を話さないといけなくなるので、それよりはマシかと思いなおす。
「わかりました。既にパーティーを抜けているのなら、それでいいです」
「えっと……次は良いパーティーメンバーと出会えると良いですね」
気を使ってくれたのだろう。
オレとそうたいして変わらない一五歳前後に見える受付嬢は、そう言って微笑んでくれた。
「あ、ありがとう」
前世含めて彼女いない歴=年齢
一瞬どもるぐらい仕方ないし、見惚れてなどいない。いない。
「それで、他にご用件はございませんか?」
「あ、あぁ、まだある。実は結構な数の魔物をダンジョンで倒してきたので、魔晶石を買い取って欲しいんだ」
基本的に魔晶石の取引は免状がないと行えず、普通の冒険者にはお金で手に入れる事はできない。
貴族などの権力者などはその限りではないだろうが、冒険者ランクは強さに見合っていないとあまり意味はないものなので、冒険者ギルドで引き渡した魔晶石の種類と数がそのまま貢献ポイントになる仕組みだった。
「わかりました。それでは、こちらのカウンターにお出しください」
そう言われたので、オレはカウンターに置いた。パズを。
「あの……」
さっきからオレの頭の上に乗っかっているパズが気になり、ちらちらと視線をやっているのは気付いていた。
うん。気にならないわけがない。
その興味を引いていたパズを、いきなりカウンターの上に乗せたのだから、言葉に詰まるのも仕方ないだろう……。
「パズ、魔晶石だしてくれ」
魔晶石は全てパズのアイテムボックスに収納して貰っている。
だから、カウンターに魔晶石をと言われて、パズをカウンターの上に乗せたのだ。
勇者基本セットのアイテムボックスは、無限にアイテムを収納できる優れものだ。
今回倒した魔物の魔晶石ぐらい余裕で収まるのだが……。
「ばぅ?」
崩れるよ? と言われてしまった。
「あぁ、そうか……この上に乗りきらないよな」
「すみません。かなりの魔物を倒しまして、魔晶石を乗せるにはここはちょっと小さすぎて……」
「え? あ、もしかしてマジックバックか何かに入れておられるのですか?」
マジックバックとは、アイテムボックスほどでは無いが、見た目よりも遥かに多くの荷物を収納することができる魔法の鞄だ。
「まぁ、そのような感じですね」
「失礼しました。では、奥の部屋にご案内いたしますので、こちらへ」
オレはパズを抱えると、言われるままに受付嬢の後を追った。
そうして案内されたのは、頑丈そうな、二メートル四方はありそうな大きなテーブルが設置された部屋だった。
「それでは、こちらにお願いします」
そして「本来は高ランクパーティー向けの場所なんですよ」と付け加えながら微笑む受付嬢。
決して見惚れたりしていない。いない。
「わ、わかりました。そじゃぁ、パズ、今度こそよろしく頼む」
今度は大きなテーブルの上にパズを乗せて、魔晶石を出してくれと頼む。
「ばぅわぅ!」
しかし……そこに現れたのは、オレの予想を超え、その大きなテーブルにも乗り切らないほどの魔晶石だった。
倒す側からアイテムボックスに収納して貰っていたから、総量がどれぐらいか、全然把握できていなかった……。
「……は?……」
その後、受付嬢は暫く放心したあと、他の職員の応援を呼びに、部屋を出て走っていったのだった。
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