【第14話:愉快な仲間】
オレはギルドマスターのガッツイと別れた後、先ほどの受付嬢に案内されて、最初に対応して貰ったカウンターの前に戻ってきていた。
「はい。それでは、こちらが今回の報酬になります」
「ありがとうございます!」
渡されたのはかなり重い革袋。
中にはぎっしりと金貨が詰まっている。
オレは当面必要な数枚の金貨だけ取り出すと、あとは袋の口を閉じ、パズのアイテムボックスに収納して貰った。
「それと、ギルドカードをお返ししますね」
「はい……あれ? これって……」
何かいつも見ていたカードと材質が違う事に気付いて、見返してみると、そこには『Dランク』の文字が書かれていた。
「はい。ギルドマスターいわく、本当はCランクぐらいまで昇格させたかったそうですが、一度の昇格は二段階までしか認められていないそうで」
そして「申し訳ございません」と頭を下げられてしまった。
「いえいえ! 頭を上げて下さい。逆に二段階もあがって驚いているだけなので!」
「それなら良かったです。あと、パズさまの従魔登録と、特例でのパーティーメンバー登録がなされました」
「ははは。あ、ありがとうございます」
本当にパーティーメンバーとして登録されてしまった……。
これ、他の冒険者に知られたら、凄いぼっちのコミュ障に見られるんじゃないだろうか?
「それと、こちらが従魔の証となりますので、少なくとも街中では必ずつけておくようにお願いします」
そう言って渡されたのは、赤いスカーフのような布だった。
赤地にゴールドの刺繍の入った布で、これが一番小さいサイズらしいのだが、パズの首に巻いてみると、某ヒーローみたいに余ってしまった。
まぁパズが気に入っているからいいか。
靡かせるためにカウンターの上をぐるぐる走り回っているが、全力でスルーする。
「あ……そ、それでですね。パーティー登録のために、パーティー名を決めて頂きたいのですが、よろしいですか?」
受付嬢もスルーする方向のようだ。
「パーティー名ですか」
パーティー登録するのだから、パーティー名を決めないといけないのは当たり前なのに、すっかり忘れていた。
「しまったな。何も考えていなかったぞ……」
オレがそう零すと、もう従魔の証を靡かすのに飽きたのか、カウンターからまたオレの頭の上に飛び乗って話に加わってきた。
「ばぅ? ばぅわぅ!」
「却下だ……なんでオレが愉快な仲間なんだよ!?」
「ばぅぅ? ばぅわぅ!」
「それも却下だ……パズ&ドラゴンって、オレ、ドラゴンじゃないし、略すと前世の某ゲームと被ってなんかややこしいわ!?」
「ばぅばぅ? ばぅわぅ!」
「だから、それも!……ん? いや、意外と悪くないか? それにしようか?」
思わず勢いで却下しそうになったが、パズのあげたパーティー名は意外と悪くなかった。
「お待たせして、すみません。パーティー名は『
パズのお婆ちゃんであり、オレの前世での愛犬ペジー。
彼女は何故か明け方の日の昇る直前の時間が好きなようで、いつも早起きしては、下手な、それはもう下手すぎて遠吠えなのかどうかもわからないような遠吠えをよくしていた。
だから、パズが提案してきた『暁の刻』というパーティー名が、オレとパズを繋いでくれたペジーをイメージさせ、何だか凄くオレ達にはお似合いに思えた。
「わかりました。それではパーティー『暁の刻』で登録させて頂きます」
「はい。お願いします!」
と、せっかく気持ちよくパーティー名を決めたというのに、そこで聞きたくない声を聞く事になってしまった。
「え? あんた……生きてたの?」
「マジかよ!? ユウト、お前どうや……」
「おいっ!」
「あ……すまねぇ……」
振り返ったそこにいたのは、元パーティーメンバー『ソルスの剣』の面々だった。
「そいつはパーティを
ガイとシリアが多少は罪悪感のようなものを感じているのに対して、ゼノは微塵もそのようなものは感じていないようだ。
別にもうオレも関わるつもりはないし、それはそれで構わないのだが、若干約一名、いや、約一匹、それが気に入らない奴がいたようだ……。
「あれ? パズ? どこ行った?」
いつの間にかオレの頭の上から消えたかと思うと、ゼノの足元で、何やら悪そうな顔をしている姿が目に飛び込んできた。
あ、これ絶対揉め事起こす奴だ……。
そう思った時には、やらかしていた。
「あん? なんだこのクソ犬?」
ゼノが足元にいるパズに気付いて悪態をついたその瞬間、その場にいる皆が同じ言葉を呟いていた。
「「「「あ……」」」」
うん。見事なマーキングだ。
「……はぁっ!? て、てめぇ!?」
ゼノは躊躇なく、自分にお○っこをかけたパズを蹴ろうと足を振り抜いたが、パズは余裕をもって躱し、逆に軸足の脛を蹴飛ばした。
「ぐはっ!?」
そして片足で立っている軸足を蹴飛ばされたのだから、ゼノは見事にすっころぶ。
傍から見ていると、何を大げさなと見えるが、すっころんだ痛みより、絶対
「くそ犬がぁ!!」
しかし、そこでとうとうゼノがキレた。
背中から大剣を引き抜くと、魔物と対峙するようにパズに向かって構えた……のだが、いつの間にか大剣の刃には、直径二メートルはありそうな巨大な氷がついており、あまりの重さに振り上げる事すらできなくなって、大剣を手放してしまう。
「なっ!? いったい、何が起こってんだよ……」
さすがにこのおかしな状況に恐怖でも感じたのか、そこで初めてゼノが恐れの表情を見せた。
「ゼノ……もうよせ。お前じゃパズには勝てないよ。昨日のダンジョンでの事は不問にするから、そのまま引け」
「こ、こいつ、お前のっ!? お前がやったのか!?」
どうやら、オレが指示を出してやらせたと勘違いさせてしまったようだ。
「いや。パズがお前の態度に勝手に腹を立ててやった事だが……それぐらいは自業自得だろ?」
「嘘つけ! てめぇ……」
ゼノが激昂し、オレに向けて一歩を踏み出したのだが……。
「ばぅっ!!」
「うわぁっ!? がはっ!? うぐぐぐぐ」
いつの間にか足元に張られていた氷に足を掬われてすっころび、後頭部をしこたま打って悶絶した。
「お、おい。ゼノ。昨日のこと不問にするってんだから、行こうぜ」
「そ、そうよ。わざわざ事を大きくする事ないじゃない」
そこでようやく放心状態から復帰したガイとシリアが駆け寄り、そのままゼノを連れてギルドを出ていったのだった。
巨大な氷の付いた大剣が転がったままだが、まぁ後で取りに来るだろう……。
「しかし、パズ……やりすぎだ」
「ばぅぅ……」
「でも! ……スッキリしたよ。ありがとな!」
「ばぅ♪」
この後、二人揃ってギルド職員に色々とお説教をされる羽目になったのだが、何だかパズとの距離が近づいた気がして、ちょっと嬉しかった。
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