【第22話:ぶらっく】

 ウォリアードッグたちのお陰で救われたオレは、彼らにも協力して貰い、倒れた男たちを監視しながらパズを待つことにした。

 そして、今さらまた槍の練習をする気分にもなれなかったオレは、なんとなくウォリアードッグたちに話しかけていた。


「そう言えば、お前たちにとってオレはどういった立場なんだ?」


 厳密に言えば、ウォリアードッグたちはオレと主従契約を結んだわけではない。

 そもそも『獣使い』という職業クラスは、魔物とは主従契約を結べないようだしな。


 ウォリアードッグたちはあくまで、オレと主従契約を結んだパズの眷属舎弟になっただけだ。


 だからふと、そんな事が気になり聞いてみた。


「がふがふ!」


 ん~、パズと違って細かいニュアンスまではわからないけど、「兄貴の大切なお方」的なイメージが伝わってきた。


「がふ~? がふっ♪」


「んん? どういうイメージだ? よくわらないが……とりあず、オレも仲間みたいに思ってるってことかな?」


 そう聞き返してみるが、ウォリアーウルフたちもオレの言葉を全て理解できるのではないようで、四匹同時にキョトンと首を傾げていた。

 筋肉マッチョな大きな犬型の魔物に、可愛らしさをアピールするような仕草をされても誰得な絵面だが……。


 いや、そうじゃなくて、もう少し簡単な質問をしてみよう。


「ちょっと気になったんだが、お前たちは名前は無いのか?」


「「「「がふ~!」」」」


 無いよ~! という元気なイメージ返事が返ってきた。


 そう言えば、森型ダンジョンを抜ける道中で聞いたパズの話だと、こいつらの自我が芽生えたのは眷属化舎弟にした時とか言ってたな。元々はただ迷宮の主に従う傀儡のような存在だったんだっけ?


 それにしても、さっきの戦いといい、今の返事といい、まるで兄弟のように感じるほど息が合っているな。


「そうか。パズは名前付けたりしないのかな?」


 こうしてみると、意外と愛嬌のある顔をしてい……慣れただけか。

 ただ、嬉しそうなのはわかるのだが、若干、いや、だいぶん? ハァハァハァハァハァハァハァハァと荒い息遣いが暑苦しいが……。


 まぁ……これからもこうして行動を共にする事になるのなら、名前ぐらい付けてあげた方が良いのではないかと思った。


 そんなウォリアードッグたちと戯れつつ、簡単な意志交換をしつつ、一五分ぐらい待った頃だろうか。


「ばぅわぅ♪」


 無事にパズが帰ってきた。

 桁違いに強いのはわかってはいるが、それでもホッと胸を撫でおろす。


「おかえり、パズ! 怪我とかしてないか?」


「ばぅ!」


 もちろんかすり傷一つしていなかったが、心配なものはしょうがない。

 そもそも見た目が目つきは悪いがカワイイチワワだからな。


「それでさぁ、パズ。こいつらなん……「ばぅ」」


 ……どうやらパズは眷属舎弟には厳しいようだ。


 嬉しそうに尻尾を振って迎えたウォリアードッグたちは、労いの言葉をかけられることもなく、召喚を解かれて消え去ったのだった。


「・・・・・・」


「ばぅ?」


「いや……また今度話すよ。それより、盗まれた物は見つかったのか?」


「ばぅわぅ♪」


 ちゃんと誰にも気づかれる事無く、見つけた・・・・から褒めるのだ! と伝えてきたので、頭を撫でてからコリコリと掻いてやると、嬉しそうに尻尾を振って目を細めた。ペジーもこれ好きだったんだよな。


「よくやったな! さすがパズだ!」


 ただ……何故だろう? オレは特に勘など良い方ではないと思うのだが、何か凄く嫌な予感がした。


「ま、まぁ、気にしても仕方ないか。あと、待ってる間にこいつらが襲ってきたんだが、怪我だけは出来ればパズの魔法で治しておいて欲しいんだ?」


「ぅぅ~ばわぅ!!」


「いやいやいや。消滅って、そこまでしなくて良いから! と言うか、消滅って何だよ!?」


「ばぅっふっふ♪」


 絶対零度を超える魔法を使えば証拠も全て残らないよって、目が怖いから!?

 元々三白眼で目つき悪いけど、今、すっごい悪い目してるから!?


 確かにあの迷宮主に使った魔法を使えば、証拠も残さず、何もかも粉微塵に消え去るんだろうけど、さすがにそこまでするつもりはない。


「ま、まぁ、こんな奴らにそこまでする必要はないから、とりあえず脅すだけ脅して、解放するよ。それで、怪我を治す前に氷で拘束しておいたりできる?」


「ばぅ!」


 お安い御用だよ! って……うん、オレが言葉足らずだったね。


 後ろで威張っていた男が……。


「ぱ、パズ……全身氷で包む必要はないんだ。出来るなら手足だけとかで頼めるかな?」


 控えめに言って窒息死する死んじゃう


「ばうーー?」


「うん。手足だけでいいから。あと、早くこいつの氷解いてあげないと、息できないから……」


 しぶしぶ、ほんとにしぶしぶと言った感じで、手足だけ残して氷を消すパズ。


 良かった。これで、氷は創れるけど消せないとか言われたらどうしようかと思った。

 一瞬、ぶらっくパズさっきのパズ証拠も残さず言葉が頭をよぎったのは内緒だ。


 そんな若干物騒な事を考えているうちに、全員の拘束が終わり、治癒までさくっと終わらせたようだ。


「ありがとう。パズ。助かったよ!」


 あとはこいつらを叩き起こして、脅して解放でもするか。


「あ、脅すなら、ウォリアードッグたちを呼んだ方が良いかな?」


 パズはあいつらよりも桁違いに強いけど、傍から見たらただのチワワ……ってか、こっちの世界にはチワワなんて犬種いないから、みんなどう思ってるんだろうな?


 いや、まぁとにかく、適材適所って奴だ。


「ばぅ~?」


 パズが、え~? あいつらいる~? とか拗ねているその時だった。

 何だか急に表の通りの方が騒がしくなったのだった。

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