【第43話:救出作戦】
突然走り出したミヒメに一瞬出遅れてしまったが、すぐにオレとヒナミも後を追うために駆け出した。
「ミヒメ! 一体どうしたんだ!?」
オレが声を掛けたからか、それとも距離を詰めた事で何かを確信したのか、ミヒメはすぐに立ち止まって振り向いた。
「やっぱり……ユウト、わからないの? あれよ、あれ!」
「え? もしかして……あれって……」
なんだ……? ヒナミも何か気が付いたようだが、オレだけまだ何のことかわからず、ちょっと焦る。
「美姫、指さすのスト~ップ! ユウトさん、それとなく、さっき美姫が指をさした辺りをよく見てみて」
まだ何かわかっていないながらも、ヒナミに言われた通り、さっきミヒメが指をさした辺りをよく見てみる。
「濁った氷? 珍しいな」
普段、パズが創り出す氷は驚くほど透明度が高い。
だというのに、よく見るように言われた辺りには、一面少し白く濁ったような透明度の低い氷の山がいくつも出来ていた。
「……え……そう言う事か、あれ、街の人たちか!?」
小声で叫ぶという器用なことをしてしまった。
よく見てみると、その氷に隠れるように、男が一人倒れているのが見えたのだ。
「いや、一人だけじゃない……」
よく見てみると、周りにはいくつもの濁った氷のようなものがあり、そこには何人もの人が横たわっていたのだ。
「これってまさか……皆を庇っているのか」
何人もの人を庇いながら、あれほど高度な戦いを続けているというのか……。
パズ……お前はいったいどれだけ凄い奴なんだ……。
しかもよく見てみると、ダミーのつもりなのか、何もないところにもたくさんの氷を創り出している。
「くそっ……お前の横に並び立とうと思ったら、どれだけ頑張らないといけないんだよ……ったく」
「ゆゆ、ユウト……それだけじゃないわ……あれ、庇っているだけじゃなくて、治療までしてる……」
「なっ!? ほ、本当なのか……」
「うわぁ……美姫の言う通りだ~パズってば、本当に凄すぎるよぉ~」
あのとてつもない強さの魔人を相手にしながら、戦闘の余波で傷つかないように庇い、さらには怪我人に回復魔法までかけているというのか……。
なんだよ、パズ。
職業クラス『勇者(犬)』って、チートすぎだろ。
それに……
「でも……オレたちにも出来る事が見つかったな」
「え? ……あっ、そういう……」
「うん!」
二人ともオレの言いたい事をすぐに理解してくれたようだ。
「パズが必死で守ってくれている人たちを、オレたちの手で救出するぞ!」
そこからオレたちは、氷の影で横たわる傷ついた街の人たちの救出を開始したのだった。
◆
救出作業は順調に進んでいた。
回復魔法に関しては、人数が多く、しかも気付かれないように戦闘しながら行っているせいか、強力なものではなく、応急処置に留まるようなものだった。
だけど、それでもその回復魔法によって救われた人は何人もいた。
表面的な火傷を治療するだけで、止血して貰うだけで助かる命があった。
そんなパズの繋ぎとめた命を、オレ達は慎重に一人ずつ運び出した。
すぐにパズもオレたちの行動に気づいたのか、バレないように、魔人の視界にオレたちが映らないように戦ってくれた。
本当にどこまで凄い奴なんだ。
途中から、オレたちの行動に気付いた何人かの街の人たちが、戦いの場から少し離れたところで怪我人を受け取って運んでくれるようになり、倒れている人もあとわずかとなった。
しかし、さすがに奥で倒れている人たちを気付かれずに運び出すのは無理があった。
「さぁ、ここからはオレたちも魔人に狙われる覚悟で、救出に向かうぞ」
「わ、わかってるわ。勇者を舐めないで!」
「うん。こ、怖いけど、頑張ろうね」
今までの救出中も、戦いの余波だけでオレたちは軽い火傷を負いそうになったほどだ。二人ともやはり怖いのか、見るからに緊張していた。
だから、ちょっと馬鹿なことでも言って緊張をほぐしてやろう。
「おぅ!
「ちょっと! 私たちにそんなの付いてないから!!」
「ふふふ。ついてたら面白かったのにね~?」
少しはマシになったか。
「はは。悪かったって。……じゃぁ、そろそろ取り残された人たちを助けに行くぞ」
ここから確認できる範囲だと、まだ息があってパズの氷によって隠されている人の数はちょうど三人。
今までは、出来るだけ固まって連携し、一人ずつ確実に助けていったが、残りの三人は位置的に確実に魔神に見つかる。
だから、少しでもターゲットを分散できるように、三人同時に救出する作戦に出る事にした。
中でもオレは、一番魔人とパズの戦いの場に近い人だ。
「次、パズが氷柱を撃ち込んだら、一斉に飛び出すぞ!」
「「りょうかい!」」
そして、その瞬間は訪れた。
「今だ!」
オレたちが一斉に飛び出すと、パズもそれにあわせて、今まで以上に大量の氷柱をばら撒いてくれた。
魔人もオレたちに気付いたようだったが、今までの氷柱による攻撃が遊びだったのかと思えるほどの凄まじい数の氷柱に、防戦一方になっている。
良し! これならいける! そう確信した瞬間だった。
「まったく、小賢しい真似をしてくれる」
パズの魔法に防戦一方になっていたはずの魔人が、突然オレの目の前に現れたのだった。
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