女の子の部屋でドキドキゲーム時間 5

 あおいの家は、そこそこの坂道を少し疲れるくらい登ったところにあるらしい。

 方向的には、俺の家とは真反対で、帰りは少し急がないといけないなと思う。


 そして、あおいの家に着く。

 あおいに招かれるままに、家に入る。

 元気のいいあおいのお母さんに、「あおいとはどういう関係なの?」と、とてもニヤニヤしながら訊かれた。

 いや、別に特に面白いことはないんだが。


「もう、お母さん! 余計なこと聞かないでよ!」


 葵はかわいらしく顔を少し赤らめて、恥ずかしそうにしている。


「な〜に? もしかして、そういう関係なの?」


「ぜ、全然そういうのじゃないよ。もう、お母さんは黙ってて」


「ただの友達です。あの、これ、つまらないものですが、どうぞ」


 そう言って、来る前に買っておいた、三日月堂のクロワッサンを手渡す。


「あらあら、これは、ご丁寧に。どうも、ありがとう」


 そう言うと、ほほ笑みながら、引っ込んでいった。「これ以上居ると、葵に怒られそうだから」と呟きながら。


 それにしても、あおいのお母さんは恋バナ好きの女子校生という感じだな。

 たぶん、娘が男友達を連れてきたのは初めてのことだったのだろう。

 そんなふうに思いながら、なにとはなしにあおいを見る。

 あおいはなぜか、しゅん、としていた。

 けど、次の瞬間にはいつもの葵に戻っている。


「えっと、ゆうくん。それじゃ、付いてきて!」


 そう言って、俺を自分の部屋まで案内してくれる。

 ただ、俺はこのときのあおいの顔が、どうしても頭から、はなれてくれなかった。

 今もあおいの、しゅん、とした顔を鮮明に思い出せる。

 少し悲しそうで、それでいてなにかを諦めたようなそんな顔。

 とても、普段のあおいからは想像もできないような顔だっただけに、それはあまりにも印象的だった。


「えっと、ここが私の部屋だよ」


 そんなことを思っているうちに、葵の部屋に着いたようだった。

 俺はそんなあおいの声で、意識が現実に戻ってきたような感覚をおぼえる。

 そして、あおいが扉を開け、俺は先に中に入ると、そこには実に女の子らしい空間が広がっていた。

 あおいの部屋はぬいぐるみだとか、そういったかわいいものが部屋のほとんどを支配していた。

 それは、俺の思ってる葵のイメージとよく一致する。まさに、解釈一致。

 基本的に部屋の中は綺麗に片付けられており、白と淡いピンクを基調とした葵の部屋は、より綺麗にみえた。

 まるで、葵の心のように。

 女の子の部屋に初めて入ったこともあって、俺はちょっとした感動を覚える。


「……もう、悠くんってばっ! そんなに部屋の中をじろじろと見られると、恥ずかし、い……」


 本当に恥ずかしいらしく、葵の発した言葉は尻窄しりすぼみになっていた。

 俺はそんなあおいの様子が、一層かわいくみえて、少しいじめたい気持ちが芽生える。

 これが、そういう人たちの気持ちなのかと、少し理解できた気がする。

 けど、ここは素直に言うことにする。


「ご、ごめん! 女の子の部屋とか初めて入ったから、ちょっと物珍しかったもんで、さ……」


「私だって、男の子を部屋にあげるなんて初めてのことだって言ったじゃん! ……それで、どう? もしかして、子供っぽいとか思った?」


 葵にそう言われ、確かに子供っぽいな、とも思う。

 けど、そこも含めて、やっぱりあおいらしい。

 なんというか、俺から見たあおいという女の子はそういう存在なのだ。


「確かに、少し子供っぽいところもあると思うけど、全体的に可愛らしくて、あおいらしい部屋だなって思ったよ」


 自分でも、言ってて少し恥ずかしくなってきて、顔が火照っているのがわかる。

「そっ、か……。、か……」葵はそう呟くと、「ちょっと待ってて!」と俺に言って、部屋を出ていってしまった。

 俺はあおいにそう言われたということもあり、大人しく、部屋で待ってることにする。

 そして、しばらくすると、あおいがお菓子とジュースが乗った、アンティーク調のおぼんをもって戻ってきた。

 お菓子の近くには、俺の買ってきた三日月堂のクロワッサンが二つ、皿にのっている。

 そして、あおいは楽しそうにこう言った。


「ねえ、悠くん。これから、私と『ゲーム』しない?」


 俺としては別に構わなかった。

 というか、どっちかといったら、その方が助かる。

 あおいの家に来たのだって、用事が特にないからだ。

 それに、やりたいことがあるわけでもない。

 だから、俺は丁度いいと思い、葵のそんな提案を受けることにする。


「わかった。それで、なんのゲームをしようと思ってるんだ?」


「えっ? ほんとに、いいの? やったー! それじゃーねー……。マリヲカートとかどうかな? 私、このゲームは昔やってたけど、最近はやってないんだ。私、久しぶりにやるんだけど、勝てるかな……」


「マリヲカートか……」


 正直、俺はかなり上手いほうだと思っている。

 ただ、さすがに今回は、少し手加減をすることにしよう。

 そうでもしないと、勝負にならないことも考えられる。

 それに、なにか罰ゲームとかがあるわけでもないわけだし。


「それじゃ、マリヲカートをやろう」


 俺がそう言ったら、葵の口から爆弾発言が投下された。


「ねえねえ、せっかくだし勝負しない? 勝った人が、負けた人に、なんでも命令できる、っていう罰ゲームつきでっ!」


 勝負か。

 しかも、勝った人が負けた人になんでも命令できるというもの。なんでもいうことは、本当になんでもいいのだろう。

 こうなったら、手加減なんてしてやるわけにはいかない。

 この勝負、負けられない。


「……わかった。その勝負を受ける」


 葵への罪悪感を感じながらも、自分の中にある欲望を抑えることなんてできなかった。

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