女の子と食事はデートというのだろうか? 3

 これが表と裏ということなのかとそう思う瞬間だった。


「えっ……? ああ、うん」


 あまりのことに、俺は生返事を返してしまう。


「ああ、あんたもいつも通りにしゃべりなさいよ。気を使わずに。それと、私がワニを食べたことがあるって話、他の誰にも言わないでちょうだい」


 小さいのに(どことは言ってない)態度は大きいのかよ。


「なんで?」


「そういうイメージがつくから。もし言ったら、あんたが私にしたこととしてないことをしたって言うわよ?」


 いや、俺はそもそも何もしてないわ! と、そう思うのだが、言われると俺がしたことになりそうなので、「わかった」と、そう答える。

 こういう時って、事実とか関係なく男が悪いということになるんだよな。

 そんなときに、ふとカラスのことを思いだす。

 そして、ワニを食べたことがあるという話。


「ここに来る途中で、カラスをうっとりした目で見てたけど、それってもしかして──」


「うん……? ああ、あんたの想像通りよ。そう、私はカラスが食べたくて見てたのよ」


 俺の話を途中で遮り、彼女はそう言った。

 てか、まじか。つまり、そういうことだろう。


「それじゃ、他にも食べてみたいのや食べたことのある変なものがあるってことか?」


「変とは失礼ねっ! 食材に謝りなさい。でも、まあ、そういうことよ。ここまで話したんだから、絶対に秘密にしなさい。墓場までもっていくつもりで、よ……?」


 こうして、俺は入学して2日で、面倒ごとに巻き込まれたのだった。

 ……って、どんな地雷だよ。想定外過ぎるわ。



「それで、他にどんなものを食べたことがあるんだ?」


 俺は、単なる興味本意で聞いてみた。


「そうね……。たしか、初めて食べたのはウサギだったわ。そのときは、私は好き嫌いが激しくてね」


 それで、どうしたら食べようと思ったのだろうか。

 普通は嫌がると思うのだが……。


「で、ある日お父さんに言われたのよ。『食べたこともない食べ物の味がわかるのか?』てね。それから食べれる物の味が気になるようになったの。だから、他には、カエル、イナゴ、クマとかを食べたわ」


 お父さんは良いことを言ってる。

 それと、お前のお父さんさんの言葉が俺の心に刺さるんですが……。

 てか、それでどうしたらそんなものが食べたくなるんだよ!


「そして、今はカラスが食べてみたいのよ。そこら中飛んでるのを見てたら、どんな味がするのか気になっちゃったの」


 いや、そんな理由で食べたいなんて普通は思わねえよ。普通の人間はそんなことじゃ、食べたくなったりしねぇーよ。


「あっ、そうそう。あと、人肉なんかも食べてみたいわ。どんな味がするのかとても興味があるのよね」


 こいつ、少しサイコパスな気がするんだが……? 可愛かったら何をしても許されるわけじゃないんだからな!

 てか、俺もいつか殺されて食べられるんじゃないか?

 やめろ、その、人を食材かなんかだと思ってそうな目で俺を見ないでくれ。


「ああ、安心してちょうだい。もちろん、まだ食べたことはないから。それと、あんたのことはちょっとしか食べたいと思ってないわ」


 そうじゃなきゃ困るし、それが普通なんだよ。食べたことがあるとか言い出したら110番だわ。

 てか、ちょっとでも俺を食べようと思ったのかよ……。


「それじゃ、俺はティラミスも食べ終わったわけだし、そろそろ帰ることにするよ」


 赤里が怖いからな。そう、立ち上がりかけると、


「ちょ、ちょっと待ちなさい……!」


 そう言われた。そして、俺の鞄を赤里は自分のところに持っていき、中身をあさりだす。


「おい、なにすんだよ!」


 けど、彼女は答えることなく、しばらく俺の鞄をあさり「よし、ある」と呟くと、俺にやっと返してくれた。

 まあ、取り返してもよかったんだけどな。

 下手すると、俺が通報されかねない。小さい子を襲おうとするヤバいやつとして。そんなわけだから、こうして静かに見守ってただけだ。他に理由はない。そう、他に理由はない。


「今、私に失礼なこと思ったでしょ。というか、幼稚園児を~、とかそんなことを思ったでしょ」


 いや、そこまで具体的には思ってない。そう、そこまで具体的には。

 てか、どんだけ勘が鋭いんだよ……。地獄耳ならぬ地獄勘かよ。

 これからは気をつけなくては。


「そ、それで、なんなんだよ」


 俺は、彼女の質問に一切答えず、あからさまに話を変える。


「予想外のことがあったから少し寄りたい所ができたのよ。だから、あんたも付き合ってくれる?」


 俺が付き合う理由がどこにあるんだよ、とそんなことを思っていると、


「それと、ここの代金払ってくれる……? 私、財布を家に忘れちゃったのよね」


 そういうことか。俺はなんとか抵抗を試みてみるも、結局無駄に終わった。

 そんわけで、俺は仕方なく彼女に付き合うことにするのだった。



「明日、ちゃんと返せよ」


「わかってるわよ! ちゃんと明日返すわ。今から寄る予定の店の分も合わせてね。だから、安心しなさい! 払いたくなくてあんたを殺そうとかちょっぴりしか考えなかったわ」


 それをちょっぴりでも考えたお前が、俺には怖いよ。

 俺は仕方なく、ファミレスでの代金を代わりに支払った。こいつが明日返すというので、そういうことになったのだ。

 そして、彼女はふと足を止める。

 そこは、商店街とかにはよくあるカメラとかマイクとか、そういった電子機器を取り扱ってるお店だった。


「ここなら、ありそうね」


 彼女はそう呟くと、その店に入っていく。

 俺も彼女の後ろをついていくように、その店に入る。

 彼女は目当てのものでも見つけたのか、「あっ!」と声を漏らすと、俺の右腕を掴んでレジに向かう。

 まあ、財布を忘れたわけだし、俺がいないと買えないからな。

 そこでも、俺が代金を支払った。



「で、何を買ったんだ?」


 俺はちょうどいいからと、あのあと目覚まし時計を買った。

 そして、今は駅に向かって大通りを歩いている。

 そんなときに、俺はこの気まずい空間に耐えきれず、そう訊いたのだった。


「明日から使う予定のものよ」


 彼女に何を買ったのかということをあきらかにはぐらかした。

 けど、そういうことなら、どうせ明日にはわかるというわけだし、そのときでいいかと思う。

 その結果、結局気まずい空間は続いた。



 時間も割といい感じだったため、俺は妹に早めに連絡をしていた。遅れるとうるさいからだ。

 そして、ふと俺は空を見上げる。空は綺麗な赤色に染まっていた。


「そういえば、あんたも電車通学だったわよね?」


 そう俺に声をかけ、続いていた沈黙を破ったのは赤里だった。

 俺はそんな質問に、あのときのことを思い出す。

 そのせいで、あのときの恥ずかしさから、自分の顔が赤く染まっていくのがわかった。

 けど、それは彼女も同じだったようで、顔をそらしている。

 そして、ちょっとの沈黙の後、


「その、どこで降りるの……?」


 彼女はまだ、少し恥ずかしさが残っているのか、よそよそしく俺にそう訊いた。

 そんな彼女を、俺はかわいいと感じる。


「3つ隣りだよ。えっと、白楽駅……」


「そう。それなら、同じ方面のようね。私は菊名駅なの。それで、あんたに一つだけお願いしたいことがあるんだけど……その、聞いてくれる?」


 そのとき、上目遣いに頼んできた彼女のあまりの可愛さに、不覚にもドキリとしてしまった。

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