女の子と食事はデートというのだろうか? 2
夜ごはんは、まあいつも通りだった。
あえて話すとすると、終始無言は当たり前の、いわゆる凍りついたような食卓だった。
唯一、出来上がってる夜ごはんだけが温かく、救いだった。
そして、俺はいま、究極の二択を迫られていた。あの子と私、どっちが大事なの……! みたいなことを言われたわけじゃない。ただの、ソシャゲの話だ。
つい先程、運営から最高レアリティーキャラの選択チケットなるアイテムが配布された。
選択できる4体の中でも、うち2体のキャラで、俺はどちらにするか悩んでいた。
片方は強キャラ、片方は好みのキャラ。
この悩みを例えるなら、ラブコメのラノベやマンガで、結ばれてほしいキャラが主人公と結ばれなかったときのような感覚だ。
数分後、俺は好みのキャラを愛でていた。
うん、イベントなんて気合いで乗り越えられる。そう、軽く自分に自己暗示をかけておく。
「お兄ちゃ、ん」
部屋の中で俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「きも」
「えっと、部屋に入ってくるときぐらい、ノックしてほしいんだが……」
「はっ? ノックならしたけど。てか、そんなんいいから、早く風呂に入って。お兄ちゃんが入った後に、私が入るんだから」
なるほど。好みのキャラを愛でるのに夢中になっていたせいで、ノックに気づかなかったというわけか。
そのあと、俺はさっさと風呂に入り、早めに寝ることにしたのだった。
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「お兄ちゃん、朝。だから起きて。早く、起きて、お兄ちゃん」
「う~ん」
妹のかわいらしい声を聞きながら部屋にある掛け時計を見る。
時刻は6時30分。
いつも通りだな、と思いながら目を覚ます。
「早く準備して。朝ごはん食べてから、学校に行ってね」
いつも通りのことを言われた。キモいがなかったし、妹様の機嫌は大分ご機嫌らしい。なにがあったのやら……。気にはなるが、気に留めない。
てか、そろそろ目覚まし時計を買おう。
俺はそう決意する。このままじゃ、さすがにちょっとだらしなさすぎる。
毎朝毎朝、妹に起こしてもらう兄とかなんか、いやだ……。
そんなことをぼんやりと考えながら、手早く支度を済ませ、学校に行く準備を整える。
俺は朝ごはんを食べ、昨日と同じくらいの時間に家を出た。
学校に行く途中で響鬼を見つけ、昨日のソシャゲでの苦悩について話した。
響鬼も同じソシャゲをしているので、同じことを思ったらしく、昨日の苦悩を分かってくれる。
結局、響鬼は強キャラを選んだそうだが。ふっ、バカなやつだな。イベントなんて、気合いで乗り越えればいいのさ。
そして、特に何かあるわけもなく放課後になった。
俺は追記で来ていた連絡通り、昇降口で待っていると、彼女が来る。
「お待たせしました。その、待ちましたか……?」
彼女の髪型は昨日と同じツインテールで纏めており、やっぱり可愛いな~、なんて思う。
「いや、俺もさっき来たばっかだから。それじゃ、行こうか」
もちろん、嘘は吐いていない。実際、さっき来たばっかなのだ。
だからデートとかでよくみるあれとは全く違う。そう、全く違う。
「……はい」
彼女が少し笑ったような気がするが、きっと気のせいだ。
そんなわけで、俺は歩き出す。
そして、彼女に手を差し出してみる。
しかし、彼女はそんな手を気にする様子もなく俺の隣に並んできた。
……って、スルーかよ! なんかしらのリアクション寄越せよ! せめて、拒絶ぐらいしてくれよ! と、心の中で突っ込む。
あらかじめ行こうと予定していたファミレスに向かってる途中、カラスを見かけた。
赤里鈴音の目がなぜか輝いて見えた。美味しそう的な意味で。気のせいだろうが。
まあ、鳥が好きなのだろう。
野鳥愛好会にでも入ってるのかもしれない。いや、入りたいのかもしれない。
カラスが特定で好きだとかそういうことはないと思う。あんな見た目なわけだし。
まあ、そんなことがあったが、ファミレスに無事到着する。
ちなみに、俺はここでバイトをしようと考えている。つまり、下見も兼ねているというわけだ。せっかくだからな。
中を見る限りこの時間はあまり混んでいないようで、ポツポツと席が空いてるのを確認できる。
そして、俺たちは店に入ると、店員さんのもと、空いてるソファーのある席に通される。
店員には俺たちがどう見えてるのだろうか? とか思いながら俺はメニューを見る。きっと、店員にはリア充か、滅びろ、とか思われてるだろう。男性だし。
そして、俺は『ほろ苦い大人のティラミス』なるものに決める。
「その、赤里さんはどれにするか決まった?」
「…ニ……より、え、ああ、はい。決まりました」
何か考えこどでもしてたのか、反応が少し遅れて返ってきた。けど、決まってるようなので俺は呼出ボタンを押した。
彼女はイチゴパフェを頼んだようだった。
もちろん、メニューにはイチゴパフェじゃなく、なんか長い名前が載ってたのだがちゃんと覚えてない。
それを頼んだ本人である彼女は、とても幸せそうな顔で食べている。けれど、どこか物足りないといった感じのようにも見える。気のせいかもしれないけど。
俺はといえば、ほろ苦いとかいてあったはずのティラミスが、思ってたよりも苦くて、失敗したなぁー、なんて思いながら食べている。
もしかしたら、俺は苦いものが苦手なのかもしれない。
普通の時間が過ぎ去っていたはずなのだが、彼女が、
「ワニのが……わね」
と、そんなことをポツリと呟いたのが聞こえて──。
……って、ワニっ!? 今、食べてるのイチゴパフェのはずなのに、ワニっ!?
不思議に思って俺は、
「その、ワニを食べたことあるんですか?」
「えっ……! い、いえ、ないわ! ないですよ?」
思わずそう訊くと、彼女は誰が見てもわかるほど、あきらかに動揺しながらそう返した。
もちろん、今の彼女の答えが嘘であるということは誰でもわかる。
つまり、
俺はどうすればいいのかわからず黙ってしまう。そのせいで、なんとも微妙な空間が生まれた。
そんな空間を打破するように、彼女は「はぁー」と、どこか諦めたように一度ため息をついて、
「あるわよ! ワニ、食べたことがあるわ! あんた、確か柊悠と言ったわよね?」
と、人が変わったようにそんなことを言った。
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