トイレの中で妹の友達と二人きり 3

 そんなわけで、俺は6時間目の授業は寝て過ごした。

 というより、俺が起こされたときには、授業はすでに終わっていたので、たぶん寝てしまったのだろう。

 それも、熟睡で。

 ちなみに、俺を起こしてくれたのはあおいだった。

 あおいからはどこか少し呆れたように、「もう、授業は真面目に受けなきゃだめだよ……?」と、言われた。

 あおいのその言葉は、本当にごもっともなので、ぐうの音一つでない。

 ただ、ここから説教というのは困るので、露骨に話を変えようと試みることにする。


あおいって、勉強できるのか?」


 無理だった。

 とりあえず、徐々に話を変えていくことに、ジョブチェンジする。


「う~ん、どうだろう……。よくはわからないけど、たぶん、人並み程度、かな……」


 俺の考えは、上手く言ったようで、話の内容がそれる。

 とりあえず、俺は目的が上手く成功したことに安堵する。


「でも、ゆうくんよりは、できるよ? だって、授業中に寝ちゃうような人だもん。私、授業中に寝たことなんて一度もないんだから!」


 そこで胸を張ることで、あおいについている二つの大きな双丘は、より大きく強調される。あのときのことも少し思い出す。

 俺は目のやり場に困ったので、少し目をそらして、なんとかあいつを鎮める。

 俺は、ドキドキしっぱなしのまま、あおいと他愛のない会話に花を咲かせる。

 そうこうしてると、学校側から、『イチャイチャしてるんじゃねえ!』とでも言いたげな、絶妙なタイミングで、ホームルームの始まりを知らせるチャイムが鳴った。



 俺は、響鬼ひびきに校門の方で待ってるように連絡をいれると、俺は赤里あかりのもとへ向かっていた。あれを回収するからだ。

 ただ、今回はいつもと違って少し急いでいた。



 ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、赤里あかりから『私、今日、用事がある、早く来て』と、片言な日本語の文が送られてきていた。

 それを既読すると、できるだけ早く赤里あかりのもとへ向かおうと席を立つ。

 しかし、そこで、あおいのことを思い出し、先にあおいと一緒に帰るか聞くことにする。

 あおいに話しかけると、あおいには用事があったようで、「本当はとても一緒に帰りたいんだけど、というか、一緒に帰ろうと思ってたんだけどね。その、があるから、ごめんね!」と、言われてしまった。

 あおいにも友達ができたのか、それともアルバイトがあるのか、それはわからないが、用事があるというのじゃ、仕方ない。

 一人そう思いながら、「別に、いいよ」と、そう優しく返してあげた。

 と、俺が今度こそ赤里あかりのもとに向かおうとすると、響鬼ひびきから返事がきていた。『わかったよ。僕は、お邪魔虫にならないように、先に校門に行って待ってればいいんだね?』その内容を読み、俺は響鬼ひびきの満面の笑みが頭に思い浮かぶ。

 会ったらあいつの顔面でもぶん殴ってやろう。

 俺は、密かにそれを決意して、今度こそ赤里あかりのもとへ急いだ。


 俺はいつもの場所に来ると、もうすでに赤里あかりは来ていた。


「遅いわよ! 私からの呼び出しなんだから、一分で来なさい!」


 どこの女王様だ……? と、赤里あかりのわけがわからん話にイラッときながら、


「俺は、お前の奴隷じゃない」


 そう反論する。

 ただ、こういうのは理屈なんかじゃないらしく、


「女の子からの呼び出しなんだから、それが当たり前なのよ!」


 そう言われた。

 なんとも理不尽な話だ。

 もう少し、あおいのことを見習ってもらいたい。もしかしたら、あれはあおいの素じゃないのかもしれないが……。

 ただ、赤里あかりは自分の言いたいことを言えてスッキリしたからなのか、すぐにあれを回収しだす。

 そして、それが終わると、「私は、急ぐから」と、それだけを言い残して行ってしまった。

 俺は、そんな赤里あかりの様子に、漠然と台風みたいなやつだなと思った。



「こうしてゆうと二人で帰るなんて久しぶりだね」


 響鬼ひびきのどこか気持ちの悪い発言に、俺は心の中で引きながら、吐き捨てるようにこう言う。


「お前がもし、かわいい女の子だったらそのセリフを発してもいい」


 響鬼ひびきは親友のようなものだ。

 けど、響鬼ひびきとは一度も喧嘩したことはない。

 相手の本当に嫌がることは、しないから。


「でも、僕は、君が言うにはイケメンなんだし、似たようなものじゃないかな?」


「全然ちげぇよ!」


 俺は、響鬼ひびきのわけわからんボケにそう返す。

 そんな俺たちの関係は、深いようで、浅い。


「まあ、もし僕が君の立場で、あんなことを言ってこようものなら、あまりの気持ち悪さに、殴ってるかもしれないけどね」


「なら、やめろよ。俺だって、気持ち悪すぎて吐きそうだったわ!」


 響鬼ひびきの言葉にそう返す。

 少しの日にち、喋っていなかっただけなのに、そんな会話にどこか久しいものを感じる。

 響鬼ひびきとの他愛のない会話を楽しみながら、下り坂をゆっくりとくだっていく。

 こんな平和な日常が、永遠と続けばいいのに、なんて漠然と思いながら。

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