打ち合わせの後は愛合傘 3
「いい? 人の容姿は基本どうしようもないの。どんなに背が高くなりたいと思ってても、背は伸びない。胸が大きくなってほしいと思っても、大きくならない。努力で少しはどうにかなるかもだけど、それは微々たるものなの。そういうものに対して悪く言ったんだから、なにをされても文句は言えないわよね?」
なるほど、実体験か……。これはかなり説得力のある。感情がしっかり籠もった言葉だ。
あれから、しばらくがみがみ言われながらそんなことを思う。いや、これは思って大丈夫じゃ……ないな。また気づかれたら面倒くさいし。
「さて、なにをしてもらおうかしら」
どうやら気づかなかったらしい。なんというか、安堵する。そして、すぐに不安を誘う言葉が聞こえてくる。
「いや、だからな? 俺も悪いとは思ってるんだよ。だから謝っただろ?」
「そういうのは、謝ればいいってものじゃないのよ。そもそもね、そんなことを言うこと自体悪いんだから。まあ、そういうことだから諦めて制裁されなさい」
なんとも理不尽なやつだ。だがまあ、それが
彼女と言えば理不尽、そんな感じだ。
そう思うと、なんか微笑ましいような気もしてきた。
「なに、ニヤけてるのよ。ただでさえキモいその顔が、もう、見るに堪えないソレになってるわよ」
「制裁はその程度に──」
「なに言ってるのよ。今のはただの感想でしょ。そもそも、ニヤけるところなんてどこにあったのよ」
あれだけ人の容姿が──とか言ってたくせに。まあ、そんなこと気にしても仕方ないので諦める。それが彼女だ。
「それで? 制裁ってなにするんだ?」
「そうね……。考えてみたけど、パッと思いつくものもないし、貸し
「貸し、いち……?」
「そうよ。パッと思いつくものがなかったし、今度思いついたときにでも制裁することにするわ」
「えっと、それはなくなったりは──」
「するわけないでしょ。制裁は制裁よ。絶対に受けてもらうから覚悟しなさい」
発端というか、始まりが俺であることはもちろん認めるのだが、制裁を受けるのが俺だけでないことは確かだろう。
ただまあ、ここで抵抗しても無意味であるということは理解してるので、素直に「はい」と答えた。時には諦めることも大事なのだ。
✻
太陽も沈み、ただ暗闇が街を支配するそんな時間、俺は女の子と一緒に歩いている。夜道をとびっきりかわいい女の子と一緒に歩いている。
そんな、字面だけなら誰もが羨むであろうそんな状況。周り、というか周囲の人たちから見たら、俺と
いや、別にそう見られていて欲しいとか、そう見られたいとか、そういうわけじゃない。
ただ、俺の隣にとびっきりの美少女がいて、そんな状況を客観的に見たら、俺たちは付き合ってるように見えるのかな? なんていう、単なる疑問、純粋な懐疑心からそう思っただけで、彼女のことを意識してとか、そういったことではない。
けど、まあ、付き合ってるように見えてるとしたら、隣のやつ
まあ、隣を歩いてるやつの背が低いからな。そんなことを思ってると、
「あんた今、なんか失礼なことでも思ってなかった? 具体的にはそうね……私が子供っぽいとか、そんな感じね」
「えっ? いやー、別にそんな具体的なことは思ってない」
いや、本当に勘がするどいなっ! どうしたらそこまでわかるようになるんだよ。ここまでくると、呆れるというよりも、尊敬の念を覚え始める。
こいつ、絶対に自分の悪口を聞き逃さないタイプだな。いわゆる、地獄耳。
「そう、
そう言って、俺の元まで迫ってくる
「で、なんて思ったわけ?」
「いや、そんな、おまえとは関係ないことだよ」
嘘だ。大嘘だ。めちゃめちゃ関係ある。それでも、俺は一塁の望みを懸けて嘘をつく。もう、めんどくさいのはごめんだ。それに、思ってたことすべて話すことになるのだとしたら最悪だ。さすがにそれは、恥ずかしすぎる。
そんなことを思っている最中にも、
「……そう。まあ、それならいいけど……」
どうやら気づかれずに済んだらしい。いや、気づかれてないのか、気づかなかった振りをしたのかはわからんけど。でもまあ、なんとかはなった。
ただ、問い詰められなかった理由はよくわからない。まあ、今後嘘をつくときの参考にでもしよう。
けど、そのときの
で、それを本人は精一杯隠そうとしてるような気がして、なんとなく俺も、もやもやする。
そう、
「ねえ、今から少し話をしてもいいかしら?」
「一々そんなことを聞く必要あるか? さっきまでだって、普通に話してたわけだし、別に構わないけど」
「そういうことじゃないわよ。ただ、少し長くなる話だったから、前置きとして聞いたの。それで、話してもいいわけ?」
「うん……? まあ、特に話すことがあるわけでもないしな。駅までまだ時間も掛かるだろうし、ただ沈黙が続くよりも、その方が楽だしいいよ」
なんとなく
そんな、いつもとは違う雰囲気を
そして、そんな彼女は俺の庇護欲をそそり、そんな様子に俺はドキリとしてしまう。
けど、そんな
そうじゃない、これじゃない、そんな感じだ。そう、まるで目の前の彼女は
俺が一人そんなことを思っていると、
「私が本を書こうと思ったきっかけは、あんたの絵だった」
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