打ち合わせの後は愛合傘 4
予想もしていなかった
「きゅ、急になんだよ。お前らしくない」
「なっ……! べ、別にいいじゃない! そういう意味で言った言葉じゃないわよ。そもそも、あんたへの言葉じゃなくて、イラストレーターyouに向けた言葉なんだから。なにを勘違いしてるわけ? それに、あんたが、youが描く絵が好きなだけで、あんたにはこれっぽっちも興味なんてないわよ」
もちろん、言いたいことはなんとなくわかる。でも、言ってることは完全に支離滅裂というか、わけがわからない。
ただまあ、好きだと思った絵を描いてるのが誰かを知らないでそう思ったことにより、それを描いてたやつがまさかのお前かよ的な感じであると勝手に解釈させてもらうことにする。
例えば、その絵を描いたやつが犯罪者だったとしても、その絵には罪はないし、それが良いものだったりしたら、誰がの部分は気にならないようなものと同じだ。たぶん。
「そ、それで、元の話に戻るけど……」
まだ、さっきのことを少し引きずっているらしく、
「えっと、一ついいか?」
「なによ。まだなにかあるわけ?」
「いや、そういうわけじゃなくて、その、書こうと思ったきっかけは聞いたが、それでなんで書こうと思ったんだ?」
そうだ。たまたま、俺の描いた絵を見たとして、作品を書くだけの力があるだろうか? いや、もしあったとしても、それは俺の絵を見て書き始めてるわけだから、他の人がイラストを描けば、どこかイメージと合わないと思うのではないだろうか。
なんというか、こういう絵をイメージして~、という、自分の中にあるイメージを思いながら文を書いていくのだとしたら、イメージするのはやはりきっかけとなった絵になるわけで……。絵を描く人が変われば、どんなに似てても、絶対に違う部分、違和感がある。なんとなく、こう違うという感じがする。輪郭や線のタッチとか……。
「あー、えっとね。そうね。まあ、今から話そうと思ってたことよ。というか、あんたが変なところで茶々を入れてくるから、こうなったんでしょ」
「えっ、あー、悪い。その、そういうつもりはなくて……」
「いいわよ、そんなこと」
そして、
「私ね、もともと本が好きだったのよ。一人でいるときに本を読むと、周りのことなんてどうでもよくなった。本を読んでると、ワクワク、ドキドキした。とても、楽しかった。あっ、もちろん、ラノベの話よ?」
そこで、彼女は可愛らしく微笑み、俺の方を見る。そんな彼女の美しい姿にドキリとし、そこで、まだ少し肌寒さを残した春の日暮れ時のそよ風が、
その風に乗って、ふわりと女の子特有の甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐった。
ああ、かわいい…………、なんて彼女に見惚れていると、
「ちょっ、なによ。なにかおかしいところでもあるわけ? そんな気持ち悪い目で、私のことを見つめてほしくないんだけど?」
「えっ? あー、いや、悪い。……って! 気持ち悪かったか? そんな目で、俺はお前のこと見てたか!?」
「見てたわよ、普通に。これからは犯罪者予備軍として接したらいいのかしら?」
「やめろ。それに、そんなことで犯罪者予備軍になんてなりたくない、というか、犯罪者にすらならんだろ」
と、俺は言ってみるが、
「てか、お前、ボッチだったのか?」
「なっ! 違うわよ! 全然、そんなこと、あるわけないじゃない! 私がそんなわけ、ないでしょ」
「いや、まあ、そうか……」
「そうよ!」
あまりの気迫の強さに、思わず肯定してしまった。なんというか、否定が否定じゃない否定みたいな感じだったような。……いや、わけがわからないだろうが、俺もわけがわからない。
「それでだけど、私は本を読んでたら、書いてみたくなった。自分の思い描いたストーリーを文字にして、具現化して、一つの作品として、残してみたいって、思った。こんな私でもできるなら、本気でやってみたいって思った。人の心を感動させるほどの物語を書いてみたいって。でも、そのときはそこまで強い思いでもなかったの。少し、気恥ずかしさもあったしね」
「気恥ずかしさ?」
そういうもの、なのだろうか。正直、俺にはよくわからない。俺が描くのは文ではなく、絵だ。絵を描くにあたって、一番必要なのは上達することではなく、ひたすらに自分が未熟だと思い続けること、だと俺は思っている。だから、気恥ずかしさというのは感じたこともなかった。だから、赤里のその言葉は、よくわからない。
「そう。自分の思ってることを書くのって、なんというか、最初は少し抵抗があったのよね。特に、人に見られると思うと」
「それで、どうしたら俺の絵がきっかけになるんだ?」
「いや、そんなときにあんたの絵と出会ったのよ。あんたが描いた、一枚のイラスト。その絵を初めて見たとき、ズキュンって、胸を撃ち抜かれたような思いになったのを今でも覚えてるわ。そして、同時にこう思ったことも。この人の描いた絵の作品を作りたいっ! てね」
「それだけで、書こうと思うものなのか? だって、大変じゃないか? 物語を作って、それを一つの作品として仕上げる。俺なんかの絵がそこまで──」
そう言いかけて、その言葉は止められた。彼女のたった一言で。
「そういうものなのよ」
その一言に、俺は妙に納得してしまった。そっか、と、それしか返す言葉もなかった。
だって、
「それに、あんたの絵は、一人の心を掴むぐらいには、力のある絵だったのよ」
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