《幕間》風呂場の奇跡

 風呂。

 いつもなら俺が妹よりも先に入ってる。

 まあ、当たり前だ。妹が洗いものをしてくれているのだから。

 そして、父親は帰ってくることがほとんどないし、母親はもういない。

 それで、家事は妹がやってくれてるというわけだ。

 俺は何をやってるのかって?

 妹の手伝いをしようとしたんだが、なぜか、邪魔だから何もしないで、と言われた。

 と、何が言いたいのかと言うと、妹よりもあとに風呂に入るなんてことは、久しぶりだということだ。

 で、妹から、


「お兄ちゃん、風呂で変なことしたら殺すから」


 なんてことを言われてしまった。

 まあ、殺すってのは比喩表現だろうけど……。比喩表現だよな……? そうだよな!

 もちろん、なにもするつもりもないし、するわけがない。

 だって、俺はシスコンじゃないからな。そう、シスコンじゃないからな……!

 ただ、もし妹に彼氏ができたときには、俺の用意してる十の質問に答えてもらう予定だ……。

 いや、マジでシスコンでもなんでもないからな……?

 お風呂のお湯を飲もうとか、少しも考えてない。

 そんなわけで、俺は風呂に入ることにする。

 風呂に入るなり、ふわっとした香りが鼻腔をくすぐる。

 なんでだろう。なんかいつもよりもいい匂いがするような気が……。

 いや、気のせいだな。

 妹のあとだからとか、そういうことなわけじゃ、ないな、うん。プラシーボ効果とかそんなものだ。

 それか、ただの石鹸の匂いだ。



 それから俺は、なにごともなく風呂を満喫してから出る。

 そして、妹が使ったバスタオルとは別のバスタオルを使って体を拭いていると、脱衣所の扉が開いて──。

 ……って!


「ここに置いて──お、お兄ちゃん……!? 風呂に入ったんじゃないの? まだ、10分ぐらいしか経ってない、よね……? も、もしかして、風呂に入るってのは嘘で……。って、死ね死ね死ねー! まじキモい! まじ最低! まじ死んで!」


 俺は慌てて、さっきまで体を拭いていたバスタオルで体を隠す。が、とき既に遅しだ。

 そして、俺は動揺を隠せずに妹に言葉を返す。


「ち、違うって! それより、なんでお前がここにいるんだよ!」


「えっ……? いや、お兄ちゃんのパジャマを持ってきたあげたところなんだけど……? それより、まだ10分しか経ってないのに、お兄ちゃんこそなんでお風呂から出てるの?」


「えっと、その、風呂から出て、体を拭いている最中だったんだけど、そんなに早いか……?」


「早い!」


 うちの妹様から、食い気味の早いを頂いてしまった。

 いつもとあんまりかわらないはずなんだけど……。

 まあ、それだけ俺に興味がないというわけか。

 ……なんか虚しいし、悲しい気もするが、きっと気のせいだ。


「と、とにかく! ここにパジャマ置いとくからね!」


 妹は顔を真っ赤にしながら、そう言い残して行ってしまった。

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