入学式の日は蜜の味 2
「えっと、俺は柊悠って、いいます。その、君は?」
普段、友人と話すときとは違い、少し詰まりながらも、彼女に話しかける。
俺にとって、女の子と話すってことがドキドキして、緊張する。
女の子を前にしたときに、動揺して話せないようなキモヲタよりは何倍もマシなはずだが。
それに、俺みたいなのは女の子と話せるということだけでテンションがあがる。
「あっ、えと、私は
そんな感じで、俺たちは自己紹介を交わす。歩きながらのはずなのに、お嬢様のような完璧な所作だった。
そこで、俺はあらためて、隣を歩く彼女のことを見る。やっぱり美少女と言っても申し分ないほどかわいい。綺麗じゃなくて、かわいいんだ。
清楚な見た目で、赤い髪の毛をツインテールにまとめている。
そんな彼女の髪型は彼女の魅力をより引き立てていた。
さらにいえば、背丈が低いのもポイントが高い。
解釈一致というやつだ。
ただ、同じ制服を着てなければ小学生と見間違えそうだ。
と、そんな風に彼女を見ていたからなのか、
「その……、私、何かおかしな所がありますか?」
鞄を持つ手を後ろに回し、首を傾げながら俺のことを下から見上げ、そんなことを聞いてくる。
おかしな所があるかどうかだったら、あなたのそのかわいさがおかしいんですよ、と思わず答えてしまいそうになるのを抑える。
けど、彼女のその仕草もまた、反則級にかわいい。
俺は少し動揺しながらも、「な、なんでもない」と返しておいた。
さて、会話のネタがない。
そして、俺に面白い会話をするセンスもない。
そうなれば、必然と沈黙が訪れる。
こういうときは、二人の共通の話題なんかを話すのがセオリーかと思うも、この場合はそれもかなわない。
朝のことははできれば思い出したいものではない。
結局、俺はそのあと、せっかくのかわいい子に話しかけることもできずに、ただただ気まずい空間ができてしまっていたのだった。
けど、彼女に学校へ一緒に行くことを誘ったことは後悔していない。
少し気まずい思いをしてるのも事実だが、かわいい女の子の隣にいることができたのだからそれですべてよしだ。
ただ、気まずい状態のまま学校に着いてしまう。
しかし、彼女とはクラスが違うようなので、俺と彼女は下駄箱を前にして、別れることとなった。
別れ際、俺に向かって、彼女が手をふってくれた気がした。
俺が教室に入ると、そこには既にそれなりの人数がいた。
しかし、彼らは中学の頃からの知り合いなのか、すでにグループのようなものができており、そのグループで話している。
もちろん、俺がそんな輪に入ることなどできるわけもなく、一人で過ごすことになった。
寝たフリでもして、この場をやり過ごそう、なんてことを思っていたら、話しかけられた。
「その、柊悠くん、だよね?」
誰だろう、と俺は顔をあげると、俺の目の前に本日二度目の美少女が現れた。今日はついてるな。そう思う。
だって、一日に二度も美少女と会えるなんてこと、そうそうない。
いや、あるわけがない。
まさに、運命のようなものだ。
「そう、だけど、その、誰ですか?」
俺は素直な疑問をぶつける。
けど、俺が思い描いてた反応は返って来なかった。
「えっ……?」
「はっ……?」
なんか驚いてるようだった。
「えっ……! もしかして、忘れちゃったの? 私だよ! 葵!
百花葵……? 誰だ? いや、確か俺が小学生の頃のときに、そんなやつがいたような気がする。
なんとかして、記憶の蓋をこじ開ける。
えっと、確か、小学生のときのクラスメイトだったはずだ。
でも、確か遠くに引っ越したはずなんだが……。
「その顔、どうしてって感じだね。戻ってきたんだよ!」
葵は俺の疑問に答えるかのように教えてくれた。彼女は「ぐうぜんだねぇ~」なんて呟いている。
すると、近くにいた男子生徒が彼女にぶつかった。
そのせいで、バランスをくずしてしまう葵。
それと、ほとんど同時に「キャッ……!」という彼女の短い悲鳴が聞こえてきた。
俺は彼女が倒れないようにと思い、右手を伸ばした。
結論から言うのであれば、彼女は倒れずにすんだ。
それはいいんだ。それはよかったんだけど、俺の伸ばした右手は、女子特有の二つの大きな膨らみのうちの一つを
「ゆ、ゆゆ、悠くん……!?」
葵もそれに気づいて、ものすごい勢いで顔を真っ赤に染めていく。
……って! 俺はいつまでさわってんだ……! 俺は触り心地のいいその感触に、少し後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、急いで手を引っ込める。
周りからは、特に気にされてる様子はなかった。
というより、彼らは話に夢中のようで、ぶつかった男子も「ごめん」とは言っていたが、それだけだった。
なんとも誠意の籠もってない、ごめん、だ。
「あ、あれは、その、君が倒れないようにと──」
「……れて!」
「えっ? えっと、そしたら、その、そうなっただけで……」
「そうじゃなくて!」
「その、単なる事故で──」
「忘れてって言ったの!」
「えっ、あっ。そ、それはもちろん!」
「絶対、だからね……?」
「はい。その、ごめん」
彼女は顔を見ると、赤面しながら俺のことを見ていた。
それにしても、初めて触ったけどやわらかかったな、あれ。ごちそうさまです。
「思い出すのも、だめだからね?」
「そ、それはもちろん!」
「絶対、だからね……?」
胸元で手を組みながら、上目使いで可愛く頼まれたら断ることなんてできやしない。
そんことを思ってしまうほどに彼女は可愛かった。ショートの黒髪で、胸も大きいのだから最高である。もちろん、妹よりも胸は大きい。
「うん、絶対忘れる」
あの感触を忘れるのはもったいないがしかたない。なんて考えていたら教室に先生が入ってきた。
「私は担任の
俺たちは先生の指示のもと廊下に並び、入学式をする体育館まで向かったのだった。
それから、入学式も終わり、俺もボチボチ帰ろうと準備をする。
気づいたときには葵はもう教室にいなかったから、たぶん、入学式前に起きたことを気にしてるんだと思う。
俺はとりあえず、中学の頃からの友人に連絡しようとしていると、
「その、朝のときはごめんなさい……!」
なんだ? と、少し顔をスマホから声の方に上げると、朝に駅であったあの女の子がいた。しかも、謝られていた。
「いや、別に謝らなくていいよ? もう気にしてないからさ」
そんなとき、ふと葵が教室から出ていく姿が見えた。
なんか、急いでるようだが、なにかあるのだろうか。
「その、お詫びがしたくて」
あるところが大きい美少女に意識を取られていると、あるところが控えめな美少女に話しかけられ、思考をそこで中断する。
「いや、本当に気にしなくていいよ?」
「それでも、なにかしたいんです。そうしないと私の気がおさまらなくて。なので、何か私でもできることはないですか? なんでもいいので」
その、君みたいなかわいい女の子がそんなことを言ってくると、俺的にはエロいことをしたくなるんだよ。胸はまあ、大きくないけども。
「あの、もちろん、エッチなこと以外、ですよ……?」
丁度、そのことを考えてたタイミングだけに、見透かされたような気分になる。
まあ、気のせいだろうけど。
「う~ん、それじゃさ、ファミレスで奢ってもらうのはどうかな?」
「えっと、ファミレスですか? はい、わかりました」
そのあと、俺は彼女と連絡先を交換する。
そういや、女の子と連絡先を交換したのは義務的なのを除けば初めてだな。
そう思うと、なんだかとても自分が哀れに思えてくる。
「あの、その、さようなら!」
彼女は思いきりペコリと頭を下げ、俺の方を見ると、はにかむように笑ってからその場をあとにした。
それにしても、本当にかわいい。てか、かわいさってのは偉大だな。多少あれが大きくなくても問題ないように思えてくる。妹より小さいけど。うん、天は二物を与えず……。
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