女の子の部屋でドキドキゲーム時間 7

「お、おい、葵!」


 俺は、ベットのうえに押し倒されている状況のあまりのヤバさに、どうにかなりそうな頭を気合いで動かしながら、葵にそう声をかける。


「なに? 悠くん」


 葵はなんの躊躇ためらいもなく俺の上にまたがってきた。

 女の子一人ぐらいなら、簡単にどかすことができると思う。

 でも、もしこれが命令となにか関係があるんだったら、俺は何もすることができない。そう思うと、葵自身から命令がなんなのかを訊くまで、俺にどうにかすることはできないことになる。

 その状況で男一人があれを我慢できるわけもなく、完全に変な気持ちになってしまっている。

 もし、葵が勝ったのではなく、俺が勝っていたのだとしたら、俺はもう葵の二つの大きな塊に触れていたかもしらない。

 俺がそんな思考を繰り広げていると、葵が俺の顔の耳元まで自分の顔を近づけて、こう言った。


「ねえ、悠くん。私がなんの命令をすると思う?」


 そんな葵の言葉はどこかしこもエロく聞こえてしまった。

 もしかしたら、葵が俺の上にまたがってるからなのかもしれない。

 この状況から葵がしようとすること。

 それが命令ということだと思う。

 俺は相変わらずベットに押し倒されたときのままの姿勢で、これから葵がなにをしようと考えてるのかを考える。

 ヒントはこの状況で間違いないだろう。

 けど、俺の頭の中には、さっきからエロいこと以外が全く浮かんでこない。

 なにをしようとしてるのか?

 それを考えれば考えるほど、俺はなんとか自分の欲望を抑え込むのに苦労する。

 そんなことを真剣に考えてたこともあり、時計の針が今、何時を指しているのかなんて、


 結局、どんだけ考えても葵が今からなにをしようとしてるのかわからなかった。

 もちろん、エロいことならいくらでも浮かんできた。

 けど、葵に限ってそんなことをするとは思えなかった。

 そのへんにいるギャルとかならともかく、あの真面目な葵が、そんなことをするとは思えない。

 だから、葵がしようとしてるのはエロいことじゃないことだけはわかる。

 だから、俺は降参しようと思い、今まで待ってくれていた葵にその旨を伝えると、


「そっ、か……。やっぱり、悠くんは変わらないなぁ~。悠くんは悠くんなんだね」


 彼女の表情自体は笑顔だった。

 けど、俺は彼女のその笑顔が、どこか歪なものにしか見えず、どう反応するのが正解なのだろうと考えてしまった。

 結局、俺は葵に何も言葉を返すことができないまま、話は進んでしまった。

 彼女が見せた歪な笑顔は、あのときを彷彿ほうふつとさせ、脳裏に深く刻まれる。

 俺がそんなことを考えていると、部屋の扉が急に開いた。

 俺はその予想外の事態に面食らいながらも、開いた扉の方を見る。

 そこには、葵のお母さんが立っていた。


「あら、おばさんはお邪魔みたいね~。でも、やるんだったら時間も気にしてするのよ~。あっ、それと、安全にね」


 葵のお母さんはやさしくそう言い残し、部屋の扉を静かに閉め、すぐに行ってしまった。


「て、お母さんっ……! 部屋に入るときぐらいノックしてっていつも言ってるでしょ!」


 葵は顔をカァーっと真っ赤にさせながら、今はもういないお母さんにそう言っていた。

 ただ、こうなってしまってはあとの祭りでしかない。

 俺は、あれをなかったことにして、


「それで、葵の命令って、その、なんなんだ?」


 いつもと同じように葵に声を掛けようとしたが、途中で言葉をつっかえてしまった。

 思ってるよりも動揺しているのかもしれない。

 俺のその言葉に、葵もどうすることもできないことがわかったのか、葵は俺にまずこう言った。


「えっと、お母さんには、その、私の方から誤解だって伝えておくね」


 そして、彼女は俺の上からどくと、俺を起こしてくれる。

 俺はてっきり、あの状況が関係してることをすると思ってたため、思わず葵にこう聞いてしまった。


「……? 葵がしようとしてたことって、あの状態に関係してることだったんじゃないのか?」


 葵はその質問がくることがわかっていたのか、それともその質問が特に意外なことでもなかっからなのか、


「悠くんは、そういうことを考えてたの?」


 余裕たっぷりで、俺のことをからかってきた。

 事実、俺はそういうことも考えてしまっていたので、まさに図星ではあった。

 ただ、葵は俺がすぐに反論してくると思っていたようで、顔を真っ赤にさせながらこう言った。


「えっ、嘘!? 悠くん、最低だよ!」


 これは、俺が悪いわけじゃないと思うんだが……。

 そもそも、葵の方からそのことを訊いてきたのだから、いわゆるただの自爆でしかない。自業自得だ。

 葵もそれがわかってるからなのか、それ以上それについてなにかを言ってくることはなかった。

 それにしても、葵のこの反応からして、あの状況は全く関係なかったということだ。

 きっと、葵のお母さんがあのとき訪れたのは、男の気持ちを弄んだ罰があたったということなのでは? と、俺はそう思う。

 ただ、そこに俺が巻き込まれていることを除けば。

 そこで、本来の話を思い出し、俺はもう一度葵にこう訊く。


「それじゃ、葵は一体、どんな命令をする予定だったんだ?」


「えっと、私がしようとしてた命令はね──」


 葵はそこから考え込んでしまった。

 つまり、考えてなかったということだ。

 それか、しようとしてたことができなくなったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺が時間を潰してると、なにを命令するのか決まったのか、葵は顔をあげ、俺の顔を見つめてこう言った。


「それじゃ、悠くんには今度、私に付き合ってもらえるかな?」


 俺は最初、なにを言われたのか全く理解することができず、「えっと、そのもう一度言ってくれる?」そう聞き返してしまった。

 葵は「も~!」とかわいい反応をしながら、手を胸の前で合わせて、


「今度、私と付き合ってくれるかな?」


 もう一度同じことを言ってくれた。

 つまりは、俺の聞き間違いとかでもなく、葵はそう言ったということだ。

 葵はさっきとは違って、自然な笑顔を浮かべながら、


「ふふ、悠くんには拒否権なんてないんだからね?」


 俺のことをからかうような微笑を浮かべた葵から、そんなことを言われた。

 俺は、そんな葵のあまりの可愛さに、ドキリとしてしまった。

 何も返事をしないのもよくないと思い、


「ああ、わかった」


 俺はぶっきらぼうに、そう返した。

 俺のそんな様子を、葵は実に楽しそうに見ていた。ただ、葵の視線はここじゃない、どこか、遠くをみてるような気もした。

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