女の子の部屋でドキドキゲーム時間 4

「どうしたの? 早く行こう?」


 なぜか、あおいは上機嫌なっている。全然理由がわからないが……。

 でも、機嫌がよくなったわけだし、いいか。

 とりあえず、また歩き出す。


「そういえば、あおいの家ってどこにあるんだ?」


 行くことが決まったのは別にいいんだけど、どこに家があるのか知らなかった。

 帰るのが遅くなると怖いからな。場所がわかってないと、帰る時間もまた変わってくるというもんだ。


「今、家に帰るときのことでも考えてるでしょ?」


「えっ……? い、いや、その、考えて、ないぞ?」


 なぜわかる。何でわかるんだよ!

 余計なことは考えないようにしよう。これからは気をつけよう。また、そう思う。


「はぁ~。考えてたでしょ? わかってるんだから。まあ、いいや。今日はいいことがあったから許してあげる」


 よかった。

 てか、許すってなんだよ!? いや、まあ、深くは考えないようにしよう。なんか、考えちゃいけない気がする。

 それと、なぜか赤里あかりは黙って静かにしている。

 というか、ニコニコしてるだけで、会話に参加する気はないらしい。


「で、あおいの家ってどこにあるんだ?」


「うん? ああ、学校の最寄りの駅があるでしょ? そこから、3つ目の白楽駅のところだよ?」


「白楽駅? それじゃ、俺の家からの最寄りの駅と同じところか」


「えっと、それじゃ同じ駅だね」


「へえ、朝あったことなんてなかったし、まさか同じだったとは思わなかったよ」


 そう、彼女とはまだ一度も会ったことがない。

 学校行くときならまだしも、帰るときも会ったことがない。

 まあ、学校始まってまだ、そんなに経ってないからかもしれないけども……。

 それにしても、あおいと同じ駅で、同じ電車通学だったのは意外というか、驚いた。

 思ってたよりも、世界は小さいなと思う。

 と、そんなことを思ってると、唐突に赤里が口をひらいた。


「私も電車通学です」


 なにが言いたいのか全くもってわからないが、なぜかキレてることだけはわかる。

 そんな赤里の言葉に、あおいは心底どうでもよさそうに、「そうなんですねー」と、棒読みで返していた。

 俺は返事すらしてないし、まだ葵のがマシなのかもしれないが、いや、どっちもどっちな気がする。

 てか、せめて棒読みだけはやめてあげられなかったのだろうか。

 まあ、それだけどうでもよかったのだろう、葵にとっては。

 と、そんなどうでもいい、他愛のない会話をしてると、学校の最寄りの駅に着いたのだった。



「それでは、また明日」


 そう言うと、一つ前の駅で赤里あかりは電車から降りていった。

 思ってたよりも電車の中はこんでなく、あおいと二人きりになっても、あのとき赤里に対して思った感情はなかった。

 そもそも、混んでなければ赤里あかりにもならなかっただろう。

 それにしても、あおいの機嫌がさっきよりもよくなった気がするのだが、絶対に気のせいではない。明らかによくなってる。

 ただ、理由はよくわからない。


「私、男の子を部屋に呼ぶなんて、初めてで緊張するよ~」


 唐突に、あおいはほほ笑みながらそう言った。

 というか、ほほ笑んでるというより、ニヤけてるといった方が正しい気がする。

 てか、初めて……!? 今さらのことではあるのだが、あおおは今、初めてと言ったか? つまり、俺はあおいの初めてを──。いや、キモいな。今のは俺でもわかる。


 キモい。


 けど、ちょっと待て。

 俺だって女の子の部屋に行くのは初めてだし、どうしたらいいのか全然わからない。

 てか、初めてってことを意識したら、なんだか緊張してきた。

 そして、俺の心臓の鼓動はバクバクと早くなっていく。

 どうしよう、心臓の音が葵に聞こえてないかめっちゃ気になる。

 そんなことを思っていると、俺の中での緊張なんか知る由もないはずのあおいに、


「どうしたの? もしかして、緊張してるの?」


 からかうようにそんなことを言われた。

 心臓のバクバクいってる音が聞こえてるのか、それともあおいも緊張してるからなのか……。

 どっちなのか判別できるわけもなく、なんとも言えない気持ちになる。

 そしてあおいが俯いている俺の顔を覗き込むように俺の顔を見てくる。

 そんな彼女に、よりいっそうドキドキしながらも、顔がカァーっと赤くなっていくのがわかる。

 と、タイミングがいいのか悪いのか、三つ目の駅に到着したのは、そんなときだった。



 俺は、あおいの家に行く前に、なんかしら手土産をと思い、駅の近くにあるクロワッサンが美味しいことで有名なパン屋、『三日月堂』に寄ることにした。

 その店の一番人気のオーソドックスな味のクロワッサンと、三番人気のチョコ味の二種類を一つずつ購入する。クロワッサンは全て、三日月の形をしている。

 店名の由来はこれだろうと、なんとなく察する。

 ちなみに、二番人気はクロワッサンではなく、もちもち食感が売りの食パンだった。パンの耳までもちもちしており、小さい子などにも人気なんだそうだ。

 と、そこで、ポケットから財布を取り出す。中身は思ってたよりも心もとない。

 ただ、クロワッサンは手頃な値段で、一つ130円。

 まあ、なんとかなるか。

 ちなみに、購入する前にあおいは、


「そんなのなくてもいいのにー」


 とか言っていた。

 まあ、そういうわけにもいかないからな。

 誰かの家にお邪魔するのに、手土産一つなしというのは、礼儀というものがなってなさすぎる。

 初めて行くわけだし、第一印象というのも大切なものだ。

 そういったところはしっかりとしなくちゃならない。

 それに、その方が落ち着く時間も取れて、一石二鳥といったところだ。


ゆうくんってさ、クロワッサン好きなの?」


 葵が俺にそんなことを聞いてくる。

 クロワッサンを買ったからだろうか?


「まあ、好き、だけど、なんで?」


「ここのパン屋さんがクロワッサンが有名だってことを知ってる感じだったから。だから、好きなのかなぁ~って」


 もともと有名だってこともあったのだが、あくまでそっちはたまたまだ。

 でここに来たことがあって、そのときのことを覚えていただけだ。まあ、今はそんな話は関係のないことだ。

 俺はお金を支払って、店員さんからクロワッサンを受け取る。

 そして、パン屋に寄って少し遅れた分を取り返すかのように、あおいの家に急ぐのだった。

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