妹を助けるのが兄ではダメだろうか?
兄が妹を思うのは自然なことだろ?
それから、俺はしばらくの間、ただただ呆然と立ち尽くしていた。なにをしたらいいのか、なにをすればいいのか。正解はなんのか。
それすらも考えられないほど、俺は動揺していた。いや、違う。そもそも、何をしたらいいのかすら思いつかない。何をするべきなのかもわからない。
けど、そこに残った二つの傘を見るだけで、俺の心は誰かに思いっ切り心臓を掴まれたかのように痛む。
相変わらず周囲の音はどこに消えてしまったのか、全く聞こえてこない。
そうして、俺がなにもできないでいると、隣にいた
それは、まるでなにもないモノクロの世界となってしまった俺の世界に差す、光のようだった。
「私にあんたのことは関係ない。あんたの事情なんかどうでもいい。だから、今のことについてはなにも聞かないし、今後もその話はしないわ。だから、とりあえず私へのお礼をして頂戴」
俺は
きっと、それが
けど、不器用なその言葉は、俺の心の中の深く深くに突き刺さる。
そして、段々と周囲の音も戻り始め、そして自分のすべきことを理解し始める。
世界に色が、光が戻り始める。
そして、俺は手始めに、
「
「なっ! なによ! べ、別に、あんたのことを思って言ったわけじゃないから!」
そうして、俺は心にも少しずつ余裕がうまれる。
なんたなく、俺が
「ほら。これ、あんたらのでしょ。あそこに放置したら邪魔でしょ。持って帰りなさい」
そう言われ、俺は押し付けられるようにしてそれを受け取る。
「なあ、
「なによ」
「お前へのお礼のことなんだが──」
「なに言ってるのよ。今は私よりも大事なことがあるでしょ。早く行きなさい。あんたにはやるべきことがあるでしょ。そういうのは、全部終わったあとにお願いするから」
そう言って行こうとする
「
「なに? まだなにかあるわけ?」
「本当にありがとな」
「そんなのいいから、とっとと行きなさい! 私はあんたのためじゃなく、自分のために言ってるだけだから。そこんところ、勘違いしないでちょうだい」
「わかってる」
そうして、
俺は、そうして一人になって、また不安に襲われる。
けど、俺は手元にある二本の傘を強く抱きしめ、気持ちを引き締め直す。
雨は相変わらず打ちつけるような勢いのまま降り続けている。
そして、
そんなことを思い出し、今すぐにでも走り出したい気持ちを一旦抑え、俺は手元にある自分の傘を差してから、家に帰るのだった。
もしかしたら、
家に着くと、鍵は閉まっていた。今日は鍵を持ってから家を出てる。
遊園地に行く際、先に出たのは俺だったのだが、念の為で用意してたため、その流れで持っていった。
けど、玄関の鍵を開ける前からなんとなくわかってしまった。家の中に
けど、どうしてもまだ、期待していた。鍵は閉まってるだけで、中には
そう思いながら玄関を開けると、そこには暗闇が広がっていた。
それはどこまでも続いてるのではないかと錯覚してしまうような真っ暗闇で、ただただ絶望が体を支配し始める。
けど、俺はそんな考えを振り払う。
俺がそんなことで諦めていいはずがない。こんなんじゃ、
「よしっ!」
俺はそう声を出して気合いを入れ直すと、とりあえず家にある部屋の中を探すことにした。
一通りの部屋を探し終えた。そして、ここが最後の部屋だった。
それは、
普段なら入ることすら許されない。いや、こんなときでも、人の部屋に勝手に入るなんてことは許される行為なわけがない。
それでも、俺は入ると決めていた。ここが最後に残ったら、ここも確認すると。
そして、少しばかりの緊張が場を支配する。
ここを見ていなかったらどうしようとか、もしここに
けど、そんな考えは捨てる。そんなものは今の俺が考えることじゃない。
だから、俺は意を決したように部屋のドアを開け放った。心の中で『ごめん』と呟きながら。
「これは……」
部屋は奇麗に片付けられていた。
どこか隠れられる場所すら少ない。
けど、その部屋の様子は
とりあえず、俺は部屋の中に入り、人が一人入れそうな場所だけを一つ一つ確認する。
けど、
本当にどこに行ってしまったのか。
とりあえず、家の中にはいないとわかった。
他に心当たりのある場所なんて、どこもない。だって、俺は
実の妹だというのに、俺は
そこでまた、俺は絶望する。
けど、そんなときに、家に電話が掛かってきた。
その音はまるで希望の光のようで、
『あー、あー。あんた、
電話の向こう側から聞こえてきたのは
けど、この人が
もし、
「そうですが、誰ですか?」
『まあ、動揺せずにちゃんと聞け』
そう言って、彼は喋り出したのだった。
今の
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