第3話 門閥貴族
翌日。
正直、あまり眠れていない。
カルチャーショックと、言いようのない憤り、無力感……そういった感情も有りつつ。
ともかく、現状を変えたい。
オリオンに相談しよう。
女の子の立場が悪くならない様に注意しつつ。
コンコン
オリオンの部屋の戸を叩く。
キイイイ
ややあって、扉が開き。
「おはよう、トウヤ。早いね。うわ、何だか凄い顔をしているね」
オリオンが笑顔で出てくる。
オリオンの部屋にも、少女がついていたのだろうか。
「おはよう、オリオン。その……こういうのはやめて欲しい」
オリオンに少女の事を相談。
オリオンの顔から、笑みが消える。
滲み出る怒気。
あ、オリオンってこんな顔もするんだ。
地雷を踏んだ……?
異世界の常識を蔑ろにしたからか……?
「……その少女と話して良いかな?何があったか、想像はつくのだけれど」
オリオンが、疲れ切った声でそう言った。
--
「初めまして、お嬢さん。ちょっと聞かせて欲しいんだけれど。誰の指示でここにいるのかな?」
「え……あの……その……」
オリオンは、優しい声で、
「オクドゥルア公爵家?」
少女が、俯く。
「全て話してくれるかな?僕は、オリオン・リア・セリア・アルカディ。この国の第三王子だ。君の力になれると思う」
「……あの……」
ぽつり
ぽつり
少女が話し始める。
少女には、一緒に活動していたパーティーメンバーがいた。
パーティーメンバーの一人が、貴族に言い掛かりをつけられ。
パーティーメンバー全員が捕まった。
他のパーティーメンバーの無事を条件に。
少女は、この部屋で待機し、住人にその身を捧げる様に命じられた。
相手が固辞するフリをしても、無理矢理関係を持つ様にと。
「まあ、大体は想像通りだね。この部屋は、本当はオクドゥルア公爵家の四男が住む予定だったんだけど……僕の部屋の近くを嫌がって、無理矢理部屋を変えたみたいだね。ちょっと、動いてくる」
……なるほど。
少女が、ぎゅっと俺の服を掴む。
オリオンは、険しい表情を浮かべると、部屋を出ていった。
--
少女──スノウと名乗った──と話す事しばし。
俺が異世界の話をしたり。
スノウからこの世界の事を聞いたり。
オリオンが戻ってきた。
表情は明るくない。
「ごめん、なるべく動いたのだけれど。あまり良い状況にはならなかった。とりあえず、オクドゥルア公爵家の息子は退学させた。ただ、オクドゥルア公爵家は門閥貴族……そもそも、今回の件、この国では違法では無い。オクドゥルア公爵家には何の掣肘も無いので、あなたがオクドゥルア公爵家から逆恨みされる可能性は否定できない」
「そうですか……それで、他のパーティーメンバーは……?」
「……ごめん。既に売り払われ、一人は既に他界。残りの二人も、この国では違法性は無いので、取り返せない」
オリオンが肩を落とす。
くしゃり
スノウが、へたり込む。
「それで、君の事なんだけど……正直、解放して外に出て貰うのは危険だ。ほとぼりが冷めるまでで良いから、トウヤの身の回りの世話をお願いできるかな?侍従待遇で給与は出すし、この学園内くらいなら、安全を保証できるよ」
「……よろしいのですか?」
「うん。他の召喚者には、数名の侍従をつけているしね。ちょうど良いかな」
スノウが尋ねると、オリオンが笑う。
あれ、俺、待遇悪すぎ?
まあ、オリオンやスノウと知り合えたのは、個人的には大満足だけど。
あれ。
「なあ、オリオン。門閥貴族に手を出せない筈なのに、よく息子を退学させられたな」
「ああ。それは単に、僕がアイゼルの奴を挑発して、アイゼルが僕に殴りかかって。王族に手をあげた罪で投獄されただけだ。普通なら即断首なんだが……流石はオクドゥルア公爵家。退学だけで手打ちになったよ」
……なるほど。
「さて、午前中の授業はドタバタで潰れてしまったが。午後からは授業がある。一緒に行こうか」
「ああ、行こう……スノウ、のんびりとしておいてくれ」
「うん、御飯を作って待ってるよ」
スノウが、真剣な顔でそう言った。
いや、別に、本当に侍従として働かなくても良いのだけれど。
--
授業は、初日だからオリエンテーションと、この国の歴史と、世界情勢と……
まあ、まとめると。
この世界、唯一の国、アルカディ。
地方都市が叛乱、犯罪者の巣窟となっている賊軍が3箇所。
それに加え。
魔王復活が予見されており、そちらへの対応も必要。
後は……
育った地域に応じて、得意な能力が変化するらしい。
普通は、一定の年齢で発現、その後は固定されるが。
召喚者の場合は、基本的、召喚された場所に依存する。
俺も、この国のスキル、
自分以外のパーティーメンバーの能力値上昇、自分以外のパーティー支援魔法等が得意。
……ソロで使えねぇ……
効果は、本人の才能より、相手の才能や親愛度依存。
俺以外の召喚者は、この
そりゃまあ、優遇されるよね。
現実へと意識を戻す。
焦げたパン、不思議な色のスープ、焦げた肉……
「あの……ごめんな、トウヤ。うち、料理は……その、苦手で」
ベッドがぐしゃぐしゃになったり、カーペットがまくれ上がったり、水浸しになったりしているので、多分、料理だけじゃない。
「ごめん、食堂で御飯分けて貰ってくる」
「いや、大丈夫……でも、今度、一緒に御飯作ろうか」
俺も、料理上手い訳では無いけれど。
「有難う。御飯、頂くよ。一緒に食べよう」
がり
うん、焦げてるけど、食べられない訳ではない。
異臭とか、何故か物を溶かすとか、そんな事もないので。
大丈夫、大丈夫。
「うう……トウヤぁ……」
スノウが、泣きながら抱きついてきた。
頭を撫でる。
「ウチ、頑張る。トウヤの役に立てるよう、色々練習するから!」
かり
そう言うと、スノウも料理を食べ始めた。
--
「これは?」
「んーん?なんか、部屋の前に落ちてたで?何やろ?」
スノウが取り出したのは、粗末な木箱。
中には……
?!
宝石や、本、紙……
何だ……?
紙や本は、文字と数字と……表……?
ちなみに、転移者特典で異世界言語理解があるので、ちゃんと読めはする。
「何やろ?何かの取引の記録?」
スノウも小首を傾げ、
「ん……オリオンに見せてみるかな」
--
「……トウヤ……これは……?」
呆然として、オリオンが問う。
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