第9話 王位簒奪

「聞かせて貰おうか」


聞くだけ。


「申し遅れました。私はライトニングと申します。イトニとお呼び下さい」


何故そこ。


「私の目的は……アルカディの第四王子、オリオン・リア・セリア・アルカディの暗殺です」


それ親友っすわ。

あと、第三王子な。


「親友の暗殺を宣言された以上、看過できない。牢屋にぶち込んで貰おう」


「ちょ、ちょっと待って下さい?!」


イトニが叫ぶ。


「そうだ……報酬、報酬が有るんです」


イトニが、兜を取る。

美しい緑の髪が流れ。

金色の目が輝き。

凄く美人だ。


「どうです、私は可愛いでしょう?脱いでも凄いんですよ。成功報酬で、私を好きにして良いです。まさに性行報酬」


そっか。


「スノウ、捕縛を頼む」


「ん、りょーかいやで」


「何故ですか?!」


何故って……


「間に合ってます」


身体がもたん。


ビュッ


スノウが駆ける。

それはまさに疾風。


「わ、ま、待って下さい!」


息もつかせぬ連撃。

まさに神舞。

芸術的ですらあるその攻撃は……ん?


最小限の動きで全てブロック。

そして、


ゴアッ


「やっ?!」


イトニが何気に振り回したメイスは、あっさりとスノウを捉え。

スノウが吹っ飛び、壁に叩きつけられる。


え。

スノウが攻撃を受けるとか、信じられない。


いや。


スノウの攻撃が防がれるのも異常だ。


こいつ……強い……?


真実の一撃トゥルーストライク、必中の因果を持つ武技アートです」


フレアが溜め息をつくと、


「ただの変な人かと思ったら、彼女、相当な実力者ね。まあ、単純に得意分野オリジンの相性もありそうだけれど」


ん?


得意分野オリジンの相性?」


「ええ。トウヤの持つ友愛フィリアは別として、他の3つは、三すくみの関係にあるの。盗賊技能が向上する烈風スルト、魔導技能が向上する烈火イロス、神聖技能が向上する烈光アガペ……烈光アガペ烈風スルトに強いから、それでかしらね」


あれ、それだと……


「ふふふ。大丈夫ですよ。すぐに治してあげますから。でも、協力して頂くため、こちらが捕縛させて頂きますね?」


ちゅどむ


フレアの放った魔法が、イトニを黒焦げにする。


「ま……待って下……」


ちゅどむ

ぼむ


きゅう


イトニが倒れる。

生きてるよね?


まああれだ。


イトニは、スノウには強いかも知れないけれど。

フレアには弱い。


--


「く……殺せ」


ぐるぐる巻きにしたイトニを、人目につかない場所で。


「いや、あのな。殺しはしないが、衛兵にはつきだす」


「そんなっ?!お慈悲を!」


イトニがぼろぼろ涙を流す。


「トウヤ、流石に可哀想やで?!」

「トウヤ、それは流石に酷いですわ……」


スノウとフレアが若干ひいた様子で言う。

いや、オリオンが危ないからね。


「アルカディの衛兵に捕まると……何週間もの間、徹底的に女性の尊厳を辱められ……自我すら危うくなった頃、賤民街の店に払い下げられるとか……」


イトニが震えながら言う。


ねえよ。

アルカディのブラフ文化か……

他国に対する牽制なのだろうが……


「四肢や喉を潰されたり、爆弾を首に巻かれたり……そうした上で貴族に売られ、奴隷より酷い扱いを受ける事もあるで」


スノウが暗い声で言う。

いや、お前も乗るなよ。


「裸にされ、薬漬けにされて、様々な魔導の実験体にされたりしますわ。得意分野オリジンの解析がテーマらしいですが、正直、幼児がおままごとしているのと同レベル……嬲られ損ですわね」


フレアが溜め息とともに言う。


「……いや、怖がらせるなよ。どこの世界に、そんな非道な衛兵がいるんだ」


俺が苦笑しながら言うと、


「え、実際にやってたで?」

「私も見ましたわ?」


「この国、すぐに滅びた方が良いんじゃ無いかなああああ!!」


スノウとフレアの真顔のツッコミに、俺は思わず叫ぶ。

オリオン、王位簒奪でもしてくれよ。


……衛兵につきだすのは無しか。


「お願いします……堪忍して下さい。何でもします!」


……仕方がない。


「オリオンに危害を加えるな。あいつは良い奴だ」


「分かりました。神に誓います」


こくこく


イトニが必死に首を縦に振る。


「神に誓うって、本当に効果有るんだろうな?」


本来、聖職者にする問では無いが。


「あ、そうですよね。ぺぺぺですからね。では、自分に誓います。私は可愛いし、自分が大好きなので、大丈夫です」


神<自分


「……そもそも、何故、オリオンを殺そうとした?」


「神の奴が言ったんです……アルカディへと赴き、オリオンに協力しろと……すなわち、この美貌も、清らかな心も……全てオリオンに蹂躪させろと、同義」


「いや、普通に世界を救うパーティーやれって話じゃ無いのか……?」


王族同士で組んで、魔王に備えるのは、重要……

実際、前回はそれで乗り切った訳だし。

まあ、最後にアルカディの王族が裏切って、大変な事になったんだが。


「トウヤ、イトニの言うとおりやで?友愛フィリアには、能力上昇の代償として、術者を好きになってしまう……そんな危険性があるんよ」


「そうなのか?!」


「ですわ。かけられながらすると……むぐ」


とっさにフレアの口を塞ぐ。


「待って下さい。今のを詳しく」


「聞かなくて良い」


イトニの食いつきを制する。

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