第8話 神器

「何をやってるんですの?」


「魔導具の作製だな。製作した物を提出する課題だ。スノウのお陰で、盗賊技能は赤点免れる様になったが……まだまだ危ない教科は多いからな。課題は頑張らなければ」


「魔法関連なら教えられますわよ」


おお。


「それは有り難いな。是非頼む」


魔法関連の授業は、赤点続きなのだ。


フレアが、俺が使っている素材を見て。


「これはまた、高価な素材ばかりですわね。どんな攻城兵器を作るの?」


「兵器なんて作りませんけど?!」


フレアは、軍人さん?

やはり、諜報員なのだろうか。


「魔力を込めて……松明代わりとか、水を出すとか……そんな感じの魔導具かな。お題は自由らしい」


「ふーん……材料少し貰っていいかしら?」


「ああ、良いよ」


いっぱいあるしな。


数瞬の後、フレアが握れる大きさの筒を差し出す。


「とりあえず言われた通り作ってみましたわ」


曰く。


簡単なコマンドワードで、誰でも使える。

大気から魔力を取り込み、内部に貯蓄する。

低威力の場合、照らしたり、暖を取ったり、水を出したり……

高威力の場合、レーザーサーベル、溶岩、吹雪……といった具合。

地水火風光闇、計12種類の魔法。

低威力であれば、無限に使えるが。

高威力は、連続10分も使えば、自然充填で再使用まで1時間はかかるらしい。

急造にしては、かなり使えるのでは?


「これを提出なさってもよろしくてよ」


「いや、自分で頑張るよ。教えて欲しい」


ずるは良くないし、そこまで成績心配でも無くなったし。


「ふーん、真面目なのね。でも、そういう、融通が利かないところも気に入ったわ」


フレアが、にこりと微笑んだ。


--


「……」


俺が見せた魔導具を、オリオンが怪訝な顔で見ている。

角度を変えたり、振ったり。


光明よライトオン


ポッ


魔導具──短いステッキの先が光る。


「どうだ、合格点貰えるかな?」


俺の問いに、オリオンが難しい顔で、


「そうだね……魔導具製作の国王杯で、優勝候補を狙えるね」


何……だと……


「実用的だし、発動後の威力が安定しているのが素晴らしい。あと……発動と消費魔力が見合ってないのは、何か工夫が?」


ん?


「魔力なら、空気中から補充して、自力で光るけど?」


「ちょ」


あれ。

ああ、そうか。


「魔力が無い場所での使用、その懸念だな?20時間分くらいなら、内部に貯蓄するから大丈夫だぞ」


「……訂正するよ。この神器アーティファクトなら、優勝間違いないよ。大気の魔力を自律的に吸収するのも異常だし、貯蓄する量も凄まじい」


評価が上がった。

いや、高級素材貰ったかららしいぞ。


「本当は、同じコマンドワードで、上に乗れる飛行器具……ほうきみたいな感じにしたかったんだが。力及ばず」


「そんな物、かの魔導王国ですら無いよ。単体としても難しい魔法、複数の魔法を内包させるのも困難……そして、それが別属性だとすると、神ですら作れるかどうか」


言い過ぎである。

そんなの、フレアに貰ったびっくり棒なんてどうなるんだ?

ちなみに、複数属性、複数魔法同梱なんて、初等部の学生でも余裕だと言っていた。

実は、フレアって、魔導王国の諜報員?


--


「すみません、そこの素敵なお兄さん」


スノウ、フレアと共に、街でショッピング。

漆黒の鎧を纏った人に、声をかけられる。


いや、素敵なって、俺なのか?

周囲には、俺とスノウとフレアのみ。

やはり俺か……?


ああ、そうか。

これ、キャッチセールスだ。


「間に合ってます」


「ええ?!」


スノウとフレアに、急ごうと合図。

二人が頷く。

スノウは、そっとダガーに手を伸ばし。


「待って下さい!助けて欲しいのです。異国の地、途方にくれておりまして……」


外国人宣言きたあ。

ちなみに、アルカディは、全ての国と戦争状態である。


「追い払うんか?」


スノウが尋ねる。

一応、話だけでも……?


「物売りや、勧誘はお断りだ。それ以外の用件なら聞こう」


「有難うございます!!」


鎧の人──多分、若い女の人。


こほん


鎧の人は咳払いをすると、


「貴方は神を信じますか?」


「信じません。さようなら」


スノウとフレアの背を押し、足早に移動。

やっぱり勧誘だった。


「神聖王国の聖騎士やな。例外的に入国は認められているけれど、勧誘は禁止されとる筈やで」


スノウが胡乱気な目で見る。


「ま、待って下さい!貴方を探していました!あの神野郎を信じない……糞女神に敬意を払わない……そんな人を探しに来たんです!」


ん?


「貴方、聖騎士よね?」


フレアの問いに、


「確かに、便利なので神の奇跡は利用しています。でも、利用しているだけです。ぺぺぺです。自戒として、本来忌避すべき、漆黒の鎧を纏っているんです」


ぺぺぺ?


「で、何の用事なんだ?」


変な人だ。

話くらいは聞いてみよう。


「はい……私は、為すべきことをする為に、アルカディへと来ました。貴方に、私を手伝って欲しいのです」


神の使徒の、為すべきこと……

神託?


「私も信仰心は無いですの。神託は貴方だけで為して下さい。私達には関係ないですわ」


くすり


黒騎士は小さく笑うと、


「私の目的は、糞女神の企みを潰す事……どうです?興味はありませんか?」


企みて。

まあ、女神様=善ではない。

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