第7話 リュケイオン

「ご主人様の事前調査の通りですね。この魔導発動媒体は、リュケイオン。この魂箔も、間違いなく……」


スノウが、杖と、カード?を見せる。


「ああ、それ、私の?!」


女の子が声を上げ、


ザシュ


「動くな、そう言ったえ?」


殺気を込めた声。

女の子の足に、ナイフが刺さる。


へたり


女の子が座り込む。


「あんたもアホやな。ご主人にご奉仕すれば、生きていられたのに……死ぬなら勝手にどうぞやで?死体も魂も、ご主人様が有効活用してくれはるわ」


「……い……嫌……」


少女が震え。


……これ、あれだよな。

ブラフに乗らないと、俺達が危ないんだよな。

なら……


「逃してやれ。美しい花を愛でるのは好きだが、怯える花を手折るのは趣味ではない。愛でるのはお前がいるし、研究素体にはもっと良い物を入手してある」


つまり、とにかくこいつを遠ざければ良いのだ。

そして、明日オリオンに泣きついて、警備を強化して貰う。


「……しかし、追跡術式が完全に捉えています。どちらにせよ、ご主人様が解放したら、塔の組員に回収されて……」


何でややこしくするの?!

追い出そうよ!


「それはこいつの努力次第だな。そこまで面倒は見れん。逃げ切れるくらいの才覚は有るのだろう?」


スノウは王女様を見て、


「女よ、選ぶが良い。アルカディの秘匿技術、『サーチ』術式を掻い潜り、『塔』の追跡すら逃れ……その天文学的確率にかけるのか……その身をご主人様に差し出し、安寧の日々を手に入れるか……」


スノウが、切っ先を女の子の胸元につける。

いちいち殺気が込められているので、超怖い。

盗賊職の詐術ブラフ、すげー。


女の子は怯え、


「助け……助けて下さい。私……死にたくない……魂が捕らわれて……自分で無くなるのは……嫌……」


逃げないのか……?


仕方がない。

言いくるめて、明日守衛につきだす……


「興が削がれた。今宵は此処までにして、明日愉しませて貰おう」


さて、どう言い訳して、監視しつつ夜を明かすか……


スノウが、女の子に、


「分かってるやんなあ?助けて欲しかったら奉仕して、その気にさせろって事やで?使えへんモノはいらんさかいなあ?」


なんでやねん。


「ば……馬鹿にしないでっ。そんな事くらい分かっているわ!」


分かってない。


女の子は俺を見ると、


「ご主人様、ご奉仕させて頂きます」


上目遣いで、そう口にした。


--


「侍従を増やす……?それは構わないが、あてはあるのかい?」


翌日、オリオンに相談。

オリオンが小首を傾げる。


「ああ、実は既に部屋にいてな」


「部屋に……?それはどういった人なの?」


正直に話しておくか。


「夜中に、部屋に侵入してきたらしい。とりあえず、敵対意志は無いらしい」


「どういう状況かね?!」


うん、怪しいよね。


「……目的も、素性も不明。やはり、まずいだろうか?」


オリオンは少し考えて、


「トウヤ、君の安全が確保できるなら構わない」


良いの?!


「……犯罪者、諜報員……色々可能性は有るが、良いのか?」


オリオンは、苦笑すると、


「言っただろ?僕は、この国が滅びるべきだと思っている、と。諜報員がこの国の機密を漏洩させるのであれば、むしろ僕から情報を流したいくらいだ。本当は何もないのに、ハッタリだけで他国を従わせる外交……」


スノウがフレア──女の子の名前らしい──にやっていた詐術ブラフだな。


「その侍従に会わせてくれるかな。名前を登録するのと、顔は見ておきたい」


「ああ。フレアももう起きている。問題無いよ」


「フレア……?」


オリオンが怪訝な声を出す。


「どうした、オリオン?」


ひょっとして、有名人?

スノウも、杖がどうこうと言ってたし。


「スノウにフレアか……いや、何でもないよ」


何でもないらしい。

良かった。


--


スノウの詐術ブラフは、翌朝にはフレアにバレた。

俺の侍従としてすごすのは、フレアにも都合が良いらしい。

何をしているかは、詮索しない。

後は、俺の正義が云々と言っていた。

別に、正義感ぶって何か語った記憶は無いのだけれど。


スノウを信用し過ぎるな、何か有ればフレアが俺を守る……そう言われた。

いや、きみ、スノウにボロ負けしてたよね。

というか、スノウが意外と強くてびっくり。

冒険者、すげー。


そして。


「ふええ……何故上手くいきませんの?!」


「かなり下手やね……こりゃ、見込み無いわ」


フレアとスノウは、料理中。

フレアは料理が苦手らしい。

スノウ、偉そうに言ってるけど、君も元々は上手では無かったよね。

だいぶマシになったけど。

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