第6話 術式素体

「ああ、頑張ったぞ」


「頑張りすぎだよ。2つ目の鍵を解錠できるという事は、Bランクパーティーで盗賊職を担える……そんなレベルだよ」


オリオンが半ば呆れながら言う。


おお、何だか凄そう。

ちなみに、


「じゃあさ、5つまで解錠したらどうなるんだ?」


オリオンは、苦笑しながら、


「有り得ないよ。4つまで解錠すれば、この国の鍵の9割以上の鍵を開けられるだろう。5つ目は、我が国……いや、この世界における最高の鍵術式と同ランク……紙幣の偽造防止術式や、身分証明術式、王家承認印……もし5つ目の鍵を開ける者がいれば、この世のあらゆる信用は、全て朽ち果てるという事だ」


「……大事おおごとだな」


スノウ、すげー。

実は、超一流パーティー?


オリオンは、訝しむと、


「待ってくれ、トウヤ。キミ、何か隠していないか?何故今の問を発した?」


「いや、ただの興味だ……ところで、最後まで解錠したら?」


「有史以来、6つ目以降を解錠した逸話は伝わっていない。伝承では、6つ目を解錠できれば、全ての神造ダンジョンすら踏破でき……7つ目を解錠できれば、世界創生の礎すら自由にできるという……本当に聞いているだけだよな?」


スノウすげー。


「今日は昼食、モケモケの唐揚げだったよな」


「……ああ、そうだが。話を逸らさなかったかい……?」


「まさか。いやー楽しみだなー、モケケ」


「モケモケだよ」


何か引っ掛かりを感じる様子で。

オリオンはツッコミを入れた。


--


王子様と一緒に行動する、異世界転移者。

能力が無能となれば、当然、妬み嫉み攻撃行為……色々有りそうだが。

王子が傍にいるので、幸いにも手を出す奴はいない様だ。

平和な学園生活をおくれている。


「ご主人様〜お弁当忘れてたで?」


「あ、有難う、スノウ」


ざわ……


凄い美少女が、ちょくちょくお弁当届けに来るので。

そういう意味では注目を集めてしまう。


「……スノウ、よく入れたね」


オリオンが半眼で問う。


そう言えば、警備厳しいんだっけ。

教室まで来るのって、実は大変?

盗賊スキルのおかげだろうか?


「途中まで制服着て、生徒に紛れて来たんよ。ウチ、目立たへんから」


「なるほど」


納得。

スノウは、機転が利く。

ちょくちょく、スノウのアドバイスで上手くいった事もある。


「……魔導認証や走査術式という物があってだね」


「やん。ウチ、魔法は苦手やねん。ごめんなあ、分からへんわ」


スノウが申し訳無さそうに言う。

そうだぞ、オリオン。

君の魔導オタクぶりが、他人に通じると思うな。


「ほな、授業始まるし、ウチは行くえ」


スノウが、扉の外に消える。


生徒のうち数名が、扉から外を見回し。

小首を傾げる。

お見送り?

スノウ、人気だなあ。


--


「動くな」


抜き身の刃。

月明かりに照らされ、妖しく光る。


それを持つスノウも、一糸まとわぬ姿……


「スノウ?」


「トウヤ、私にあわせて下さい。こいつは、やばい……一歩間違えば、私達は殺されます。綱渡りの詐術ブラフです……」


焦りを滲ませた声で、スノウが告げる。

やばい、ピンチなのか。


スノウが切っ先を向ける方向。

それは虚空。

そこに……何かいるのか?


ひゅ


いつ投げたのか。

スノウからナイフが飛び……虚空に刺さる!


現れたのは……美少女。

金髪に、蒼い目。

薄い布地で肌を申し訳程度に隠すが……隠しきれない、豊かな体つき。

超えっちぃ。


「動くなと言ったで?」


「……何故、分かったの?」


「そりゃ分かるで……ウチとご主人様の営み、延々と1時間以上見てはってんから」


覗かれてた?!

と言うか、気づいてて続けてたの?!


「……み、見てません!」


「嘘いいな。あんたあれやろ?あんたも、ご主人様の寵愛が欲しいんやろ?」


「な……ふ、巫山戯るなあ!」


「ええんやで?ご主人様もあんたの身体には興味あるらしいし。それがあんたの存在価値の全て……ご主人様の気が変わらんうちに、首を縦に振った方がええで?」


「私を貶めるなあああ!手を出されるくらいなら、舌を噛んで死んでやるわ!」



嫌らしい笑みを浮かべていたスノウが、表情を消すと、俺に向かって、


「ご主人様、すみません。この娘にチャンスを与えてみましたが、拒否されました。やはり当初の予定通り、ご主人様の研究……術式素体に?」


え。

何、これに乗らないといけないの?

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