第5話 落とし物注意の看板

「なあオリオン、これって」


「……エンゲージリングだね。うん、君の物もある。君の部屋の前には、落とし物注意の看板が必要だね」


まったくだ。

こっちには俺とオリオンの部屋しかなく、通り抜けもできないのだけど。

何故落とすんだ?

オリオンの部屋に来た人、だろうな。


「邪なる楔よ、悪しき心よ、光に刺さりしその咎、清め贖え」


ジュッ


オリオンの手に乗せられた指輪が、炭化、灰となり……

頭にかかっていたモヤが、晴れた。


「……?!」


確かに、今まで結構信じ込んでたけれど。

良く考えたら怪しい事が。


「……うん、気づいたかい?」


曰く。

俺達は騙されているらしい。


この世界で死んだら、元の世界に戻るは嘘。

輪廻転生すらできず、消滅する。


この世界での功績や成長が、元の世界での成功に繋がるも嘘。

そもそも、帰還が難しいらしい。

災厄を解決すれば、神様からの報酬はあるらしいけど。


「……さて、僕にできるのはここまでだ。本当は召喚する事自体、許されざる暴挙なのだけれど。それを阻止できなかった事は、僕を恨んでくれて良い」


「いや、オリオンはこうして俺達を助けてくれた。ありがとう。この後、特にやる事も無いし……しばらく、学園生活を送らせて貰って良いかな?」


「勿論。必要な事が有れば言ってくれ。王家も、君のお仲間達で手一杯だと思う。君はのんびり過ごせると思うよ」


まあ。

後のことは、学園を卒業してから考えよう。


一月程すごし、少しずつこの世界にも慣れてきた。


まとめると。


この世界では、4つの国が存在し、それぞれ異なる得意分野オリジンを有している。

前回の魔王討伐で、4つの国からそれぞれ1人ずつ、4人の英雄が立ち上がり。

協力して魔王を撃破。

まあ、ここまでは良くある話だが。


英雄の1人、アルカディの王女が裏切り、英雄達を騙し……他の3国を併合、不平等な契約を結んでしまう。

他の3国は頑張って、契約破棄を目指しているが……未だにその効力は残り、毎年莫大な富がアルカディに流れ込んでいる。

抵抗する3王国は、国として認められず、叛乱軍扱いだ。


殆どの王族、貴族は言うまでもなく。

一般市民も多くは不労所得を得、特権意識の塊となっている。


オリオンが、この国が嫌い、というのは良く分かる。


授業は、エリート学校だけあり、相当厳しい。

俺の成績は、落第寸前。

オリオンに色々教わっているが、いやはや……


「トウヤ、それ何なん?」


明日の試験に備え、解錠の練習中。

スノウが興味深そうに見てくる。


「ああ。オリオンに貸してもらった神器だよ。7つの鎖が、7つの大罪への戒めを表し……まあ、解錠スキルの練習になるらしい。微弱なスキル成長能力もあるとか」


淡く、蒼白く光る鎖。

7つの錠で繋がっている。


挑戦しているのは、1番簡単な奴。

これだけでも解錠できれば、試験は相当高得点が取れ……他の赤点の穴埋めになるとか。


「面白そうやね。やってええ?」


「ああ、良いよ」


煮詰まってたしな。


「ふーん」


ぼろぼろ


スノウが触るだけで、鍵が分解していく。


??!


「ん……これ難しいやん」


最後の2つが難しいらしく、四苦八苦。

スノウは、少し前まで、現役盗賊として冒険者パーティーに所属していた。

そのスノウでも難しいのか。

流石神器。


ちょうど良い。

試してみるか。


「スノウ、俺のスキルを試してみて良いか?」


「アルカディの得意分野オリジン友愛フィリアやね?お願いするわ」


友愛フィリア


力が、スノウに流れ込む。


「んん……トウヤが流れ込んでくる……心地良い……」


スノウが、艶めかしい声を出す。


そして。


ちり


残りの2つの錠が、あっさりと解ける。


「これが、アルカディの友愛フィリア……魔王戦の要言われるだけはあるんね」


「役立たずだけどな」


この友愛フィリアという能力……まず、自分には効果が無い。

当然、PT前提なのだが……過去やらかしたせいで、他の3国から、完全に警戒されている。

特に能力が高い、他の国の王族とは、連携が望めない。


他の3国でも、それぞれ、強力な得意分野オリジンがあるので、アルカディにとっても、極めて辛い状況。

王族以外の、一般冒険者が、各国出身者揃える……その方がまだ強い。


アルカディの冒険者+他3国の王族……とかが、理想的な編成だろうか。

アルカディの王族の友愛フィリアと、アルカディ一般市民の友愛フィリアは、性能差が無いらしいし。


スノウが手を滑らせると、鎖が元の形に戻る。


「トウヤ、これ解錠できる様になりたいんやろ?教えるで?」


「ああ、有難う」


元冒険者による手ほどき。

贅沢な学習環境だ。

いや、その前には王族に教わっていたんだけど。


スノウの手ほどきは、分かりやすかった。

今後も、ちょくちょく教えて貰おう。


--


「2つまで行けたのか?!」


オリオンに鎖を返す。

そのついでに、状況を聞かれたから答えたのだが。


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