月下夜話

赤里キツネ

はじめに

黎明

未だ人の気配が色濃く残る街。

人目無きその場所から、飛び上がり。


夜空に浮かぶ店。

魔力がつきかけているのだろうか?

壁も、扉も、朽ち始めている。


きいいいいい


扉を開く。


原始的な獣油のランプに照らされ。

浮かび上がる複数の影。

なるほど、余裕を持って着いた筈が、自分が最後らしい。


「遅れましたね」


「いや、俺達が早かっただけだ。大丈夫だよ」


歌う存在うたうものの言葉に、観察者かんさつしゃが応える。


「さあさ、皆様良く来て下さいました。1人遅刻してヒヤヒヤしましたが……無事揃いましたので、再度説明させて頂きますね!」


「遅刻では無いでしょう、愚鳥」


歌う存在が、魂まで凍る様な声音で言う。


猛禽類が語る。


一つ、夜毎、話者が何かの話をする。

一つ、事実、創話は問わない。

一つ、参加者は仮名で呼ぶ事。仮面の装着は個人に任せる。

一つ、給仕はセルフサービス。


「まあ、悪くは無い試みですが。謳う事は、私の生業。話のタネは売る程有りますわ」


「(ひそひそ)気を付けて下さいね。この人、バッドエンド大好きなので」


「失礼ですね、猛禽類。聴いたあと爽やかになれる話ばかりですよ」


歌う存在が猛禽類を睨みつけ。

定まらぬ存在さだまらぬものが、さり気なく猛禽類を庇うように動く。


「それで、何故この空間ばしょなのですか?もっと山紫水明の地はたくさんある筈ですが」


「創られて、放棄された場所。かつてたくさんの人が犇めき、今は誰一人いない場所。未だ多くの人がこの場所を目指し、叶わず……その歪みが、物語への良いスパイスになると思いまして。『店』は無数に有ります。夜毎、『店』を変えるのも一興」


「何か有りそうですが……まあ、良いでしょう」


ぱさり


歌う存在は、空いている席へと飛び上がると、翼を畳む。


「さあさ、見てらっしゃい。お題は見てのお帰りで!」


「お金を取る気ですか?」


猛禽類の叫びに、歌う存在が半眼でツッコミを入れた。

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