第2話 Fighter meets Witch

「魔女だ……魔女、優秀な人材は競争率が高い……なら……やはり、成績下位の人物なら……」


パーティーメンバー探し。

そろそろ上位のダンジョンを狙いたいのだが……上位のダンジョンは、トラップや毒、物理が通じ難い敵……ソロには限界がある。

しかし、斧使いと組んで良いという慈善家など、まずいないだろう。


それに……ずっとソロでやってきたせいで、PT戦闘には慣れていない。

せいぜい、ペア狩りくらいなら……


自然と職種は絞られる。

ミレアも言っていた……万能戦士とペアを組むのが良いと。

万能戦士……攻撃と回復と防御と補助と……そんな存在は、ミレアも属する戦乙女ヴァルキリーか……勇者、賢者……そして、魔女。

この国は、始祖が魔女という事もあり、魔女が多い。

戦乙女、勇者、賢者の様な特別な人と組むのは非現実的なので、狙うなら魔女、という訳だ。

ちなみに、男性でも魔女の様な方向性を目指す事は可能だが、極めてレアだ。


目をつけた人物は。

魔女クラス、実技テストでぶっちぎりの最下位……しかも、いつ見ても1人ですごしている……他のPTにも所属していない筈だ。

実技の能力は、ダンジョンでレベルを上げれば、確実に向上できる。

安全圏のダンジョンを連れ回し、レベルを上げさせ、今度はその成長した力で上級ダンジョン攻略を手伝って貰う……うむ、完璧な作戦だ。


今日こそは、彼女を──ルルイエをPTに誘うんだ。


ホームルームが終わり、速攻で席を立ったのだろう。

ルルイエは、まっすぐ昇降口にむかっていた。

昇降口から逆に辿っていたので間に合った。

……危ない危ない。


魔女の正装……漆黒のローブとフードで、身体の大部分が隠れている。

一応目元は出ているが、あまり良くは見えない。


「なあ、キミ」


ルルイエと目が合い……そのまま歩き去る。

反応なし?!


慌てて手を伸ばし、進路を塞ぐ。

壁と自身の身体で、ルルイエの退路を塞ぐ格好だ。


「キミ、ちょっと良いかな」



ルルイエは視線を逸らす。

く……



ルルイエの顎を掴み、俺の方を向かせる。

とにかく話を聞いて貰わなければ……


聞こえていない可能性も考慮し、顔を近づけて、低い声でゆっくりと告げる。


「ルルイエくんだね……少し話がしたい」


ルルイエは、俺を胡乱な目で見上げ、


「今日、変な気配を感じると思っていたら……先輩……ですかね?何の用でしょうか?」


いや、一週間前からちょくちょく観察してたんですけど。


「率直に言おう。キミが欲しい」


是非PTに。

育てるから、育てるから。


ルルイエは困惑した様な目をした後、


「PTのお誘い……ですか?嫌です」


断られた。


「悪いようにはしない……キミにとってもメリットは大きい筈だ」


成績最下位……ソロでダンジョンに潜るのは厳しい筈。

というか、野原の魔物すら危ないんじゃないだろうか。


「でも……私、魔法使えないですよ?」


魔法が弱い、ではなく。

魔法が使えない、か。

あの成績も納得だ。


確かに、魔女には色々な種類がいて……

中には、魔力を使わない純粋な薬だけを扱う魔女も……いるらしい。

それでも。


「レベルが上がれば魔力も上がる。魔法を使えるようになる筈だ」


レベル1からなら、中級ダンジョンで養殖すれば、10レベルや20レベル、すぐに上げられる筈だ。


「1年の終わりまでは知識を増やしたり訓練をして……2年からレベル上げをした方が、最高レベルになった時の成長度が高いという話もありますよね」


「誰かが検証した訳では無いし、デマだと思っている。それに、最高レベルになっても、キャップを外せば良いだけだ」


レベル50や100で発生するレベルキャップ。

特定の儀式をしないとそれ以上レベルが上がらなくなるので、ちょっと面倒だ。

実際、そこでレベル上げをやめてしまう人も多い。

……まあ、そこまでレベルを上げない人も多いのだけど。


「それで本当だったらどうするんですか?先輩に責任取れるんですか?」


「勿論だ。ちゃんと責任は取る。俺に……一生ついてきてくれ」


固定パーティー。

欠点もあるが、メリットは大きい。

引退するまでは……いや、引退した後も、都合がつけば、一緒に冒険できる。

斧使いなどという、不安定な職種……俺にとっても、固定パーティーを組んでくれるのは有り難いのだ。


ルルイエが思案顔だ。

く……何とかもう一押し……


「どうもうまい話な気がします……何か企みが無いですか?」


……


そうだな。

このままだと詐欺と思われても困る。


話そう。


俺が優秀な人とは組めない理由を。


「……実は……俺は……得意武器が斧なんだ」


ルルイエが目を見開き。

そして。


「く……」


膝をつき、お腹を抱え、


「斧……斧って……まさか、斧ですか……まさかこの学園に斧使いがいるなんて……」


めっちゃツボってる。

く……


「先輩……お母さんとかに直して貰わなかったんですか……」


「……色々な人にみて貰ったさ……でも、俺は斧以外は駄目だったんだ……こう……魂が斧を欲していた……」


俺だって、斧じゃなくて剣使いなら、もっとモテたんじゃないかと思う。

いや、思っているだけで、実際にはモテ要素無いんだけど。

家によっては勘当モノだ。

まあ、うちの家は寛容だったけれど。


「良いですよ」


ひとしきり笑った後、ルルイエが告げた。


「斧で戦うという、滑稽な姿にも興味が有りますし。1回、1回だけ付き合います」


……その1回で、経験値うまーと思わせないといけないな。


「その1回で、俺なしではいられない身体にしてやるよ」


くすり


ルルイエが笑う。


「魔女クラス最底辺の私と、戦士クラス最底辺の先輩……良いコンビかも知れませんね」


「……クラス最下位ではないぞ。トップではないけど」


無駄とは思いつつ、一応訂正しておく。


「それと先輩」


ルルイエが、俺を見つめ、


「壁ドンからの、顎くい、私が欲しいとか、責任を取るとか……女の子にやると、勘違いされちゃいますよ?」


知らない専門用語が大量に出てきた。

魔女との契約とかそんな話だろう。


「大丈夫だよ。キミ以外にはしないから」


誰彼構わずPTに誘うとか……そこまで意思は強く無い。

ガラスのハートだからな。

一度断られたら、ソロで頑張ると思う。


-------------


猛「ほーほー、ドン感系主人公ですな、ほーほー」

歌「ちょ、どうして途中で口を挟むんですか?!」

観「ヒロインはあっさり流しているようだが……ん、ヒロイン?」

歌「メインヒロインはまだ名前しか出てないですよ~」

怒「自分を誘わせようと万能戦士を薦めたのに……憐れな」

歌「ちょ、しー、です、よ」

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