第11話 不思議ちゃんの思考パート3

 先輩は2杯目のコーヒーにもミルクを2つとスティックシュガーを1本だ。


 あれっ?


 という事は残りはミルクが2つとスティックシュガー1本・・・という事は3杯目を飲むと事前に宣言しているのと同じだ!やれやれー、ちょーっとぶっ飛んでたから焦ったけど、意味が分かれば驚くような事ではない。ただ、本来なら、持ってくればいい話だ。

「・・・並野君はお替りしないの?」

 先輩は2杯目のコーヒーを飲みながらニコニコ顔だけど、僕は正直、お替りをしてもしなくても、どっちでもいい。

「うーん・・・ここにまだいるならお替りしてもいいかなー、とは思うけど、食べたら直ぐに帰るというなら別に1杯でもいいと思ってます」

「そうか・・・」

 先輩はその一言でコーヒーを置いたかと思ったら、今度はグラニューが乗った『黒糖・デ・ポン』を食べ始めたけど、どう考えても甘ったるいはずなのに、幸せ満喫と言わんばかりの表情で食べる先輩の味覚は理解出来そうもありませーん。


 ただ、マイスドのドーナツ、それも『リング・デ・ポン』が好きだというのは実感出来そうです。


「・・・先輩は『リング・デ・ポン』がホントに好きなんですねえ」

「そうだよー」

「毎日食べても飽きないですか?」

「うーん、毎日というのは語弊があるけど、毎週食べてるよー」

「毎週!?」

 おいおい、ここまで来ると、もう好きを通り越して生活の一部になってないですかあ?さすがに先輩の前で言うのはやめておきますけど、明らかにぶっ飛んでますねえ。

「・・・うちから一番近いマイスドは以前は平凡坂ショッピングモールのフードコートにあったマイスドだけど、去年、ショッピングモール内に店舗を独立させたでしょ?だから、そこに土曜日か日曜日のどちらかに行ってるよ」

「へえー」

「まあ、毎月のバイト代の2割くらいかなあ。結構な額をマイスドで使ってるからね」

「それならタイソーではなく、マイスドでバイトすれば良かったんじゃあないですか?」

「えー、どうしてー?」

「だって、社員割引が使えます。たしかバイトでも3割引きで買えます。僕、アルバイト雑誌で読んだばかりだから覚えてます」

「たしかにそれは魅力だけど、私はパス」

「えー、もったいないですよー」

「私、制服は嫌いだから」

「はあ!?」

 ちょ、ちょっと待ってくれ!制服は嫌いとか言っておきながら中学も高校も制服着用だぞ。小学校はたしかに平凡坂市内の全部の学校で制服がないけど、先輩の家がある場所の坂之下さかのした中学も僕の坂之中さかのなか中学だって詰襟・セーラー服だし、平凡坂市とその周辺にある10を超える高校だってセーラー服の3校を除けばブレザーだ。しかも、私立上等高校のように、ほぼ10年ごとに制服をリニューアルしてデザインをその時の流行に合わせている学校まであるし、実際に制服で学校を選ぶという子がいるのも事実だぞ!先輩の思考は全然分かりませーん。

「・・・本当は中学も高校も私服で登校したかった位なんだけど、さすがに校則で制服着用と書かれてるし、他の全員が制服を着てる中で私だけ私服でいると、まるで晒し者にされてるみたいだから諦めてるけどね。たしかに全国には公立高校でも制服が無いところは幾つかあるけど、この近くの高校は公立・私立を問わず制服があるからねー」

「たしかに・・・」

「もし通学圏内に制服の無い高校があったらそこを選んでいたと思うけど、無かったから、一番近い平凡坂高校にしたと言っても過言ではないよ」

「という事は先輩、タイソーでアルバイトしてる理由は、まさかとは思いますけど・・・」

「うん。仕事があまり難しくなくて、それでいて制服が無いから」

「でも、エプロンは指定の物ですよ!?」

「エプロンは制服じゃあないわよ」

「たしかにそうですけど・・・」

 うわー、ホントに先輩の思考は変わってます!まさに不思議ちゃんとしか言いようがないですー。

 結局、僕は先輩に誘われた(?)からカフェオレをお替りしたけど、先輩はコーヒーを4杯!も飲んだところで、よーやく席を立つ事になりました。時計の針は正午を過ぎたから、既にマイスドの店内も結構混み始めた。あまり長居してると店の迷惑になりから、この辺りが潮時でしょうね。


 先輩は僕と並ぶようにして歩いている。

 そんな僕たちは伊勢国書店の前を通ったけど、その時には既にエッキーはいなくて、いつもの伊勢国書店に戻っていた。

 先輩は相変わらずのニコニコ顔だ。まあ、これで不思議ちゃんでなければ文句のつけようがないんですけど、それは仕方ないですね。

「・・・並野君、どこか寄って行く所はあるの?」

「いいえー、無いですよー。というか、早く帰ってアツマチをやりたいですから」

「あー、アツマチね」

「そう、アツマチ」

 僕は何気に先輩と話してたけど、先輩の足が急に止まった。あ、あれっ?何かあったんですかあ?

「ところでさあ、アツマチって、何?」

「へ?」

「だーかーら、みーんな『アツマチ』『アツマチ』って騒いでるけど、そもそも『アツマチ』って何なの?」

 先輩は物凄く真剣な表情で僕に聞いてるけど、まさか先輩が『アツマチ』の意味を知らないとは思ってなかったから、正直僕の方が混乱しかかってます、ハイ!

「せんぱーい、『アツマチ』は『集まれ!動物のまち』の略ですー」

「うっそー、私、本気で知らなかった!」

「マジですかあ!」

「うん。もしかしてゲーム?」

「そうですー」

「まさかとは思うけど、BUTTONボタンのゲーム?」

「そうですー」

「みんな『アツマチ』『アツマチ』って言ってるのは知ってたけど、私は今でも4DSしか持ってないから全然やった事もないし見た事もない!」

「せんぱーい、『動物のまち』はシリーズ化されてるから4DSでも出てますよ」

「うっそー、私、やった事ないわよ」

「マジ!?」

「という事は、先輩はMINTENDOミンテンドーのBUTTONどころか、『動物のまち』シリーズも持ってないんですかあ?」

「うん、持ってない!」

「先輩!ここで胸を張ってどうするんですかあ!?全然自慢にもならないですー」

「そうかなあ。という意味で自慢したつもりだけど」

「笑いのネタを提供したに過ぎないですよ」

「そう?」

「それじゃあ先輩、駅の真向かいにあるGEMOゲモに行きませんか?」

「ん?別にいいけど、もしかして『アツマチ』を売ってる?」

「売り切れでなければね」

「見るだけならいいわよー」

「じゃあ、行きましょう」

「らじゃあ」

 はーー・・・ホント、先輩は変わってますねえ。

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