第2話 してあげる
「・・・並野、お前、バイトを始めたって本当か?」
今は昼休み、場所は県立平凡坂高校の食堂だ。今、僕は向かいの席に座った男子と一緒にスペシャル定食を食べている。こいつの胸元は僕と同じ赤色ネクタイだから1年生、平たく言えば同じE組のクラスメイトだ。
「うん、本当だよ」
「いつからだ?」
「ん?今週の月曜から」
「それじゃあ、まだ2、3回か?」
「そうだよー」
僕の家は共働きだ。父さんはともかく、母さんも正規社員として頑張ってるのは家のローンがあるからだ。だから母さんが僕の弁当を作ってくれることは無いし、かと言って自分で作る気もない。
「・・・バイト代で
「そうだよー」
「とうとう個人持ちになるのかよー。羨ましいぜ!」
「でもさあ、何だかんだで恐らく3、4か月はかかるぞ」
「ふーん」
「だってさあ、
そう、僕がバイトを始めた最大の理由は個人持ちのBUTTONが欲しかったからだ。えっ?お前の家にはBUTTONがまだ無いのか?いえいえ、そうではありません。我が家にあるBUTTONはきょうだい共用扱いなので、1日に使える時間に制限がある!だからどうしても個人用が欲しいのだあ!!
学校の食堂のスペシャル定食は、コンビニの弁当より遥かにボリュームがあってアツアツで安くて嬉しい限りだけど、1食300円とはいえ、月に20回となれば・・・
「俺もバイトやろうかな・・・」
「あれっ?
「そりゃあそうだけどさあ、何だかんだで金は出ていくし、欲しい物は山程あるからなあ」
「まあ、たしかに週1回のバケモノ研究会だったら暇を持て余してるんだろうねえ」
「化学部と言え!か・が・く・ぶ!!帰宅部の並野にバケモノ呼ばわりされるのは心外だぞ!」
あー、そういえばコイツ、先輩女子と結構親しく話してるのを何度か見た事があるから色々と金が出ていくんだろうな。恐らくカノジョなんだろうけど、そこは羨ましい・・・
「・・・あー、いたいた」
僕たちの会話に、スペシャル定食を乗せたトレーを持ちながら割り込んできた女子がいた。緑色のリボンだから3年生だ・・・あれっ?たしかこの人、いつも論寄君と親しく話してる先輩の筈・・・
「うわっ!いきなり何だあ?」
「悪いけど
「はあ!?俺に100円貸せってどういう意味だあ?」
「ゴメンゴメン、財布の中がスッカラカンなんだよねえ。だから槓太、ジュース買いたいから100円貸してー」
「勘弁してくれ!『貸して』じゃあなくて『頂戴』の間違いだろ!」
「ちゃあんと先月分は返したわよー」
「半分だろー」
「半分だろうと全部だろうと、返したは返したよ!」
「そのせいで先月の俺の小遣いが無くなったんだぞ!」
「ノンノン!返したから文句を言わない!それが先輩に対する態度ですかあ?」
「姉貴だからと言って横暴だあ!!」
僕は今の一言に思わず『ええーーー!!!』と食堂に響くかと思える大声を出してしまったから、隣のテーブルに座っていた青色リボンの2年生女子4人組だけでなく周囲のテーブルに座っていた人たちも僕に注目した程だ!
「「どうした?」」
「
「「そうだよー」」
「僕、今まで、論寄君が綺麗な先輩と付き合ってると思ってた!」
「あらー、結構嬉しい事を言ってくれるわねえ」
そう言うとその先輩、論寄君のお姉さんはニコニコ顔になったけど、今でも姉弟だというのが信じられない!
「どうもー、はじめましてー。槓太の姉の
「あー、僕、クラスメイトの並野、並野
「あらー、あなたがいつも槓太が言ってる並野君ね。結構可愛いわねー」
「あー、どうもありがとうございますー」
「あのさあ、月曜日に返すから、槓太の代わりに100円貸してー」
「えっ?僕がですかあ?」
「そう。あー、でも、返す代わりに今度の土日のどちらかでデートしてあげてもいいわよー」
おいおい、この先輩、100円を返す代わりにデートしてあげるとは超の上に超がもう1つ付く位に上から目線もいいところだぞ。何を考えてるんだあ!?
「おい並野、やめておいた方が無難だぞ」
「ちょ、ちょっと槓太!それってどういう意味!」
「100円でデートして1000円、いや2000円以上も使わさせられるのがオチだ!」
「ちょ、ちょっとそれって酷くなーい?こーんな可愛い後輩、今のうちに確保しておかないと後悔するかもしれないじゃあないの!」
「俺はクラスメイトを姉貴の毒牙にさらしたくないからなあ」
「はあ!?あんたさあ、それって横暴よ!」
「『美しい
「冗談じゃあありません!『論より証拠』よ!並野君、今度、デートしましょう!勿論、お金はぜーんぶお姉さん持ちよ!!」
「金欠姉貴の言う事を信じると痛い目にあうぞー」
「誰かさんのようにお年玉を全部使い込む人とは違います!わたしは12年間、1円も使わず貯金してます!!」
おいおい、こいつら食堂で何を口論してるんだあ?周りにいる連中がクスクス笑ってるのに気付かないのかよ!?
結局、この姉弟喧嘩(?)は弟が姉に100円渡した事で終了したが、証子先輩が「じゃあねー」と右手を振りながら視線を僕に合わせてたのは、気のせいじゃあないですよねえ・・・
”キーーン、キリリリリーーン・・・”
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