強運

第38話 ベストパ〇チラ賞(?)

「ただ今より、混合ダブルス卓球選手権を開催します」


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』


 姉ちゃんが大会の開催を宣言すると一斉に拍手と歓声が上がった!


 今、小ホールは大勢の生徒たちで溢れ返っている!

 小ホールには4つの机が6組までしか入らないから、今年は昇降口前の廊下にまで机が並べられ、8つの試合場(?)が準備された。もちろん、小ホールの周りだけでなく小ホールを上から眺められる2階廊下からも、身を乗り出すようにして大勢が見てるし、小ホールの周囲には特別にステップが並べられて観戦できるようになっているけど、ほとんどの場所は押し合いへし合い状態だ。

 今年の最大の注目ペアは、何と言ってもCブロックに入った先生同士の2つのペアだが、生徒で一番注目するのはHブロックに入った、昨年のインタイーハイ男子卓球に出場した3年生、帝振ていぶる 手仁須てにす先輩と、女子卓球部の2年生エース、多津木たつき ゆう先輩のペアだ。

 論寄君と雀愛すずめさんのペアはHブロック!しかも1回戦の相手が帝振ていぶる先輩と多津木たつき先輩のペアなのだ!!容易に想像できると思うけど、ボヤくことボヤくこと、それこそ耳にタコが出来るかと思ったくらいだ。因みに姉ちゃんと強井先輩のペアはEブロックだ。


 各ブロックは12ペア24人。決勝トーナメントに進出できるのは各ブロック2組のみ。でも今日の各ブロックの1位同士、2位同士が明日の決勝トーナメント1回戦で当たるのではなく、1位対2位を再抽選して組み合わせが決まる。それは今日の全試合が終了した後に公開でやるけど、これも毎年の事だ。

 僕と先輩は2回戦からの登場だ。しかも2回戦の第一試合、つまり、1回戦第一試合を勝ったペアと対戦する事になる。

 今の先輩は眼鏡をしている。というより先輩が教えてくれたけど学校で眼鏡を外すのは水泳の時だけだそうだから、当然だけど今日の試合も眼鏡をかけたままだ。

 それと、僕も先輩も右手のビニル袋の中には空容器を4つ持っている。試合中に容器を交換するのは認められてないけど、試合毎に容器を交換するのは認められてるから、ほぼ全員が2個以上の空容器を持参するのは当たり前になっている。ただし、カレーは匂いがキツイから使う人が殆どいなくて、コップヌードルか、シーフードコップヌードルのどちらを使う人が大半だ。僕はコップヌードルオンリーだけど先輩はシーフードオンリーだ。

 参加者はビブスを付けてるけど、サッカー部やバスケ部といった運動部が練習用に持っている物を生徒会が借りて使っている。でも、今年は6ブロックから8ブロックに増えたから、Gブロックは防災訓練で使うスタッフ用のビブス、Hブロックは体育大会のスタッフ用ビブスを使ってるほどだ。因みに僕たちAブロックはハンドボール部のビブスだ。

 Aブロックの辞書は、僕から見て左から英和辞典、漢和辞典、人名辞典、古語辞典、広辞苑、ことわざ辞典、逆引き辞典、和独辞典だ。しかも広辞苑は超分厚い!ほぼ中央にデーンと構えてる広辞苑を倒すのは至難の技(?)かもしれない。


 既に各テーブル(各机の間違い?)は1回戦が始まっている・・・

「・・・せんぱーい」

「ん?」

「この2組のペア、どっちも『参加しただけ』というイメージなんだけど・・・」

「たしかにねー。他の10組もこれと同じくらいだったら助かるんだけどねー」

 そう、僕はこの試合を近くで見てるけど、どっちも笑いながらやってるし、だいたい、混合ダブルスは男女交互に打つルールになってるけど前後の入れ替えの約束が決めてないのか、入れ替えの時に思いっきりぶつかっているほどだ。

「・・・まあ、元々遊びの延長だから、雪佐せっさ先生と所司しょし先生以外は勝負に全然拘ってないし、むしろカップリングイベントの色が濃いから、いかに楽しくやるかが占めるウェートの方が大きいわよー」

「というより、いかに『見るか』の方が大きいんでしょ?」

「だよねー。男子はそれに注目していると言っても過言じゃあないし、それをスマホをずっと構えてるバカも結構いるわよー」

 その時、隣のBブロックで歓声があがった!互いに2年生同士のペアがラリーを続けてるけど、特別ルールによりラリー回数に制限はない。しかも徐々に熱中し始めてるから、女子は自分の足元に注意が行かなくなってくる・・・


“ウォオーッ!”


 周囲にいた男子が一斉に歓声を上げ、女子までキャーキャー騒いでるけど、当の本人たちは必至になってプレー(?)してるから、を気にする余裕が全くない!

 僕は思わず目がそちらに行ってしまったけど、先輩は逆に澄ましている。

「・・・並野くーん、今、見たでしょ?」

「ち、違います!僕は全然見てません!!」

「ホントかなあ?今、明らかに見てたわよ」

「言い掛かりです!僕は見てません!」

「赤とは派手ですねえ」

「あー、女の子でもそう思うんですかねえ」

「やっぱり見てたでしょ!」

 僕は『ヤバッ!』と思ったけど、先輩はそう言うと僕の左腰に自分の右ひじで肘打ちを食らわせたが、その先輩も笑ってる。

「・・・まあ、スカートを気にしてない女子は99%が『見せパン』だからねー」

「マジ!?あれはどう見ても本物かと思った!」

「あのさあ、生パンだったら恥ずかしくて、絶対に膝上のスカートで卓球なんか無理です!」

「そんなモンなんですかねえ」

「そんなモンだよー。だから大胆なんだよねー」

「それじゃあ、先輩も『見せパン』を履いてる?」

「こんな時に聞く質問じゃあありません!」

 先輩はもう1回、僕に肘打ちしたのは言うまでもなかった。でも、相変わらずだけど笑ってます。

「・・・それにさあ、毎年の事だけど優勝狙いというより、投票で決まる『ベストカップル賞』を狙ってる女子の方が圧倒的に多いって噂は本当みたいね」

「せんぱーい、たしかに正式名称は『ベストカップル賞』だけど、別名『ベストパ〇チラ賞』とまで言われてるんでしょ?」

「そうだよー。去年はフリフリのカボチャパンツを履いてた子がいて、目論見通りというか1位になったからねえ」

「優勝賞品とベストカップル賞の賞品が同じというのも、見せパン競争に拍車を掛けてるんですかねえ」

「だと思うよー。優勝するよりは難易度低いけど、言い換えれば印象に残るパ〇チラをしないと投票してくれないから、ある程度の好勝負でないと『故意に見せびらかしてる』として逆にヒンシュクを買うから結構難しいよー」

「そんなモンなんですかねえ」

「そんなモンなんだよー。私にはどーでもいい事だけどねー」

 とか言いつつも、あっちのテーブルでもこっちのテーブルでも男子の叫び声がしているという事は、今年も『ベストパ〇チラ賞』いや、失礼『ベストカップル賞』狙いの子が多いのかなあ。


 そう、ベストカップル賞の選定基準はただ1つ!いかに、なのだ!

 第1回大会の時、試合に熱中し過ぎてスカートの中が露わになっても気にする事なく善戦して4位となった卓球初心者同士のペアに対して、当時の生徒会執行部が特別賞として『ベストカップル賞』の名目で表彰したのだ。要するに「大会を盛り上げてくれてありがとう!」という意味で表彰して、同時に生徒会予算から微々たる物だけど賞品を出したのが始まりだ。

 というか、ルールブックに書かれてるのは『試合の進行を妨げるは慎む』だから、パ〇チラは問題ない(?)とか訳の分らん事を主張する男子が多いのも事実だけど・・・

 ちょっと話が逸れたけど、それ以降、毎年多くの歓声を集めたペアに贈られることになったのだが、3回目以降、生徒会と各クラスの正副クラス委員(クラス委員が大会に参加した場合は生徒会に申告した代理者が投票する)の投票によって決める事になったのだ。ただし、今回は姉ちゃんと強井先輩に投票権はありません。

 しかも2回目以降、優勝よりもベストカップル賞狙いの方が簡単として、一種のお祭り騒ぎになってる!女子としても本当の下着を見せびらかす人は誰もいないけど『見せパンなら気にしない』として、年々、女子の方が凝りに凝った物を着用する傾向が強まっている!

 だいたい、女子の下着についての校則はありませんからねー。


「・・・それじゃあAブロックの2回戦を始めまーす」

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