第29話 生徒会長権限パート2

”ジリジリジリジリジリー”


「・・・おーい並野、お前、どうだった?」

「ん?別に普通だと思うけど、そんなに難しかった?」

「はあ!?お前、さっきの数学、難問揃いだったはずだぞ!」

「そうかなあ。たしかに難しいのもあったかもしれないけど、だいたいさあ、最終問題は授業で出た内容と少し数字が違うだけの問題だぞー」

「うっそー!」


 中間テスト最後の教科、数Ⅰが終わった。

 昨日の1時間目の現国から始まり、長いようで短い地獄の2日間は数Ⅰで終了だ。

 いや、正直に言えば英語はリスニングが0点かもしれない、と不安になる位に出来が悪かった。まあ、日本に住んでるから日本語が出来れば大丈夫だあ!などと豪語するのは単なる強がりです、はい。他の教科は平均点くらいは取れたと思うから、これなら別に問題ないと思います。可もなく不可もなく、かと言って抜きんでている所が無い代わりに不得意も無い。それが僕のモットーですから。

 そのままショートホームルームとなり、それもスンナリ終わったから下校時刻だ。

「・・・並野、バイトは行くのか?」

「あのさあ、さすがにこの状況で行く気が起こると思う?」

「それじゃあ、練習に行くのか?」

「練習ねえ・・・」


 来週行われる『コップヌードル卓球大会』の締め切りは中間テストが終わった日の放課後、それもテスト終了の1時間後と決まっている。締め切りと同時に抽選が行なわれ、それは生徒用昇降口のところにある生徒会掲示板に貼りだされるのだ。まあ、抽選と言ってもクジ引きではなく、生徒会室のパソコンにインストールされている抽選ソフトを使うからアッサリ終わるらしい。

 実はこのイベント、年々参加ペアが増え、とうとう1日で終わらなくなり4年前からは2日間に渡って行われるようになったほどだ。昨年は過去最高の80ペア!つまり80人ずつの男子と女子がペアを組んで出場したほどの大会なのだ。

 うちの学校の定員は、各学年6クラス×40人だから全校生徒の数は720人。という事は昨年は2割以上がエントリーした計算になる。


 練習は今日の放課後のみ認められている。

 練習場所は第二音楽室や第二工作室などの予備教室だけど、事務机ではなくテーブルで、しかも辞書もコップヌードルの空容器も各自が持ち込む事になっているけど、エントリーするほぼ全てのペアが練習(?)に励むのが毎年恒例となっている。中には自分たちのクラスで机を8個程度並べて練習するペアまでいるのだ。

 因みに・・・論寄君は雀愛すずめさんとのペアで出場するという事で、既に登録を済ましている。雀愛さんは僕と論寄君に「今回限りのだからねー」と念押し(?)してたけど、僕には雀愛さんが『臨時のペア』だと言ってる意味がサッパリ分からなくて、思わず聞き返してしまったくらいだ。雀愛さんは全然教えてくれなかったし論寄君は論寄君でニコニコ顔で何も答えてくれなかった、はーーー・・・


 まあ、カップルの息を合わせるというのもあるけど、ほとんどデート感覚なんだよねー。


♪♪♪~ ♪♪♪~


 あれっ?

 この音楽は・・・姉ちゃん?


 僕はポケットから自分のスマホを取り出した。

「・・・もしもーし」

『おーいショーちゃーん、練習に来ないのかあ?』

「僕は別に行ってもいいんだけどー・・・」

『おいおいー、相方はどうした?お姉ちゃんにカノジョを早く紹介しろ!』

「姉ちゃん、その言い方は暴言ですよー」

『わりーわりー。というか、君たちの為に生徒会室を特別に貸し出してあげよう!」

「はあ!?」

『だーかーら、生徒会長権限で、生徒会室の机と辞書を使って本番さながらの練習環境を提供してやろうと言ってるのだ。お姉ちゃんに感謝したまえ』

「ちょ、ちょっと姉ちゃん!そんな事をして大丈夫なんですかあ?」

『大丈夫大丈夫!というより、お姉ちゃんはショーちゃんをカノジョに取られたから、仕方なく伸蔵しんぞうクンと出る事にしたんだぞー』

「シンゾー?もしかして、強井つよい先輩の事ですかあ?」

『そうだよー。生徒会長権限で副会長にエントリーさせた』

「姉ちゃん、強引過ぎませんか?」

『ノンノン!生徒会長権限だ!』

「はいはい、それは分かりました。という事は『練習相手を務めろ』と言いたいんですね」

『そういう事だ。拒否は認めん!これも生徒会長権限という事でヨロシク!』

「ちょ、ちょっと待ってください!拒否は認めないって、どういう意味ですかあ?」

『言った通りだ!以上!  (ピッ)』

「・・・・・」

 はあああーーー・・・姉ちゃん、相変わらずですねえ。

 ただなあ、先輩が何と言うかも分からないのに『生徒会長権限』もヘッタクレも無いと思うんだけど・・・


 仕方ないから、僕は先輩に電話した。

『・・・もしもし、どうしたの?』

「あー、それがですねえ、実は会長が生徒会長権限を発動させて、練習相手を務めろ!って言ってきたんですけどー」

『マジ!?上似先輩がを抜いたのお!』

「そうですー。僕も正直、参ってますー」

『はーーー・・・あの会長の『生徒会長権限』に逆らえる人が校内にいると思う?』

「いたら僕が教えて欲しい位ですよー」

『だよねー、私も正直乗り気でないけど、後で何を言われるか想像が出来ないから行くよー』

「すみません」

『別に並野君が謝る事じゃあないよ』

「それじゃあ、生徒会室で待ってますー」

『りょーかい。私も生徒会室へ行けばいいのね?』

「そうですー」

『じゃあ、すぐ行くよー  (ピッ)』

 僕はスマホをポケットに入れたのだが・・・電話をしている間、ずうっと論寄君が僕に何事かワーワー騒いでたのは事実ですけど、姉ちゃんを怒らせると後で何を言われるか僕も想像できないから生徒会室へ急ぐ事にしまーす。

「という訳で論寄君、申し訳ないけど僕は生徒会室へ行きます!」

「ちょ、ちょっと並野!さっきの電話の相手は誰だあ!!早く教えろ!!!」

「あと2時間もすれば分かりますよー!」

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