第15話 俺のモットーは・・・

 とは言っても僕の麻雀マージャンの腕は、『ド』が頭につく程の素人しろうとレベルだ。


 実際、ルールは知ってるけど、役は一通り知ってる程度で点数計算は早見表が無ければ自分で出来ない。だいたい、相手が捨てた牌や態度で手牌が読める訳なーい!当然だが僕は最下位独走中だ!

 既に1回目の半荘ハンチャンは僕はダントツ最下位で、2回目も最終局を待たずにほぼ確定。何しろ既にマイナスであり、トップのあささんから役満やくまんをロンしても逆転出来ない位にダントツだから、今回も最終局を待たずにセブンシックスまで確定!

 あれっ?賭け事禁止なのにはいいのか?あー、それはですねえ、「賭け事は禁止だけどパシリは禁止されてない」とか訳の分からない理由をつけて(僕は反対したけど、他の3人が押し切った)、半荘ハンチャン最下位の人は論寄君の家の2軒隣にあるセブンシックスまでお菓子やジュースのパシリに行くのだ。

「・・・並野くーん、君、聴牌テンパイしたね」

 僕の右にいる麻さんがニコニコ顔で右手でツモったけど、どうして気付いたんだですかあ!

「並野君さあ、顔にモロ出るからねー」

「まじ!?」

「うん。自分の欲しかたった牌を引くと顔の筋肉が少し緩むのよねー。並野君の手牌の並べ方、左から萬子マンズ筒子ピンズ索子ソーズ、字牌。しかも9から並べてるでしょ?」

「ど、どうして分かった?まさかカメラでもついてるんですかあ!」

「ノンノン!君が今までに捨てた牌と出した位置を見てたら分かるよわー」

「うわっ!さすがプロ雀士の遺伝子を継ぐだけの事はありますねえ」

「誉め言葉として受け取っておくわよー」

 

 そう言ってる麻さんの次はこの4人の中で唯一、私服に着替えている論寄ろんより君だけど、その論寄君は麻さんが捨てた『三萬サンマン』を見たら、ツモろうとしていた右手を引っ込めて麻さんが捨てた『三萬サンマン』を右手で掴んだ。


カン!」

「「「嘘だろー!」」」


 思わず僕も麻さんも、それに国士くにつかさ君も同時に声を上げた。なぜなら南4局のドラ表示牌は『二萬リャンマン』だからドラが『三萬サンマン』なのだ!まさかドラを3枚持っていて、しかも4枚目をカンするなどと、誰が見ても無謀そのもの・・・い、いや、明らかに論寄君は勝負に行ってる!3位の論寄君ははね満以上を麻さんからロン上がりすれば逆転トップだ。それ位は僕にも分かる!

 論寄君は3枚の『三萬サンマン』を出して、麻さんの『三萬サンマン』を横向き合わせて4枚にして、そのまま嶺上牌リンシャンパイを手に取った。

 その牌を自分の中に入れた論寄君は一瞬だけニヤリとしたかと思ったら『四萬スーマン』を切った。

「おーっし、それじゃあ、2つ目のドラ御開帳」

 論寄君はそう言ってニコニコ顔で2枚目のドラ表示牌を開けたのだが・・・


「「「嘘だろー!」」」

「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 僕と麻さん、国士君に加えて今度は論寄君も合わせた4人全員が再び絶叫した!なぜなら、論寄君が開けた2枚目のドラ表示牌も『二萬リャンマン』!つまり2つ目のドラも『三萬サンマン』なのだから、この時点で論寄君はドラ8確定!誰が見ても確実に倍満以上なのは間違いない!!論寄君が両手を突き上げながら絶叫したは言うまでもない!

 これで麻さんもノホホンとしてられなくなった。どう考えてもこの局面で麻さんがドラを切ったという事は、最終局をアッサリ終わらせて逃げ切るつもりだったとしか思えないけど、その麻さんもトップ滑落の目が出てきたのだから。

 既に立直リーチして連荘レンチャン狙いの親の国士君は、半分ビビりながらツモったけど、ホッとした表情で4枚目の『ペー』をそのまま切って次は僕のツモだ。

 その僕のツモは『五萬ウーマン』だ。

 僕の最下位はほぼ確定している。しかも僕の手牌は索子ソーズ筒子ピンズのみで作られた平和ピンフ一向聴イーシャンテンだから、どうせ勝負と関係ない僕はアッサリ『五萬ウーマン』を切ったが・・・


「来たー!ロンだあ!」

「ロンよ!」


 論寄君は絶極しながら『バサッ!』とばかりに手牌を全部倒したけど、それと同時に麻さんも手牌を崩した。という事は僕は論寄君と麻さんの2人から同時に「ロン」されたのだ!

「おい並野!お前、KYにも程があるぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってよー。僕のどこがKYなんですかあ?」

「だってさあ、コレ、誰から上がっても逆転トップだったんだぜー!勘弁してくれ!」

 そう言って論寄君は自分の手牌を右手で指さしてるけど、確かにドラが8枚だから倍満は確定済だから・・・はあ!?これって、もしかして役満以上に難しいと言われる三倍満ですかあ!!

「・・・対々和トイトイホー断么九タンヤオチュウ、ドラ8で三倍満!それに立直リーチ棒の千点があるからトップ確定だったんだぜ!お前が雀愛すずめちゃんにもダブルロンするから雀愛すずめちゃんの逃げ切り勝ちに成っちゃったじゃあないか!どうしてくれる!」

「そんな事を僕に言われてもなあ」

 論寄君は僕にブーブー文句を言ってるけど、麻さんはホントにギリギリ逃げ切り勝ちの形になって論寄君の左肩をポンポンと叩きながら揶揄っている。その麻さんは面前メンゼンだけど立直リーチをしてないから、『五萬ウーマン』と『八萬パーマン』の両面待ちの『ナン』のみ千点ロン上がり。国士君が出した立直リーチ棒は論寄君と麻さんに入るから、僅か300点差で麻さんは逃げ切ったのだ。論寄君がボヤくのも無理ない。


 でも、その時、麻さんが『ハッ!』という表情をして論寄君の顔を見た。


「・・・あのさあ槓太かんた君、ちょっといい?」

「ん?何?」

「さっき、『三萬サンマン』をカンしたけど、それ、カンじゃあなくてロンで、しかも逆転トップじゃあないの?」

「はあ!?どういう事だあ?」

 論寄君はそう言って麻さんの顔を覗き込んでるけど、麻さんはニヤニヤしながら論寄君の手牌にさっき捨てた『四萬スーマン』を入れて『五萬ウーマン』を1枚抜いてから

「・・・これってさあ、『三萬サンマン』と『六萬ローマン』の両面リャンメン待ちと考えれば、三暗刻サンアンコー断么九タンヤオチュウ、ドラ3のはね満だよ」

「あれっ?本当だ・・・」

「たしかにドラ4は魅力だけど、無理して対々和トイトイホーにする必要はなかったよー」

 そう言って麻さんはニヤニヤ顔だし、国士君もニヤニヤ顔だ。当たり前だけど、僕も呆れて「あーあ、損したネエ」とニヤニヤ顔だ。

 論寄君は明らかに不貞腐ふてくされたような顔をしながら

「うっせー、俺のモットーは『ロンよりカン』だ!これ以上でもこれ以下でもねえ!!」

「「「はいはい、そういう事にしておくよー」」」

 やれやれ、ホント、論寄君は憎めないですねえ・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る