SS 100円ショップゆえの悩み

第13話 SS 僕も困ってますー

 翌日の日曜日は僕も先輩も出勤だ。

 週末は稼ぎ時だから、10時から夕方6時までの8時間、途中に食事休憩が1時間入るから、正味7時間のバイトです、はい。


 僕も知ってるけど、タイソーは何でも100円がモットーだったけど、最近は100円ではなく200円、300円、500円などという商品も扱っている。似たような商品も多いけど、何と言ってもタイソーオリジナル商品が豊富で、しかも次々と新商品が店頭に並ぶ。


 でも・・・僕だけでなく、誰もが絶対にタイソーで経験した事があると思いますが・・・


「・・・すみませーん」


 僕は開店早々、40代から50代と思われるオバサン(失礼!)に声を掛けられた。

「はーい」

 僕はその女性のところへ行ったけど、その女性はタイソーオリジナル商品のパッケージ袋のみを持っていた。

「・・・あのー、以前、この店で買ったトレイなんだけど、見付からないという事は売り切れなんですかあ?」

 その女性はパッケージを僕に渡すと同時と一緒にスマホも見せてくれた。


 たしかに、どこの家庭にも置いてあるようなトレイで、スプーンやフォークなどを並べるのに便利そうな品物だ。しかも連結出来るタイプだから、同じトレイを2つ、3つと上下または左右に並べれば使い勝手も良さそうだ。


 その女性は、以前買った時にはこの列で売っていたというのだが・・・

 僕はその女性と一緒に探したけど・・・似たような物があるけど、パッケージ袋は明らかに別のものだし、だいたい、その女性が言うには「大きさが明らかに一回り小さい」との事だ。実際、写真を見た限りでは、その列にあったスプーンと比較してみると確かに小さい!


「・・・少々お待ちください」


 僕は女性に断ってからその場所を早足で離れた。

 こういう事は店長に聞くか、あるいはタイソー平凡坂ショッピングモール店で最長キャリア(?)を誇る真面目似さんに聞くのが手っ取り早い!しかも今日は二人とも出勤している!!

 僕は二人を探そうとしたのだが・・・その時、先輩と目が合った!

「せんぱーい!」

「あれっ?並野君、どうしたのー?」

 先輩は僕が焦り気味の表情をしていたからだろうか、早足で僕の方へ歩いて来た。

「実は先輩・・・」

 僕は身振り手振りで先輩に事情を説明したし、その女性もスマホの画面を先輩に見せながら『とにかく欲しいんだ!』オーラ全開で先輩に尋ねている。


 その先輩だけど、女性の話を聞き終えると僕の顔を見てニコッとした。あれっ?先輩、もしかして、どこに置いてあるのか知ってるんですかあ?

 でも先輩は女性の顔を見ると神妙な顔つきに変わった。あれっ?あれっ?

「・・・申し訳ありませーん、当店ではこの手の商品は、この列に並んでいる物しか置いてありません」

 先輩はその女性に頭を深々と下げてるぞ。どういう意味だあ?女性も首を傾げているくらいだから、僕と同じで状況を理解出来てないとしか思えない。

「・・・大変申し訳ありませんが、毎月、100点以上もの新商品が入ってきますが、中には1度しか入ってこない商品もあるんですよー」

「それって、この商品はもう入ってこないって事ですかあ?」

 女性はちょっと不満そうな顔をして先輩に小言を言ったけど、先輩のその一言を聞いて僕も『ハッ!』と思い出した。

 タイソーだけでなくソリアやキャンドッグのような100円ショップは、お客さんの購買意欲を高めるためオリジナル商品の開発に力を入れてるから、毎月のように新商品が登場する。でも、売り場の広さは新商品の数に合わせて広がるのはあり得ないから、当然、何かの商品は姿を消す・・・売れ筋の商品なら、第二段、第三段の発売もあるし定番商品に格上げされるけど、逆に1回だけで終わりになる商品もある。その品物が無くなった時点で販売終了、別の商品が新しく棚に並ぶ事になる・・・

「はあああーーー・・・そういう事なら仕方ないですね」

 その女性はそう言うと、ショボンとしたまま帰っていった。


「・・・並野くーん、これは仕方無い事だよー」

 先輩はその女性が店を出て行くのを見送ると、ため息をつきながら言った。

「そうですねー。たしかに僕も小学5年生の時だと思ったけど、夏休みの課題の工作を作る時、タイソーで色々と買い揃えたけど、途中で使い切っちゃったからタイソーに行ったら、その商品、もう無かったという事があったよ」

「よくある話、と言ってしまえばそれまでだけど、タイソーオリジナル商品でなければ殆どの場合は次の入荷に困る事がないけど、オリジナル商品は私たちバイト店員があーだこーだ言っても仕方ないよー」

「ですねー」

「さあ、ボケーッと突っ立ってないで仕事に戻るわよ!」

 先輩は僕の腰を自分の右手でグイッとばかりに突いたから、僕もシリアスモードから仕事中モードに切り替わった。

 そんな先輩は僕に右手を軽く振りながら自分の担当に戻って行ったけど、僕は先輩を見ている余裕はなかった。なぜなら別の初老の男性客から声を掛けられたからだ。

「あのー・・・」

「はあい、どうかされましたかあ?」


 僕がタイソー平凡坂ショッピングモール店でバイトを始めてから、まもなく半月になろうとしてるけど、まだまだ僕は知らない事の方が多いです。これからも精進してまいりますから、先輩、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します!

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