第17話 ごめんなさーい

 あささんVS証子しょうこ先輩のバトルは互いに6千点のマイナス、つまり僕にハネ満を振り込んだ形のハンデキャップで始まったのだが、怒涛の勢いで取り返していく!殆ど僕からロン上がりするかツモ上がりで、僕はあっという間に貯金を食い潰したどころか3回戦もマイナスに突入した。国士くにつかさ君も一度ダブル立直リーチを根性でツモ上がりしただけで、後は麻さんと証子先輩が競い合うかのようにして上がっていく!


「・・・ロン!」


 南3局、証子先輩は僕から七対子チートイツを満貫ロン上がりし、再び麻さんを上回った!

 ただ、この二人の点差は僅か3500点しかない!つまり、簡単にひっくり返るだけの点差でしかないのだ。

 南4局、つまり最終局は証子先輩の親だ。ドラ表示牌は『ナン』、つまりドラは麻さんの門風牌メンフォンパイである『西シャー』だ。

 証子先輩の最初の捨牌は『ペー』だ。僕たちも淡々とツモって、誰も動く事なく静かに牌を叩く音だけが響いて、南4局も後半に差し掛かった。


 だが、麻さんの手が突然止まった。


 ツモした牌を一番左に入れたかと思ったら、ピタッと動かなくなったのだ。何を考えてるのか分からなかったけど、その麻さんは何かを奮い立たせるかのように首を『ウンウン』と2回、縦に振ったかと思ったら千点棒を右手に持った。


立直リーチ!」


 麻さんは気合を込めて一番右にあった『九索チューソー』を切った。

 次のツモは国士君だけど、もう国士君もほぼ3位確定というべき形だから、無理しないで手牌からアッサリ『九索チューソー』を切った。証子先輩もツモ牌を手牌に加えると安全牌の『一筒イーピン』を切った。

 証子先輩の考えは僕にも分かる。このまま流局になれば、その時点で終局だ。つまり、無理して上がって連荘レンチャンするよりは今のまま流局に持って行けば、ノーテン罰符が麻さんに入っても立直リーチ棒が戻って来ないから、証子先輩の勝利確定なのだ!逆に言えば麻さんは何が何でも3500点差をひっくり返せる形で上がって終局にする必要がある。『立直リーチ』をかけた事で逆転できる点以上が取れる形に持って行ったと考えるべきだから、ダマ聴牌テンパイのツモ上がりやロン上がりでは逆転できない形なのは間違いない筈だ。相当な悪形だろうけど、とにかく麻さんは勝負に出るしかないのだ!

 そのまま4巡が過ぎた。

 重苦しい空気が支配する中、僕のツモはドラの『西シャー』だ。

 でも・・・僕、実は既に『西シャー』を3枚持っているから、暗槓アンカンにする事も出来る。ただ、暗槓アンカンしてドラを増やすと麻さんに利する可能性もある。どうせ『西シャー』は安全牌だけど、他にも安全牌はから、残りの山の枚数から見て麻さんに振り込む可能性はゼロなのだ。それなら暗槓アンカンしてもいいのかなあ・・・


 僕は迷ったけど、折角の権利を放棄するのも惜しいと思って、暗槓アンカンする事にした。


カン!」


 僕がそう言って『西シャー』を4枚晒した時、一瞬だけだが露骨に不機嫌な顔になったのは証子先輩だ。逆に麻さんは一瞬だけだがニヤッとした。

 僕は2枚目のドラ表示牌をめくったけど、『九萬チューマン』だ。という事は2つ目のドラは『一萬イーマン』という事になる。

 その僕は嶺上牌リンシャンパイを取るべく右手を伸ばしたのだが・・・


「あれっ?」


 僕は思わず呟いてしまった。


 その声を聞き留めた証子先輩と麻さんが僕の方を見てるけど、僕は証子先輩と麻さんの目を交互に見た後、苦笑いをしてしまった。


「・・・ごめんなさーい、上がりです」

「「「嘘でしょー!!!」」」


 証子先輩と麻さん、それに国士君は絶叫したけど、当たり前だが証子先輩はすぐにニコニコ顔になって麻さんは引き攣ったような顔になった。その理由は僕にも分かるけど、この段階で『嶺上開花リンシャンカイホー』『ドラ4』の満貫だけど、麻さんは2千点プラス立直棒の千点の3千点に対して証子先輩は4千点だから証子先輩の逃げ切り勝ちだからだ。


 僕はニコッとして手牌を崩した。


 でも・・・証子先輩はその瞬間、引き攣ったような顔に変わったし、麻さんは一瞬だけ目を輝かせた後、ホッとしたような表情になった!なぜならば・・・


「ごめんなさーい、『ダブナン』、『全帯么チャンタイヤオ』、『嶺上開花リンシャンカイホー』、の三倍満ですー」


 僕はそう言ってニコッとしながら右手を差し出したけど、証子先輩は「はあああーーー・・・」と長いため息をつきながら右手を額に当てたのは言うまでもなかった。そう、僕は『西シャー』のドラ4に加えて『一萬イーマン』を頭で持ってるから、さっきの暗槓アンカンでドラが6個になっていたのだ!

 証子先輩が超長ーいため息をついた理由がこれなのだ。なぜならば、証子先輩は1万2千点なのに対して麻さんは6千点プラス立直リーチ棒の千点の7千点。つまり、証子先輩と麻さんの点差が土壇場で逆転し、仁義なき女の戦い(?)は麻さんの勝ちに終わったのだ。


 殆ど流局確定で九分九厘勝利確実という雰囲気だったから、証子先輩はニコニコ顔でいたところへ思わぬ形で負けになったから、ため息をつきたくなる気持ちは僕にも分かる。なにせ2つ目のドラが効いて一気に三倍満になってしまったのだから。

 百歩譲って倍満だったら、証子先輩が8千点で麻さんが4千点プラス立直リーチ棒千点の5千点だから、僅か500点とはいえ証子先輩が逃げ切れたのだ。証子先輩から見たらホントにKYな暗槓アンカンだった訳ですね、はい。

 逆に麻さんは勝負をかけたにも関わらず敗色濃厚だった所を、僕が暗槓アンカンした事で逆に証子先輩を1500点上回り、他力とはいえ逆転勝利に持ち込めた形なのだから、ホッとした表情になったのも頷ける。

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