それでも俺はおっぱいが好き。

こばや

プロローグ 本編前が短いと誰が決めた?

 俺が地元から離れた学校・私立 山ノやまのさき高校に通い始めて、1年と1ヶ月が経った。つまり、現在は高校2年の6月だというわけだ。


 とは言っても、特段と生活が変わるわけでもなくいつものように過ごすだけだが。




 俺、松木まつき しゅんは至って普通の男子高校生だ。

 成績トップクラス、スポーツ万能で家事全般ができる、至って普通の元美術部・現漫研部員の男子高校生である。そんな普通の俺には1つ悩みがあった。


 それは……。



「理想のおっぱいの持ち主の美少女どっかにいないかなぁ」



 おっぱいである。



 程よい大きさ、形、柔らかさその3つ全てを備えたおっぱいに巡り合えていないのが俺の悩みである。



「よぉ俊、またなんか変なこと言ってんな?」


 後ろから聞き慣れた男の声が聞こえた。


 振り返ってみると、いつもの茶髪坊主で中身長マッチョ男がそこには立っていた。


「なんだ文也か」


「なんだとは失敬な!」

 茶髪坊主のマッチョがやや怒り気味に反応する。


 こいつの名前は、種田 文也。

 私立山ノ崎高校に来て初めて友達なった男で、いわゆる親友というものだ。

 野球部部員で、野球部では希望の星らしい。

 今年度も同じクラスという事でよく一緒に登校することもある。


 今回もそんな感じなのだが……


「おっぱいに対する俺の独り言を変な事とはそっちこそ失敬な!」


「やっぱり変な事じゃないか。太ももこそが至高だと言うのに」


 唯一残念な事はこいつが太ももフェチだということだ。


 残念だ、非常に残念だよ……。



「文也、やはりお前とは一度決着つけなくてはいけないな……」


「望むところだ!まぁ、俺は負けるつもりは無いがな……。いつものは持ってきているな?」


 そう言って文也は左肩に持っている自身のカバンをゴソゴソと探り始めた。

“アレ”を出すつもりだろう。


 なので俺も

「愚問だな……」

 常にカバンに忍ばせている“アレ”を探し始めた。


 そしてやがてお互いの準備が整ったのがわかると、お互いに構えた。


 まるで次の言動が『俺のターン』と言わんばかりの構えで。


「いくぞ!」


「おう!!」


「「性癖開示デュエル!!!!」」


 2人同時にカバンから取っておきの“アレ”を出したその時だった。



「2人ともやめなさい!!!」

 同じ学校の制服を着た長いピンク髪の女子に止められた。


 サッと、俺と文也の間に入り込み制止させるポーズをしながら

「エロ本の見せ合いは教室とか誰も見てない所でやりなさい!いや、教室でやられても困るんだけどさ……」

 と、呆れた顔で俺たちに訴えかけた。


 だが、今まさにいい所で中断をかけられたことでむしろ不完全燃焼であり、不満タラタラな様子の文也は


「男と男の勝負に口を挟まないで頂こうか櫛名田ちゃん!それとこれはエロ本ではない。聖典だ」


 と抵抗しだした。


「そうだぞ愛咲!!さぁ、続きをやるぞ!性癖開 デュエ……」


 その文也の流れに乗じて、俺は先程の勝負の続きをしようとしたが


「いいからやめんかい!通学路!みんな見てる!いいからやめる!!」


 長いピンク髪の女の子、もとい、櫛名田くしなだ 愛咲ありさに再び留められた。


 愛咲とは幼馴染と言うやつで、同じクラスである文也とのやり取りをよくこうやって止められる。



「なんでカタコト風……?」

 文也は単語単語で喋る愛咲の喋り方が気になったのだろう、思わずツッコんでいた。


「仕方ない……。文也、勝負はお預けだな」


「そうだな」


 2度も止められては、と俺たちは諦め秘蔵の“アレ”、改め聖典をそれぞれのカバンにしまった。



 そして俺たちは

「ふっ、次の勝負の為にネタを仕込む時間が増えたと思えばいい事よ」


「なんだ、お前もか。俺も更に取っておきのを用意して次の機会を楽しみにしてるぜ」


 次の勝負への約束をし、熱く拳を握り合うのだった。






「なんか熱い友情見せてるところ悪いんだけどさ、学校遅刻するよ?……ていうか、おっぱいと太ももの話でそこまで盛り上がれるなんて男子って馬鹿よね。………ていうか、私を間に挟んだままの状態でやらないでもらえる?」


 熱い男の友情を見せている間で冷めた目で俺を見つめながら口々に言葉をこぼす愛咲。


 その愛咲の言葉にカチンときた俺は

「馬鹿とはなんだ、愛咲。自分に素直と言って欲しいな」

 とややキレ気味に、愛咲に言い詰めた。


「その通りだ。よくぞ言った、俊。そう、俺たちは自分の未知なるものに関する興味を追い求めているのだ。むしろ勉強熱心と言って欲しいものだ」


 それに感化された文也が便乗し、俺たちの熱い想いを語ってくれた。


 だったのだが、


「あー、はいはい。先いくわよ」


 いつの間にか俺と文也の間から抜け去った愛咲は、飄々とした口調で俺たちの熱い想いを聞き流し、登校を再開した。


 それにつられ、俺と文也も数歩遅れて学校へ向けて再び歩き始めたのだった。



*********************


「ん?なんだこれ……。手紙?」


 学校に到着し、土足から上履きに履き替えるため自身の下駄箱の前に行くと、『 松木 俊君へ』とピンクの文字で書かれた白い紙が入っていた。


 その紙を手に取るか迷っていると、


「おっ、それラブレターじゃね?名前誰だ?」


 すぐ横から文也に声をかけられた。


 一足先に上履きへ履き替え終わった文也が俺の元へ駆け寄って来たのだろう。


「へぇ、俊にラブレター送る女の子なんているのね」


 もう反対側から愛咲に声をかけられた。


 手紙を取るか迷っているうちに2人とも上履きへと履き替え終わったのだろう。


「普段の俊は素を隠してるからなぁ。……んで?」


「ん?何が?」


 文也からの質問の意図が分からず、俺は聞き返した。


 すると文也は特に気にする事はなく、

「そのラブレターにはなんて書かれてるのかなぁって」

 質問の内容をきちんと説明してくれた。

 興味本位での質問なのだろう。確かに、知り合いがラブレターを貰っていたらそれは気になって仕方ないというものだ。



 俺は手紙を恐る恐る手に取り、そのまま読み上げることにした。

「あぁ、ええっと……。『 昼休み、プール裏に来てください』だってさ」


 プール裏。

 普通の学校では校舎裏なのだが、この学校ではプール裏が絶好の告白スポットとしてなっている。


 校舎が二つあり、ほぼ全面に窓ガラスがあるこの学校では校舎裏は告白スポットにはなり得ず、逆に校舎から離れた位置にあるプールの裏では人気が少ないため、この学校の定番告白スポットになったわけだ。



 そして今回呼び出されているのはプール裏なのである。つまりはそういうことなのだが、気乗りしない。


「それで、俊はどうするんだ?」


 行くか行かないかの是非を聞いてくる文也。やはり気になるものなのだろう。


「まぁ、呼び出されたし行くしかないでしょ」

 気乗りはしないが、やはり行かない訳にはいかなかった。


 女子が怖いのは中学で散々味わった。もうあんな思いはしたくないのだ。



 そんなことを考えていると

「普段は隠してるアンタの素がうっかり出ないといいわね」

 愛咲から遠回しに気をつけろとの言葉を貰った。

「縁起でもないこと言わないでくれよ、愛咲」


「あははは、ゴメンゴメン」


 中学の出来事を知っている愛咲ならではの言葉だろう。


 大丈夫だ。上手く隠し通すさ。



 俺はこのグダグダとした、気の知れる友人たちとの学校生活が好きなのだから……。

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