第6話 嵐の前の大雨

「やっと、櫛名田くしなだちゃん行ってくれたね……」

 教室からピンクの長い髪をユラユラと揺らしながら出ていく愛咲ありさを眺めながら文也ふみやが疲れきったように呟く。

 俺も続けて、机に項垂うなだれた状態で疲労困憊ひろうこんぱいなげき呟く。

「まさか時間いっぱいまで説教してくるとは思わなかったよ……」


 そう、結局愛咲は朝のHR《ホームルーム》が始まる時間までずーーっと俺と文也にグチグチと説教をしていたのだ。

 その為俺と文也もだが、愛咲の疲労度合いもパンパじゃなかったようで、時間切れで自分の教室へ戻ろうとする際には足元フラッフラの状態だった。


 無事愛咲が自分の席にたどり着けたのかの心配をしていると、後ろからいつものように金髪団子頭ヘアーのなぎさ先生に声を掛けられた。

「話途中から聞いてた分は完全にお前ら2人が悪いからな」

 どうやらいつの間にか、HR前から教室に到着していたらしく話を遠目で聞いていたらしい。


 渚先生いつも教室来るの早くない??



「というか2人とも、この機会に少しはその手のおっぱいや太ももの話題控えたらどうだ?」

「「そんなことしたら俺が俺じゃなくなってしまう!!!!」」

 唐突に渚先生の口から放たれる俺たちへと向けた常套句に対して、俺と文也は息ぴったりに一言違わずに反論した。

 すると、渚先生はこの反応を読んでいたのか

「そうか、それなら仕方ないな」

 とあっけなく引き下がった。

 そしてそのまま

「とりあえずそろそろ授業始まるから準備しておけよ?」

 一限の授業の教材準備をするべく、教室を出る準備を始める渚先生。


「了解でーす」

「あーい」

 それに対して俺と文也はまるで、気の知れた友達と話す感覚で渚先生へ返事をした。


 すると渚先生は何かを思い出したかのように俺たちに再度話しかけてきた。

「ったく。……あ、そうそう。もしかしたら今日の体育外授業中止になるかもしれないから授業直前には誰か確認しに行くように伝えといてくれ」


 渚先生から伝えられた内容で気になることがあり、俺はそれを質問することをした。

 ズバリその質問というのは

「外授業中止って、今日の天気良くないんですか?」

 天気である。


 事前に伝えられるというのは相当なものなのだろうと俺は勝手に思った。


「なんだ、天気予報見てないのか?今日は昼ぐらいから大雨が降るって予報出てるぞ」

 渚先生が呆れたような口調しつつも、俺たちに今日の天気があまりよろしくないことを教えてくれた。

 とはいえ、

「今朝考え事してて傘持ってきてないです……文也は?」

「朝練遅刻しかけてたから、俺も天気予報見てなかった。折りたたみも持ってきてないや……」

 俺だけでなく、頼りの綱の文也さえも傘を忘れるという事態である。

「「どうしよう」」

 放課後に起こるであろうビショ濡れで帰らざるを得なくなる未来に俺たち2人は絶望しか無かった。


 しかし、神は俺たちを見捨ててなどいなかった。


「とことん世話やける2人組だなぁ。今日私は車で来てるから、放課後遅くてもいいなら送ってくけど、どうする?」

 渚先生という女神が救いの手を差し伸べてくれたのだから。


「先生……いいんですか……?」

「ありがたや〜〜!!!!」

 俺と文也はこれ以上がない程に渚先生女神様を心の中で崇め奉った。



「それじゃあ決まりだ。詳しいことは後で連絡するから」


 それだけ俺たち2人に伝えると、渚先生は今度こそ次の授業へと向かったのであった。



*********************


「結局昼ぐらい前からずーっと雨降ってるなぁ」

「おかげで今日の部活無くなっちまったよ」


 放課後になり、俺と文也は窓の外の景色、大雨で水浸しになっている校庭を廊下から見下ろしていた。


「俺も俺で愛咲に部活来なくていいって言われたしなぁ……。とりあえず図書室にでも行って時間潰すか」

 そう言って、俺は漫研部室と同じ階にある2階の図書室の方へと向かおうとした。

 すると、

「そだな〜。ってか、ずっと聞きたかったんだけどさ」

 文也が何やら気にかかる言葉を発した。

 しかし、1年と2ヶ月のそこそこ付き合いがある為そんなに変な質問はしてこないだろうと、身構えることはしなかった。

「なんだ?どうせ時間はたっぷりあるんだ、なんでも聞いてこいよ」

 その状態を言葉として表に出した。


 すると文也は案外するりと質問を繰り出してきた。

「どうして美術部辞めたんだ?別に絵を描くことが嫌いなわけじゃないだろ?現に今漫研で描いてるわけだし」

 どうやら、文也としてはずっと俺が美術部やめた理由を気になっていたのだろう。

 確かに言っていなかった為、この機会に理由を問おうと思ったのだろう。


 特に隠す必要性がなかった俺は

「あーその事か。まぁ簡単に言うと、今の部長に俺が1年の時の冬頃に、美術部を強制退部させられたのよね。お前はここに相応しくない、芸術を分かってないってな」

 ざっくりとだけ、説明した。

「なんか、凄い人そうだな、その部長さん……」

 俺が美術部を辞めた理由に驚きを隠せない様子の文也。


 しかし、聞かれた以上しっかりと理由を伝えたいと思った俺は

「まぁ、詳しいことは図書室で座りながらしようぜ。その部長のこと含めて」

 図書室での待機時間を使って、事の経緯を話そうと考えついた。

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