第5話 二度あることは三度ある

「俊どうしたの?なんか悩み事?」


 いつものように登校し、俺が下駄箱で上履きに履き替えていると後ろから愛咲ありさに心配そうな声で話しかけられた。

 愛咲の方へ振り返ると、今日も彼女のピンクの長い髪が綺麗だった。


「そう、見える?」


「見えるわよ。なーんかいつもの俊には似合わない難しい顔をしてさ〜」


 昨日の部活の時にあおいちゃんに『分かっていない』と言われてから、今日学校に来るまでずっと考え事をしていた。

 それが表に出てしまって、心配させてしまったのだろう。


 すると、

「そうそう、頭の良い奴が考えすぎると逆にバカになるって聞くぞ。って頭の悪い俺が言っても説得力ないか」

 さらに愛咲と一緒に登校してきたのであろう文也も、後ろからこれまたやや心配そうに声をかけてきた。

 余程表に出てしまっていたのだろう、反省である。


「2人とも言いたいこと言ってくれるなぁ……」

 俺は大きなため息をついた。


 すると2人は

「それで?何に悩んでるの?相談があるなら乗るよ?」

「俺も話聞くくらいならするからな?やっぱり俊が元気ないと、楽しさ半減だしさ」

 ずいっと俺に詰め寄った。

 余程心配してくれているのだろう。良い友人を持ったと思った。



 だから俺は


「それじゃあ少し、いいかな?」


 2人に相談を持ちかけた。


「「もちろん!」」


 快く相談を受ける愛咲と文也に、俺はどこか気が楽になった。

 *********************




「なるほどねぇ、昨日の部活の時そんなことがあったのね。さて、どうするかなぁ……」


 俺は教室に移動しながら、昨日の部活の時に起きたことをこと細かく愛咲と文也の2人に説明した。


 おおむねの話を理解した愛咲は、フムフムと小さく頷きながら考え事を始めていた。


 そして、文也はと言うと

「何がどうなってそんな状況になるんだ?」

「俺が知りたいよ」

 どうやら、縛られた時のことでつまずいているようだった。

 あの一瞬で葵ちゃんがどうやって緩くてでも縛れたのか、当事者である俺でさえも、ものすごく気になるところである。


 しかし文也が気にいているのはそれだけでは無いようで

「それでその時の水沢みずさわさんは…どうだったんだ……?」

 と、言葉を濁しながら聞いてきた。


 すぐ隣に愛咲がいるからか、発言に気を使っているのだろう。その為、一瞬はなんの事を聞かれているのか分からなかった。それでもヒントはあった。


 昨日のことを思い出し、俺は葵ちゃんに縛られている時のことを思い出しながら

「あぁ、ええっと、すらっとしててだな…」

 少しづつ言葉にしていくことにした。


 そう、文也はどこまで行っても太ももなのである。だからこそ今回も言葉を濁らされていても太もものことだと理解出来た。

 そして、質問の意図があっていたのか

「ほうほう?もっと詳しく……」

 文也は続きの催促をした。


 声のボリュームが本人の無意識のうちに上がっており、そんなボリュームが上がった声で文也が続きの催促をしてしまえば、いくら考え事をしていてもすぐ隣でそんなやり取りをしている事に彼女が気づかないわけがなく

「2人はいったいなんの話してんのよ!!というか俊もいちいち言わなくていいの!種田くんもそういう話は私のいない所でしてくれる!?」

 案の定、愛咲はキレた。


「「あっ、はい」」

 そして俺たちは息ぴったりに間の抜けた声を出し、さっきまでしていた太ももに関する話をやめた。



「はぁ……ったく。それで葵ちゃんの話なんだけどね、俊」

 やれやれと溜息をつきながらも、愛咲は俺に真面目なトーンで話を持ちかける。


 当然そんな真剣な雰囲気になってしまっては、さっきまでの文也のやり取りの時の気持ちではダメだと感じ、自身の頬を叩いて気を引き締めることにした。


「おっけ、大丈夫。いいよ」


 自分なりに話を聞く準備が整い、俺は愛咲に向き合った。


 すると開口一番に彼女から告げられたことは

「あんた、今日の漫研休みなさい」

「えっ?」

 部活を休めというものだった。


 俺は驚きのあまり、思わず一言発したままの口の形で愛咲を2度見した。

 すると愛咲は、

「あんたは私が呼ぶまで部活の時間は図書室にでもいなさい。大丈夫、私に任せなさい」

 サクサクと話を進めていた。



 あまりにも突拍子のないことで俺が、なんの事やらと困惑していると

「まぁ、今回は俺の役目は無いかもなぁ……。なんかごめん。お詫びに俺のお宝、あげるわ」

 文也が自分のカバンからいつも忍ばせている“アレ”を手を震わせながら俺に差し出してきた。

 よほど渡したくないものなのだろう。それでも、そんな大切なものを俺にくれるとは、良い友人を持ったものだ。


 しかしながら、差し出されたものに不満点のある俺はつい余計なことを言ってしまった。

「そこはおっぱい本じゃないのかよ」

 そう、つい自分の欲望が出てしまったのだ。


 当然相当な覚悟を持って大切なお宝を渡した文也にとってはご立腹ものだろう。

「俺が持っているのは全部太もも本だけなんだが?」

 文也の言葉からはむき出しの戦意を感じた。



 お互いに自身の欲望・拘りを持って臨戦態勢の姿勢をとっていると

「だ〜か〜らぁぁ!!私のいない所でやってって言ってんでしょうがっ!!!!」

 またしても愛咲からの横槍が入り中断せざるを得なくなってしまった。




 そんな気の抜けるやり取りをしていたからか、今朝まであったどこが重いモヤモヤ感が少し軽くなった気がした。

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