第11話 魅惑のボディに潜む罠

 俺と文也ふみやなぎさ先生に分からないところを聞きながら、今日色んな先生から出された宿題に粛々と取り掛かっていた。


 そんな時だった。

「ふぅ〜、サッパリした〜」

 風呂から上がったラン先輩が大胆な格好でリビングへ入ってきたのだ。

 あまりにも大胆な格好だったが為に

「ちょ、ラン先輩……!その格好は……」

 俺はタジタジになってしまった。

 けれどその俺の反応がラン先輩の狙い通りだったのだろう。

「え?いつもの格好だけど?もしかして君たちにはちょーっと刺激強かったかな?♡」

 笑顔でそう答えると、ラン先輩がイタズラな笑顔をして俺と文也がいる方へと近づいてくるのだ。


 そう、彼女の言ういつもの格好で。上下桃色のノースリーブシャツとホットパンツと言う、思春期男子には刺激の強すぎる格好で。

 彼女の特徴であるピンク色の長い髪が濡れているのが、より一層扇情的な雰囲気を醸し出し、俺は思わず目を逸らした。


 すると、俺が見事なまでにラン先輩に振り回されている中、何とか毅然きぜんとした態度を取り続け黙々と宿題に集中していた文也が、とうとう言葉を発したのだった。

「普段から持ち歩いてるお宝本と比べたら、先輩のお風呂上がりの部屋着を見たってなんともありませんけど?」


 俺はこの文也の言葉を聞き、一瞬コイツには敵わない、そう思ってしまった。


 けれどもラン先輩はどうやら見逃していなかったようだ。そう、男が取りがちな“あの行動”を。


 そんな男の特徴を知っている様子のラン先輩は文也にこう返した。

「その割には種田君、妙に前のめりみたいだけどぉ?そんなに私の太ももに興味があるのかな?それとも……前のめりになって隠さなきゃいけないものがある、とか」


 そう、文也がとっていた毅然な態度は、ただ単に男としての膨らみを隠す為の小芝居だったのだ。

 図星を突かれた文也はと言うと

「そんなんじゃありませんけど!」

 必死に否定する。

 だが、男の俺には分かってしまうのだ。いや、男だからだけではなく、同じ性癖フェチズムに通ずるものとして……。

 だからこそ、その直後のラン先輩の行動の凶悪さが分かってしまうのだ。


「それじゃあ私が近づいても問題無いわよね〜」

 そう言って1歩2歩と文也の方へと近づくラン先輩。


「問題無いですよ?問題無いですけど勘弁して下さい……!!」

 ラン先輩に近づくに対して距離を取ろうと後ずさりする文也。


 しかしそう簡単に獲物は逃してくれないようで

「気が済むまで触ってもいいって言っても?」

 これまた男心を燻らせるような言葉をラン先輩が口にする。

 とは言え、先程から先輩のイタズラに何度も引っかかっている為か

「また、揶揄からかう気ですよね?」

 警戒する文也。

 何度もされてしまっているのだ、当然の対応だろう。

 文也が誘いに乗ってこなかった事で

「見事に警戒されちゃってるなぁ〜。……そうだ!」

 やや頭を抱え困っている様子のラン先輩だったが、またなにか閃いたようだった。


 すると、文也の方から渚先生の方へと体の向きを変えるラン先輩。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「どうした?ラン」

 俺たちの勉強を見つつも、自分の仕事に取り掛かりノートパソコンを叩いていた渚先生がラン先輩の声掛けに応じた。


 すると、ラン先輩が渚先生にこんな提案をした。

「2人の宿題、私が見るからさ、お姉ちゃんもお風呂入ってきたら?」

 と。


 当然、注意はしなかったものの先程からの俺たちとラン先輩のやり取りを一部始終を見ているわけで

「……あの2人をこれ以上揶揄うなよ?」

 渚先生はラン先輩に厳しい口調で注意をする。


「勉強教えるだけだってば〜」

「まぁ、そういう事なら私も風呂入ってくるかな……」

 勉強教えるだけ、とのラン先輩からの言葉を真に受け、渚先生はノートパソコンをそっと閉じゆっくりと立ち上がった。


「2人とも、くれぐれもランに手出すなよ?」

「「分かっております」」

 今度は俺たちに注意を向けた渚先生だったが、先生本人の恐ろしさを体感している俺たちは一斉に声を合わせ、渚先生に敬礼した。


 それに安心したのか、

「おう。それじゃあちょっと入ってくるわ」

 渚先生はリビングから出ていき、そのまま風呂場へと向かった。


 渚先生の金色の髪が扉のガラス越しから見えなくなるのを確認するとラン先輩が、今度は俺の方へと近づいてきた。

「さてと、それじゃあ続きをしましょうか〜。松木君はおっぱいがいいんだよね?」

 そう言って、胸を強調させるように前屈みになるラン先輩。

 俺はそのラン先輩の胸に視線を吸い寄せられつつも

「あの、さっき勉強教えるだけって渚先生にラン先輩自身が言ってませんでした?」

 何とか振り切ろうと、先輩がさっき言っていた言葉を確認をしてみることにした。


 が、その答えはと言うと

「性のお勉強は教えない、とは言ってないわよ?」

 なんともまぁ、古典的なものだった。

 あまりにも古典的過ぎて

「えぇ……」

 俺はただただ彼女の魅惑的な胸を眺めながら驚くことしか出来なかった。

 しかし、俺の視線に気づいていたのか

「それで?私のおっぱいはどう?柔らかそうで触りたくなっちゃうでしょ〜」

 前屈みのままで横に揺れるラン先輩。


 当然彼女の柔らかい胸が揺れないわけなく

「ちょ、目の前で揺らさないで下さい……!」

 そう言いながらも、俺は彼女の胸から目を離すことが出来なかった。もはや習性である。


 とは言っても、ずっと彼女の胸しか視界に入らない訳ではなく、彼女の腕も視界に入る。その時だった。

「って、なんからん先輩の腕妙に震えてません?」

 揺らしているとはいっても、あまりにも不自然な震え方で、つい指摘してしまった。

「え……?あぁ、本当だ。よく気づいたわね」

 身体を揺らすのを止めると、ラン先輩は右腕が小刻みに震えているのを自覚した。



 その右腕の震え方があまりにも不自然すぎた為に俺はある事が脳裏によぎった。

 それが何かと言うと

「先輩、もしかしてですけど豊乳運動とかしてませんよね……?」

 手を胸の前で合唱し、胸と腕に力を込めることで胸の成長を促す、やや都市伝説的な運動のことだ。


 すると、ラン先輩からの答えはと言うと。

「してるわよ?形と柔らかさは君好みだけどやっぱり大きさだけはどうしようも無いからね〜。だから定期的にこうやって豊乳運動してるわよ。それがどうしたの?」

 イエスだった。


 俺はフツフツとラン先輩に対して怒りが込み上げてきた。

 その為、俺は

「……離れてください」

「えっ?」

「サイボーグは離れて下さい!」

 気づけばラン先輩に対して暴言を吐いていたのだった。


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