第19話 男の友情、女の牽制
そして、文也が階段の1段目にドカッと勢いよく座ると
「それで、俊は何悩んでるんだ?とことん聞いてやるから言ってみ」
文也は俺にそう語り掛けてきた。
「今朝のこと、
一応、念の為にと、俺は文也に聞いてみた。
勘違いかもしれない、という密かでささやかな願いを込めて。
しかし、そんなちっぽけな願いが叶うはずもなく
「おう。お前に色々余計なことを聞いてしまって、反省してるってさ」
文也は葵ちゃんからの言伝を俺に伝えた。
「そっか……」
謝らなければならないのは逃げてしまった俺の方なのに、葵ちゃんの方から謝らせてしまったことに憤りを感じた。
そんな俺の自暴自棄に近い気持ちとは裏腹に
「まぁ、うだうだ聞いてても仕方ないし、男同志のぶっちゃけトークでもしようや。ここなら邪魔も入らないしな」
文也は明るめの声を発した。
「ぶっちゃけトークって、いつもの
どうせ文也のことだろうし、と勝手に決めつけていると
「いや、違う」
彼本人の口からそれを否定された。
「ならなんだよ、ぶっちゃけトークって」
俺と文也とでぶっちゃけて話をする場合、おっぱいと太もも論争の
すると、文也の口から信じられない言葉が飛び出した。
「ズバリ!お前が
あまりにも唐突だったためか、しばらく辺りは静寂に包まれた。
やがて、俺が口を開き言葉を発するも
「……直球過ぎない?」
驚きのあまりさっきまでの苛立ちがどっかに飛んいってしまった。
「これでも野球部なもんで、
どっかに飛んで行った俺のいらだちが戻ってこないようになのか、文也はこれでもかっ!という程に眩しい笑顔を俺に向けていた。
「そういえばそうだったな」
つられて俺も、はにかんでいた。
どうも、文也には色んな意味で調子を崩される。だが、それが意外にも心地よかったりもする。
不思議である。
「それで?どうなんだ?」
そんな親友がこれでもかと心配しながら聞いてくるのだ。
抗えるはずもなく
「……絶対本人には言うなよ?」
「当たり前だ、少しは信用しろ」
「そうだったな。おれはだな……」
信頼出来る親友に、今の気持ちを打ち明けることにした。
文也はそれを黙って、聞いていた。
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そんな、俊が文也に自分の櫛名田
「はぁ……。やっちゃった……」
今回の大元の原因である水沢 葵が大きな溜息をつきながら次の授業の為に教室の移動を行っていた。
「俊先輩にも櫛名田先輩にも嫌われただろうなぁ……」
なんで今朝、櫛名田先輩の家で俊先輩にあんな質問をしてしまったのだろう。しかも、よりによってそのやり取りを櫛名田先輩本人に聞かれてしまった。
「そんなことよりも、これで2人の仲が悪くなったら私どうしたら……」
そんなズルズルと悪い方向へと思考がループしていく私の元へある1人の特徴的な色気のある声の女性が、声をかけてきた。
「あら、元気なさそうだけどどうかしたの?」
私は慌ててその女性の容姿を確認した。
赤髪の三つ編み。俊先輩が好みそうな柔らかそうで形の整った胸。そして右腕に腕章。
私はすぐにこの人が誰か確信した。
「あぁ、
この学校に、腕章をつけてる人はたった2人しかいない。
1人は風紀委員長。そしてもう1人はこの生徒会長の仲木戸 ラン先輩である。
「うん、おはよ〜。それで何か悩み事?」
「えっと、えぇ、そんなところです。すいません、心配させてしまったみたいで」
私はこの人は少し苦手だ。
特に話をしたことがある訳では無いけれど、何処か人の粗を探しながら話している、そんな気がするからだ。
「そんなことは無いわよ〜。でもそうね、どうしても悩みが解決できそうにないなら、いつでも私のところに相談してくれていいからね〜」
噂に違わないマイペースっぷりな仲木戸先輩が話を進めてくる。
「え、でも」
今回の件では関係の無い仲木戸先輩に相談するのもおかしな話であり、私はやんわりと断ろうとした。
すると、
「いいのいいの〜、趣味の一環みたいなものだし〜。それに、あなた漫研の子でしょ?おっぱい星人の松木くんのいる」
「……知ってたんですか?」
相変わらず話し方はのんびりしているが、俊先輩の話になった時から少し仲木戸先輩の雰囲気が変わったように思えた。
なんというか……、雰囲気が重くなったのだ。
そんな少し様子の変わった気のする仲木戸先輩は話を続ける。
「知ってたも何も、松木くんはそれなりに問題児だからね〜。当然漫研に所属している事だって把握してるし、部員も調べてるってわけ。……ね、ちっちゃい子好きの水沢さん♡」
突然、私の名前を当てるだけでなく
「私そこまで目立った行動とってないと思うんですけど。俊先輩みたいに通学路や教室で叫んだりなどしてませんし」
私は警戒しながら、なぜ知っているかの理由を聞いた。
仲木戸先輩はやや困り顔をしながら
「んー、確かに松木くんや太もも魔人の種田くんと比べたら全然表に出てないものね」
俊先輩や種田先輩のことを口にした。
そう、先輩たちは堂々と
「でも私は違うわよ?」
そう、私はそうでは無いのだ。私は表立って自分の性癖を話したりしていない。信頼できる人達にしか明かしていないのだ。
それなのに何故……。
仲木戸先輩が私の性癖を知っている理由がすぐに分かった。
いや、むしろ1度答えを言っているようなものだった。
「だって、あなたことある事に松木くんに“ ちっちゃい子はどうですか?”って詰め寄ってるじゃない」
「それはそうですけど……」
「だから、松木くんを監視してる私たちにはバレバレってこと」
そう、漫研の活動を通してバレていたのだった。俊先輩が目をつけられているのだから、先輩所属している漫研も目をつけられて当たり前だったのだ。
冷静でなかったためか、そこまで頭が働いていなかったのだろうか。
そんな風に、少しだけ落ち込んでいる私に、仲木戸先輩は突然、意味深な言葉を口にした。
「……けど、あなたの気持ちは少しは理解できるのよ?」
「……なんの事ですか?」
正直、この先輩が何を言っているのか分からなかった。
私の何を理解できるのだろう、と。
すると、それを見透かしたかのように
「自分の身体と同じ、華奢な体型が彼の性癖の対象になるように、色々とアプローチしてるってことをね〜」
「……っ!!!」
仲木戸先輩はドンピシャで私の心理を読んで述べていく。
なんなんだろうか、この先輩は。どこまで私の心を見透かしているのだろうか。
「だから、もう一度言うわね〜。困ったことがあったらいつでも私のところに相談しに来てくれていいわよ〜」
最後にそれだけ言うと、仲木戸先輩はどこかの教室へと向かって歩いていった。
「……仲木戸先輩、侮れないなぁ」
女性的な本能的に、この人には逆らってはいけない、そう思わされてしまった。
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