第18話 漢気溢れる親友、その名も太もも魔人・種田 文也

 俺、種田 文也ふみやは今日もいつもと変わらず、1人で学校へ向かっていた。

 いや、いつもと変わらずではなかった。

 今朝生徒会長である仲木戸 ラン先輩から素晴らしい太もも写真を送られてきたのだった。

 しかもパンチラのご褒美付き。これを見てたかぶらない男はいるだろうか。いや、いない!!!


 そんなことを思い出して興奮していると、俺は前方に歩く2人、松木 しゅんと水沢 あおいちゃんを見つけた。

 仲良く登校か、と思いきやどこか様子がおかしい2人に、俺は心配に声をかけることにした。

「おはよう、俊に水沢さん」

 俺の声に反応し、振り返る俊と水沢さんは何となく顔に生気せいきが無いように見え

「なんだ?」

「なんでしょうか?」

 返事もどこか無気力な感じだった。

「いきなりで悪いんだけどさ。えっと……、何かあった?」

 俺は反射的に2人にそう問いかけた。

 何も無ければこんな雰囲気にはなってないと思いながら待っていると

「特になんにも」

「種田先輩の気の所為せいじゃないですか?」

 2人が口裏を合わせたかのようにそう言った。

 特に無い。俺の気の所為。

 ここまで言われてしまえば、深く追求することも出来ず

「そう?まぁ、何はともあれ2人が仲直りしてくれてよかったよ」

 俺は一旦引き下がろうと考えた。


 そこでふと思い出し、気になったことがあった。

「……ところでその2人の仲を取り持つって言ってた櫛名田くしなだちゃんは?」

 そう、櫛名田ちゃんこと 櫛名田 愛咲ありさちゃんの姿が一向に見られなかったのだ。

 昨日の今日なのでてっきり一緒に登校するものだと俺は考えていた。

 しかし、そんな2人の反応はと言うと

「……!!」

「あの、種田先輩。その話は……」

 各々違う反応を示していた。

 俊は苦虫を噛み潰したような表情をし、水沢さんはと言うとこれ以上この話題は避けてくれと言わんばかりに必死にジェスチャーをしてくる。


 そんな反応されてしまえば気にならないわけがなく

「えっ、何……?何かあったの?」

 と水沢さんに聞くことにしてみた。

「ええっと、これですね、その、訳がありまして」

 水沢さんが何やら答えにくそうにしていると

「ごめん、葵ちゃん、それと文也。実は今日、日直だったの忘れてた。先に行くわ」

 俊が突然走り出し、あっという間に姿が見えなくなってしまった。


「ちょ、俊!?……あいつ今日の日直じゃないはずなんだけどな」

 当然、訳が分からない俺は突然の俊の行動に慌てふためいていた。

 すると水沢さんがポツリと気になる一言を放った。

「……やっぱり俊先輩、櫛名田先輩のこと気にしてるんだ」

 すぐ傍にいる俺が聞き逃すはずもなく

「水沢さんは、何となく事態把握してるってことでいいの?」

 恐る恐る水沢さんに聞いてみた。

「把握してると言いますか、多分私が原因なので」

 彼女は泣きそうになりながらも、それをぐっと堪え、そして答えてくれた。


「……歩きながら教えて貰ってもいい?」

 このまま立ち止まっていると俺も彼女も遅刻してしまうため、俺は学校へ向かいながら話そうと提案した。

 しかし、何となく事態を察するにそれなりに重そうな話であるからか

「他言無用でお願いしたい話もあるんですが……」

 水沢さんはこんなことを言い出した。

 言い出しにくい事だと分かっていながらも、それでも聞き出したかった俺は

「あぁ、保険が欲しい?そうだなぁ……」

 勝負に出ることにした。

「いえ、別に疑ってるわけじゃないんですが」

 彼女としてはまさかこんなことを言われるとは思っていなかったようで、とても驚いていた。

 とは言え、俺が言い出した事なので止まる訳には行かなかった。

「そうだ、これなら信用して貰えると思うよ?」

「はい……?」


 水沢さんに嫌われるかもしれないと分かっていても、俺は止まることは出来なかった。

 親友である俊の為に……。



「俺が太もも好きだって言うのは知ってるよね?」

 念の為にと、俺は水沢さんにこんなことを質問した。

 すると

「それはまぁ、俊先輩から聞いてますが。それが一体どうしたんですか?」

 と、どうやら俺の性癖フェチを知っているようだった。



 それなら話が早い。



 俺は覚悟を決めて、水沢さんに告白することにした。

「この際だからぶっちゃけると、全体的にスラッしてて白い肌の君の太もも、俺的にはどストライクなのよね」

「な、突然何を……!?」

 当然、彼女の反応は予想通りで、何言ってるんだろうこの人というようなものだった。

 けれどそうでないと意味がなかった。


「えっと、他言無用な話に対する保険、みたいな?」

「自分から自爆告白する必要がどこにあったんですか!?」

「でも、少しは信頼できるでしょ?」

 自分の弱みを相手に握らせなければ、保険とは言えないし相手も信頼してくれない、俺はそう考えた。

 だからこそ俺は自爆特攻ならぬ自爆告白をすることにしたのだ。

 その頑張りがあってか

「それはそうですけど……」

「だから教えてくれ。俊と櫛名田ちゃん 、それに水沢さんの間に何があったのか」

「……誰にも教えないでくださいね?」

 なんとか、水沢さんから内容を教えて貰えることに成功した。


*********************



 葵ちゃんと文也を振り切るように走って学校に来ると、そのまま俺は自分の席に座り窓の外を眺めボーッとしていた。

 2人から逃げてしまったことを密かに後悔していると、

「よっ、俊」

 そのうちの1人である文也に声を掛けられた。俺がボーッとしている間に到着していたのだろう。

 しかし、俺は未だにさっきの事の心の整理ができておらず

「文也か……。悪いな、ちょっと今は1人にさせてくれ」

 つい反射的に文也を突っぱねようとした。

 その時だった

「今朝の櫛名田ちゃんの家でのことだろ」

 ふと、そんなことを言い出す文也。


「なんでそれを……!」

 思わぬ言葉に俺は思わず文也を凝視した。

「水沢さんから聞いたんだよ」

 フッと軽い笑みを作りながら文也はそう言う。



「なるほどな。……なら分かってんだろ?そっとしといてくれ」

「悪いがそれは出来ない相談だな」

 どうしても愛咲のことで気持ちの整理をしたくそっとしておいて欲しい俺なのだが、文也がそれをさせてくれなかった。

「何でだよ。今は誰とも喋りたくないんだよ!」

 俺は苛立いらだちを表に出しながら再度文也に自分の気持ちを伝えた。

 しかし、文也は思いのほか強情で、そして

「そんな顔した親友を放っておけるわけないだろ!話聞くから教えろって!」

 それを上回るほどに友達思いだった。


「……文也」

 文也と親友になれて、良かったとこの時ほど思ったことは無かった。

 そんな中、文也は、俺がすっかり懐柔かいじゅうされているとは知らず

「それとも昨日、俊が帰った後俺がどうやってラン先輩を落ち着かせたか聞きたいか……?」

 脅し文句に手を掛けた。

「それはほんとごめん……。わかったよ、話すよ……」

 今朝のラン先輩の事もあり、文也の頑張りが何となく想像でき、俺は非常に申し訳ない気持ちになった。


「始めっからそう言えよ。そんじゃあ、教室出るぞ」

「でも、そろそろHR始まるぞ?渚ちゃんに絶対怒られるって!」

 突然俺の腕を掴み、教室の外へと向かおうとする文也。

 俺は体裁を気にしてHRが始まることを促して教室に留まることを示唆していると

「その通り。何勝手に抜け出そうとしてるんだ?」

 タイミングよく渚先生が教室に現れた。

 時計を見ると、HR開始2分前だった。普段は早すぎる渚先生の襲来に文句を言っているところだが、今回は助かった。

 これで文也も諦めてくれるだろう、そう考えていると

「すいません、渚先生。今だけは見逃してくれませんか?」

 まさかの抗議を始める文也。しかも、普段はタメ口なのに今回に限って敬語である。

「なんだよ、そんな仰々しく謝ってきて……」

 あまりの態度の豹変っぷりに流石の渚先生も、タジタジになっていた。


 それでも文也は止まることなく

「今はHRよりも、こいつと男同志で話す方が大事なんです!だから今だけは見逃してください!」

 そう、渚先生に言い切った。

 そんな中俺はと言うと、今朝のことが重なっていることもあるのだろうが

「お、おい。そこまでの話じゃ……。戻ろうぜ?な??」

 どこか弱気になっていた。

 そんな、真反対なことを言う俺と文也に対しての渚先生からの返答はと言うと

「……後で簡単にでもいいから訳を話してくれるのなら、見逃してやってもいいぞ」

 であった。

 当然、文也の返事は決まっており

「ちゃんと報告します。だからお願いします!」

「なら行っていいぞ」

 渚先生はそれを了承した。

「ありがとうございます!!ほら、いくぞ、俊」

「お、おう……?」

 俺が文也に流されるがまま、教室を出ようとしたその時だった。

「あー、おっぱい星人、ちょっと待った」

 渚先生が突然俺を呼び止めた。

「えっ、何?って痛い痛い痛い!!!!」

 何事かと思い振り返ってみれば、頭に鈍い痛みがビリビリと広がった。

「“渚ちゃん”って呼んだ罰は与えておかないとな」

 どうやら俺が“渚ちゃん ”と言ったのを聴き逃していなかったらしく、そのお仕置として頭グリグリ攻撃をされたのだった。

「おい、大丈夫か俊?」

 心配そうに俺を見つめる文也だったが

「頭いってぇぇ……」

 あまりの痛さに俺はただひたすらに頭を抑えるので精一杯だった。

 そんな俺たちに渚先生は

「ほら行った行った。今から出欠確認と報告で忙しいんだ。男同志の話は人気の少ない階段の踊り場辺りでやってこい」

 こう告げた。


「だってさ、踊り場いくぞ、俊」

 渚先生の言葉を聞き、親友である文也は未だ頭の痛みが収まらない俺を優しく引っ張りながら、人気の少ない場所へと誘導する。

「……ありがとな」

 俺はポツリと端的にそれでいて心からの言葉を、文也に聞こえないように小さな声で零した。



「おうよ」

 そんな俺の言葉にハッキリと返事をする文也だった。

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