第16話 後輩な美少女の葛藤と悪戯心

「さてと……まず何からしようかなぁ」

 櫛名田くしなだ 愛咲ありさ先輩がシャワーを浴びに行ったのを確認すると、私は何を最初にしたらいいかを悩んで部屋中をウロウロとしていた。


 とは言え、ただ闇雲にウロウロしてても埒が明かないため

「とりあえず部屋の香りからかな?えぇっと、フレグランススプレー、フレグランススプレー……」

 1番初めに思いついた事を行動することにした。


 しかし、さっきまで櫛名田先輩を落ち着かせることで精一杯だったためか、フレグランススプレーの場所まで聞いていなかった。

 ただひたすらに部屋中をくまなく散策していると、1つの布に目がいった。

 恐る恐ると私はそれを手に取る。

「これって、先輩の……下着、だよね」

 あまりにも大きいブラジャーに私は驚愕した。


 しかもただ大きいだけじゃなかったのだ。

「先輩って真面目な顔して、こういうの持ってたんだ……」

 シンプルなデザインの下着を着けていると思っていたら、まさかの黒レースのブラシャーが出没したのだから。

 しかも大事な突起とその周辺以外はスケスケなのである。


 性的な物への許容範囲が広い私であるが、流石に想像の範疇はんちゅうを超えており

「これを着けて俊先輩に迫られたらちょっと私には敵いそうにないなぁ……。どうしよう……」

 あまりにも強大な恋敵こいがたきの存在に、打ちのめされそうになっていた。

 唯一の救いは、櫛名田先輩が俊先輩と長い付き合いであるが故にアプローチできずにいる事だ。


 とは言え決して余裕がある訳ではなく、私としては絶対に俊先輩を譲れない理由があった。

「……早く俊先輩をロリコンに仕立てあげないと、櫛名田先輩に取られちゃうかもしらない……。頑張らないと……!」

 自信を奮い立たせ、俊先輩へと気持ちを折らないよう、私は気合いを入れ直した。



 そんなこんなで探索を再開させた私は、無事にフレグランススプレーを見つけたはいいものの、あることで悩んでいた。

 それが何かと言うと

「2つあるけどどっちのがいいんだろう。ええっとこっちが“ スウィートローズ”でもう片方が“ホワイトフローラル”かぁ……」

 どっちの香りにするべきかということだった。

 櫛名田先輩に今すぐ聞きに行くのが安全なのだろうけれども、あいにく先輩は今はシャワー中である。聞きに行って、俊先輩のことを意識してまたパニックになったら大変だと思うと、私は躊躇った。


 パニックになってる先輩は先輩で可愛いかったが、本人は必死だっただろうしそれは私の胸の内に控えておくことにしよう。


 そして結局

「先輩に似合いそうなのはこっちだよね……。うん、こっちにしよう」

 私の独断と分析で、2択だった香りを一つに絞った。櫛名田先輩とはフェアに戦いたかった為、私は全力で考えた。考えた結果、“ あの香り”が良いと判断した。

 あれで少しは流石のおっぱい星人な俊先輩も櫛名田先輩を意識することだろう。



「あとは私の準備だけかな。……そうだ、少し先輩の反応を試してみようっと。どんな反応するかなぁ、俊先輩」

 私は最後の最後にちょっとした企みを思いつき、色々と仕込みをしながら、フレグランススプレーをリビング中に吹きかけて俊先輩が到着するのを待つ事にした。


*********************


 後輩の水沢 葵が変な企みを計画してるとは知らず、俺は紆余曲折ありながらも、ようやく幼馴染である櫛名田 愛咲ありさの家へとたどり着いた。


 ピンポーン。


 家のベルを鳴らすとドア越しに

「はーい、今出ますねー」

 愛咲とは違う女の子の声が聞こえた。

「あれ?これ、愛咲の声じゃない気が……。部屋間違えたかな……」

 俺は一瞬戸惑ったが、声がドア越しで曇っていたとは言え聞き覚えのある声にどうしていいか悩んでいると……。



 ガチャっと、音を立てて愛咲の家かもしれない家のドアが開かれた。

 そこから顔を覗かせたのは

「間違ってませんよ。櫛名田先輩は今シャワー浴びてるので、代わりに私が出たんですよ」

 青く短い髪の美少女、葵ちゃんだった。

 葵ちゃんが顔を見せ、愛咲がシャワー浴びてると聞いたことで俺は合点がいった。

「あぁ、そういう事ね。というか、女子って朝シャワー好きだよなぁ」

 俺は家を間違えてなかったことにホッとしながら、何気なく葵ちゃんに問いかけた。



「私はそうでも無いですけどねー。ゆっくり湯船に浸かりたいですし」

「そうなのか」

 葵ちゃんが湯船派だと分かると、俺はどんな風に湯船に入っているのかを想像し始めてしまった。

 するとそれを見透かされたのか

「……もしかして、私がお風呂に入ってる姿、想像したりしちゃいました?」

 葵ちゃんが含みのある笑みを浮かべながら、俺の目をじっとりと見つめていた。

 あまりにもドンピシャなタイミングだったことで俺は動揺し

「いや、あの、別にわざとじゃないからね!?」

「それ、認めちゃってますからね、先輩」

「あ……」

 否定し損ねてしまった。


 そこに追い打ちをかけるように

「先輩が責任とってくれるなら、今度見せてあげても、いいんですよ?」

 葵ちゃんは色っぽい手つきで制服のボタンに手をかける。

 胸が小さく、全体的に小柄な葵ちゃんだが、決して女性として意識していないわけがなく

「…………別に見たいなんて言ってないけど」

 むしろ、男子としては強がりを言っても、本能的には気にしてしまうものだ。

 当然葵ちゃんは自身の魅力に気づいていないはずがなく、わざとアピールしてきてるわけで

「先輩の目が胸の方に言ってる気がするんですけど?」

 男の視線には敏感なのだろう。

 けれど、図星だとはいえそう簡単に認める訳にはいかないため

「気のせいだよ」

 何とか誤魔化そうと試みた。


 すると、

「そうですか。ではそういうことにしておきます」

 何があったのかは分からなかったが、葵ちゃんが引いてくれたのだ。

 正直詰めていけば俺に勝ち目なんてないと思っていたから、助かった。

「ありがとね、葵ちゃん。それと、はいこれ」

 そんな葵ちゃんに俺はあるものが入った紙袋を渡す。

 すると、葵ちゃんは中身を確認すると大喜びして笑顔を俺に向けた。

「あ、私の本!わざわざ持ってきてくれたんですね、ありがとうございます!」

 よっぽど自分のロリ本が気になってたのだろう。ここまで喜んでもらえたのなら持ってきたかいがあった。

「長いこと持ってる訳にもいかないしね」

 俺は照れを隠しながら葵ちゃんにそう言った。


 そんな葵ちゃんがふと俺にこんな質問をしてきた。

「それで、どうでした?」

「どう、とは?」

 俺は質問の意図が分からなかった。


 そんな俺を見越してか、葵ちゃんは詳しく質問内容を教えてくれた。

「中身ですよ、中身。いくらおっぱいに並々ならぬこだわりを持ってる先輩でも、決して小さいおっぱいに興味が無いわけじゃないですよね?」

 いきなり何を言ってくるのかと思ったら本の内容に関する質問だった。


 俺は、不意にコスプレ雑誌で気になった女の子の写真を思い出していた。

 某聖杯戦争系ゲームに出てくる、銀髪の頬に傷がある女の子のコスプレ写真を。


 それを思い出しながらの発言だったからなのだろうか

「いやまぁ、別に、全くゼロってわけじゃないけど、やっぱ俺の好みじゃなかったよ」

「そんな言い方するってことは読んだことは読んだんですね?」

 今回もまたボロを出してしまった。

「……もしかして狙って聞いた?」

 あまりにも彼女の策略にハマり過ぎてしまうせいで、もはや話術の一種なのではと疑ってしまう。


 そして、その葵ちゃんはと言うと

「えぇ?なんのことですか?私はただの興味本位で聞いただけですよぉ?まさか先輩が後輩の本に興味津々な人だとは思いませんでしたけどぉ」

 愉悦に浸っているような、それはそれは楽しそうな表情をしていた。

「楽しそうだね、葵ちゃん」

 俺は思わず本人に聞いてしまった。


「気のせいですよ〜」

 ニコニコしながら葵ちゃんは否定するが、果たして本当にそうであろうか。


 しかし俺はこれ以上彼女を追求しなかった。したところで、別段意味があるとは思えなかったからだ。

 そんなことよりも俺は彼女に言いたい事があった。

「そうか。とりあえず、中に入れてくれないかな?」


 そう、俺たちはずっと玄関で話し続けていたのである。

 家を出てからしばらく経つが、その間ずっと立ちっぱなしなのだ。さすがにそろそろ座りたい。


 すると、

「あぁ、すいません。私の家ではないですけど、どうぞ上がってください」

 葵ちゃんは軽く謝ると、愛咲に変わってようやく俺を家に入れてくれたのだった。



 この家で、何が起きるかも知らずに。


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