第24話 石橋を叩いて叩いて……

あおいちゃんが……俺を……?」

 俺は文也から告げられた葵ちゃんが俺のことを好きかもしれないと言う事実を受け入れられずにいた。

 そんなはずは無いと、思っていたからかもしれない。

「あぁ。一緒に水沢さんと漫研で活動してて気づかなかったのかよ」

 文也が俺に若干呆れているのが口調からなんとなくわかった。

 けれど俺には気づきようもなかった。

「目の前のおっぱい絵を描くことに集中してたから」

「お前ってやつは……。まぁ、そうでなくっちゃ、やっぱり俺の親友って感じはしないんだけどな」

「だろっ?」

 どうあっても、俺はおっぱいが好きなのだから。

 文也もそれがわかっているようで、少し安心した俺であった。

「少なくとも今のは褒めてないからドヤるな」

「なんだよ」

 褒めてないのか、そう思いながらも笑顔を向けてくる文也を見ると自然と俺は笑みが浮かび上がる。



「それで?お前はどうするんだ?」

「どうするとは?」

 右手をヒラッと仰がせながら俺に質問してくる文也と、質問内容がよくわからなかった俺。

 いや、今のは十中八九話の流れをわかってなかった俺が悪い。

 そんなんだから

櫛名田くしなだちゃんと水沢さん、どっちを選ぶんだ?」

「…………へっ!?」

 こんなふうに情けない驚き方をするのだ。

 あまりにも素っ頓狂な驚き方な俺を見た文也は、またも呆れていた。

「そんな反応するってことは、本当に想定してなかったんだな」

「いや、だって、俺だぞ?おっぱいにしか興味無い俺だぞ?」

「あー、その点は自覚できてるのな」

 うんうん、と頷く文也。

 否定して欲しかった気持ちもあったが、否定されても困ったので俺はその件についてはスルーすることにした。

 けれども、その反動もあってかなのか

「当たり前だろ。自分がダメなやつことくらい俺が1番知っている!」

 俺は自分で自分を否定することにした。


 すると、文也の口調が一変した。

「言っとくが、お前はダメなやつじゃないぞ?」

「……え?」

 唐突な文也の口調の変化に俺は肝を抜かれた。

「ダメなやつっていうのは自分の意見を言わず人に流されて生きてるやつのことだろ。俺たちが常日頃考えてる内容は確かに世間から見たら下らないものかもしれないが少なくとも自分たちを表現している。それのどこがダメなやつなんだ?」

「……文也」

 口調も相まって、文也がかっこよく見えた。

 いや、実際には本当にカッコいいのかもしれない。ただそれが今まで見えてなかっただけなのだろう。


 危うく、文也に惚れてしまいそうだ。

「それに、そんな俊に惹かれて櫛名田ちゃんや水沢さんがお前を好いてるんだ。そんなお前を否定してやるな」

 そんな擬似イケメン補正のかかった文也は言い終わるとポンと俺の肩を叩く。

「ありがとな」

 文也と親友になれて本当に良かった。

 そんな気持ちを含めて俺は言葉にした。


「そして俺もな」

「それは有難くないかな」

「なんだとぉ!?」

 冗談っぽく言う文也の言葉に俺は冗談っぽく返し、それを文也はまた冗談っぽく怒る。

 こんな冗談を言い合える関係がずっと続いていけばいいのに。

「冗談だよ。感謝してる。いつもな」

「……そうかよ。真面目な顔でいえば許されると思うなよ?」

 文也はそうは言いながらも口も目も笑っていた。


 やはり文也は凄いや。


 とは言っても根本解決には至ってないわけで

「でも、どうしよう……。愛咲のことでも頭一杯だったのにさらに葵ちゃんかぁ……」

 むしろ悩みの種が増えたようにも思えた。

 そんな中、文也がポツリとこんなことを言い出した。

「難しく考えなくていいんじゃないか?」

「どういうことだ?」

 文也の言葉に俺は首を傾げる。

「いやさ、お前この後の関係のこととかゴチャゴチャ考えてねぇかなぁって」

「そりゃそうだよ、まだ1年以上も学校生活が残ってるんだぞ?」

 せっかく愛咲と葵ちゃんが仲良くなったんだ。このまま仲良しのまま学校生活を送って欲しい。これが本音である。

 だが、文也はそうは思わないらしく

「それを一旦忘れて考えてみたらってことだ」

 と言う。

「仲が険悪になったらどうするんだよ……」

 そう、愛咲と葵ちゃんには険悪になって欲しくないのだ。

 しかし

「その時はその時さ。それに恋愛に喧嘩は付き物だし、なんなら今現在気まずい状況だ。さほど気にする必要もないだろ?」

「それはそうかもしれないが……」

 文也はそれを踏み抜いてくる。

 俺の悩みが文也には伝わっていないのだろうか、そう思っていると

「心配なら、俺が2人の仲をつなぎ止めてやる」

 そんなことを文也が言い出した。

「……できるのか?」

 正直半信半疑である。

 それに何より、さっきまで『 その時はその時さ』と言っていたのだ。不信感があっても仕方なかった。


 けれど、文也の目は本気だった。

「任せろよ!伊達に何度もお前と一緒に櫛名田ちゃんには叩かれてないし、水沢さんには秘密の共有しあった仲だしな!直ぐに仲直りさせるのは難しくても繋ぎ止める事ぐらいは出来るぜ!」

 あぁ、やはり俺の親友は最高だ……。


「だからさ、1度ゴチャゴチャ考えずに自分のしたいようにしてみたらどうだ?」


 こんなにも俺の事を思ってくれてるのだから……。

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