第27話 おっぱいと恋心と覚悟と……

 昼休みがもうまもなく終わる頃、俺はトイレから教室に戻るべく文也と共に廊下を歩いていた、そんな時だった。

「……ん?新着メッセージ2件……?」

 ズボンの右ポケットに入れていたスマホが震えたので、それを取り出すと愛咲ありさあおいちゃんからメッセージが届いていた。

「どした?」

「いや、なんでもない」

「そうか?まぁ俊がそう言うなら別にいいんだけど……」


 俺は文也ふみやにこれ以上迷惑をかけられないと思い、その場の勢いで誤魔化してしまった。

 しかし、このままいつも通りに昼が明けた後の授業に向き合えるほど図太い神経を俺は持ち合わせていなかった。

「どうした?教室戻らないのか?」

 突然俯きながら立ち止まった俺に、文也は心配そうに話しかけてくる。

「すまん文也、先に教室戻っててくれ」

 顔を上げずに俺は文也にそう伝えた。


 今、文也の顔を見てしまえば決意が揺らいでしまいそうだったから。


「……また1人で抱え込もうとしてないか?」

 少し離れた位置から声のトーンを落としながら俺に問いかける文也。

 そんな文也に対して俺は、心配させないよう

「それは無いから安心しろって」

 明るめな口調で応えた。

「そうか。ならいいや」

「おう。だからちょっと1人にさせてくれ」

 ここから先は俺1人で、頑張らないといけない。

 これ以上文也に甘えてられない、そんな想いを含めながら俺は言葉を発していた。


「わかったよ。先、教室戻ってるな」

 文也はそう言うと、再び歩み始めた。

 後は文也がこのまま離れていくのを待つだけだった、その時である。


「頑張れよ」

 振り向きざまに文也がそう言ってきた。

 まさか振り返ることは無いだろうと思い、気を抜いて顔を上げていた俺の目に映っていたのは、凛々しく真剣な表情の男だった。


 普段はふざけてばっかの親友からの熱い激励が効かないわけがなく

「任せろ!」

 俺はそう宣言した。




 その後は、あっさりと俺と文也は別れた。

 俺の決意が揺るがないようにと、文也からの配慮なのだろう。


「さてと……2人揃って『1人の時に開封して 』か」

 愛咲と葵ちゃん、2人から送られてきたメッセージのタイトルを見た時すぐさま俺は確信した。


 あぁもう悠長に考えてる時間は無いのだな、と。


「ええっと……『 大事な話があるから、放課後、図書室で待ってるね 愛咲より』か」

 俺は2件あるうちの先に届いていた愛咲からのメッセージを読み上げた。

 なんてことの無い、ただの呼び出し文なのに、心臓がキュッと締め付けられる感覚に襲われた。

 こんな感じでもう1件読まないといけないのかと思うと、少し躊躇うものがあった。けれど、向き合うと決めた覚悟よりは小さなことで俺はすぐさま葵ちゃんからのメッセージを読み上げることにした。


「『 大事な話があるので放課後、漫研部室に来てください 水沢葵より』っと……」

 葵ちゃんからのメッセージを読み上げ終えると俺はある疑問を抱いた。


「……どっちを先に行こうか」

 そう。どちらも“ 放課後”指定であり、しかも推し量ったかのように2階の両端にある図書室と漫研部室である。



「まぁ、そういう事だよなぁ」

 図書室と漫研部室のこともそうだが、メッセージが届いたのが2人でほぼ同時なのである。

 つまりはグルって事だろう。



「はぁ…………」

 俺は深いため息をついていた。

 未だに俺は結論を出せずにおり、どうすればいいのか分からなかった。


 大きく整った胸の幼馴染の櫛名田 愛咲か。

 小さくも柔らかく整った胸の漫研の後輩の水沢 葵か。


 そんなことを考えていると、ふと文也からの言葉を思い出した。

『 難しく考えなくていいんじゃないか?』

 と。



 俺はその言葉を心の中で反復させていると、スっと頭の中がスッキリした。


「そうだよな……難しいこと考えなくてよかったんだ……!」

 気持ちが定まった俺は、興奮する気持ちを抑えきれずダッシュで教室へと向かった。

 途中で渚ちゃんに怒られたが気にせず俺は走り続け、教室へと駆け込んだ。



「……答え決まったようだな」

 先に教室についていた文也は俺の顔を確かめるとそう言ってきたのだった。



「まぁな」

そう言って俺は放課後のことを考えながら自分の席に着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る