第18話
鬱蒼とした木々の下に停められた一台の箱馬車から嬌声があがる。
艶やかな声は震えているにも関わらず、ひどく淫靡だ。
『はぁ…っ、もうダメなの…』
溢れた声に馭者の声が重なる。
『これが欲しくてわざわざやって来たんだろ、ほら素直になりな』
女は必死で首を振り、拒絶を示すが馭者の手つきに容赦はない。女が心の内では望んでいることを知っているからだ。そのままドレスを切り裂けばビリビリと無惨な音が響き渡った…
「なんだよ、それ新作だろ。読むんだったらオレを呼ぶって約束だったじゃないか」
本を読み上げていたカデフェイルの肩を誰かが背後から掴んだ。振り返れば、腕を回してきた大柄な男が口を尖らせている。
金髪の巻き毛に、額飾りは赤で、性別は男だが女神二人と同じ顔をしている。
「お前が犯人かーーーっ!」
カデフェイルは本を放り投げて男に掴み掛かった。
がっしりとした体躯なだけあり、体術も嗜んでいる男はするりと技をかわす。それがますます怒りに火をつけた。
「え、なになに、なんで怒ってるんだ?!」
男はカデフェイルの攻撃を交わしながらも、戸惑ったように声をあげる。
「怒るに決まってるだろ。人の子種をどうしたって?」
「え! 姉さんの分身体にあげたんだよ。毎晩盛り上がってるけど決め手にかけるだろ。本物が混ざったほうがリアルだし、その方がさらに燃えるし?」
「迷惑だ!窃盗罪で訴えるぞ」
「え、なんで。神力が使える子供なら増えたほうがいいだろ。それが自分の子だったらますます喜ぶものじゃないのか? 人間ってそういうものだろ?」
「喜ぶわけないだろ、どういう頭だ」
「よかれと思ったんだけどな…オレはあんたの小説のファンなんだよ。もうシチュエーションが最高で。姉さんの分身体たちも楽しんでたからいいかなと思ったのに」
「いいわけあるか!」
自分は被害者であって喜んだことは一度もない。
出来てしまったものは仕方ないし、実際は割と赤子は可愛いけれど。ついでに言えば嫁となった公女もとてつもなく可愛いけれど。だからと言って神々の勝手なイタズラを許せるわけもない。
「ルチャー、諦めて一度くらい殴られたら?」
「なんで剣神のオレが殴られなきゃならないんだ!」
なるほど、この男神は剣神らしい。だからこそ先程から繰り出した技をするするとかわされているのだろう。
本当に一発殴らせて欲しいが。
邪神はけらけらと笑うだけだし、足元にうずくまった女神は羞恥でうちひしがれていて役に立たない。
なんせ自慰している姿を弟神に見られて、せっせと精液を送りつけられていたわけだから。自分ならば家族に知られた時点で首をくくるかもしれない。
「ん、待て。姉さんの分身体たちも楽しんでたからいいかなと思って? 聖女だけに使ったんだよな?」
「あはは、鋭い。作家って言葉を捉えるのが得意だよな」
豪快に笑い飛ばした男に、嫌な予感がひしひしとする。
「笑って誤魔化すな! さっさと白状しろ」
「うーん、オレも自分の分身体に使ったんだ」
「男に精液塗りつけるってどんな変態だよ…」
分身体を可愛がりたいのはわかるが、他人から盗まずに自家製で対応しろと言いたい。
「いや、オレの分身体は可愛い女の子だよ。でさ、姉さんとこと同じくらいの時期に子供が産まれる予定なんだよなぁ」
「は?」
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