第21話

「ガーラはまずい、今すぐ逃亡しなければ体を微塵切りにされる…」

「あー、まぁあの時のあのコは本当に怒りまくってたからなぁ。怒りとか単純な感情じゃなくて、憎悪とか殺意とかありとあらゆる負の感情が渦巻いていて気持ち悪くなったほどだよ」

「お前知ってて、俺の子種を仕込んだのか?!」

「あ、それは偶然というか邪推というか。オレがここの読書会を知る前にお前たちは知り合ってたんだ。オレの分身体に手を出した男が、まさか姉さんたちのお気に入りとは知らなかったから、驚いたものさ。お前があんなに情熱的な本を書くもんだから、オレも妄想が爆発してさ。子種盗んだついでにアレコレ遊んでたらあのコも妊娠してたんだよなぁ。だから意図はないんだ」


この男神がエロ本の音読会をいつから立ち聞きしていたのかは知らないが、どうやら自分がアルガラと知り合ったほうが先らしい。

だが悪気がないからといっても、やっていいことと悪いことがある。

どうしてこの神たちは子種を勝手に盗んで処女を妊娠させても全く悪びれた様子がないのだろう。人の人生をわりと滅茶苦茶にしているのだが。

やはりここまで身勝手でなければ神にはなれないのだろうか。それとも神だから身勝手なのか。


「手を出したってまるで俺がやりたくて仕方ないみたいに言うな。あれはどう考えても不可抗力というか、なるようになった不幸な事故だ。酔っていたから仕方なかったんだ」

「いや、オレばっちり見てたから。随分と激しいのをお見舞いしてくれただろう」


楽しそうに笑う男神に、カデフェイルは内心で舌打ちする。

はっきり言って、自分には黒歴史以外の何物でもない。


アルガラとの出会いは、王都にある酒場だ。

カデフェイルはアイタルトと本の出版祝いをしていて、彼女は騎士たちを連れて飲みに来ていた。


何の話かカデフェイルが元騎士だとばれて、力比べをしようとなった。酔っぱらいの集まりだ。すぐに祭りのように騒がしくなった。その場の客たちが煽って机や椅子をどかして即席の場を作り上げる。自分の相手に選ばれたのがアルガラだった。


酒の席での余興だ。真剣ではなく店にあったお玉同士の勝負に、一本取ったのはカデフェイルだった。

コツンとお玉を彼女の額に当てて、笑っておしまいになる筈だった。客たちはやんやと歓声を上げて喜んでいたが、顔面蒼白の騎士たちの沈黙に、酔いは一気に醒めた。


相手が剣星だと知ったのもこの時だ。


それ以来、アルガラと顔を合わせる度に勝負を吹っ掛けられるようになった。

酒が入っていてたまたま自分が勝っただけだ、得物の長さも勝手が違ったからだろうと何度弁解しても彼女は聞き入れなかった。


しつこく行く先々に現れる彼女に辟易したし、呆れもした。実力で言えば彼女のほうが上なのは明らかだったからだ。だが、アルガラは納得せず、自分を叩きのめしたいようだった。

あまりのしつこさに、カデフェイルは切れた。酔っぱらっていたのもある。未だになぜそんな思考になったのか謎だ。なぜそんなことをしたのかと問われれば酔っていたからだとしか答えられない。


とにかく頭にきたのだ。


ある日、カデフェイルは勝負を迫る彼女の襟首を掴むとベロチュウをかました。

深く口づけて、舌で彼女の口腔を犯しまくった。アイタルトがあそこまでやらなくてもと、呆れるくらいの濃厚なのを10分ほどに渡って繰り広げたのだった。

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