第20話
剣に生きて剣で死ぬ。
自分にはそれがお似合いだと思っていた。
代々騎士の家系で、血筋を辿れば最初の剣神と呼ばれた伝説の騎士の末裔に当たる。神の血が入っているのではと噂されるほど剣の才に恵まれたらしい。その中でも自分は先祖返りと呼ばれるほど才に溢れていた。
アルガラ=デミ=オラングゥス。
サイジャ王国の現剣星であり、王宮の筆頭騎士だ。またオラングゥス伯爵家の長子でもあるため、正統な跡継ぎでもある。
年は25才。
世間的には立派な嫁き遅れであるが、15才でさっさと結婚した弟の子供を養子とすることで話はついている。仕事も順調で同僚たちとの関係も良好だ。
そのため、全く焦りもなく、時期がきたら爵位を継ぐだけだったのだが。
ここにきて大きな問題が発生した。
何故か日に日に腹が膨らんでいくのだ。
しかも膨らむだけでなく、時折暴れるのだ。動いて中から蹴りあげられる。
しばらくは一人で問題を抱えていたが、母が異変に気づかぬ筈はなく、直ぐ様家族に知れ渡る結果となった。
鉄壁の処女の異名を持つ娘の妊娠に両親は驚天動地だったが、一番混乱していたのはアルガラ自身だ。
相手を問い詰められても心当たりなど微塵もない。そもそも子供がどうやってできるのかも知らないのだ。
両親に質問しても嘘をついているのだと嘆かれただけで、結局はよくわからなかった。今更かまととぶってと呆れられたが、知らないものは知らないので憮然とするしかなかったが。
物語などでは一緒に夜を過ごした男女に子供ができたりしていたから、夜を過ごさなければ子供はできないだろうと思っている。
自分にはそんな記憶はない。もともと一度寝てしまえば夢も見ずにぐっすりと寝るたちだ。火事が起きても目覚めないだろうと家族にはよく心配されるほど眠りは深い。まさか眠っている間に子供を仕込まれたのか。
騎士の家に押し入ってそんなことをされるとは家門の恥だがそれ以外には考えられなかった。屋敷の警備が厳重になったが、侵入者や不審者は見つけられなかった。謎は深まるばかりで、両親は相手を告げない頑なな娘の扱いに困惑していた。
結局、相手に心当たりがないままに赤子を産んだ。
そして産婆の腕の中で元気な鳴き声をあげている産んだ子供の薄い黒髪を見て、アルガラは出産直後の寝台の上でその場の全員の耳を潰さんばかりの怒号をあげた。
「カデフェイル、貴様の仕業か!!」
部屋の外で孫の誕生を待っていた両親はようやく娘の相手の名前を知ることができたのだった。
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