第19話
「女? なんで分身体の性別が違うんだ?」
目の前の男神は二人の女神に比べて引き締まった体つきだ。上半身はストンとしている。胸のない女だったら、失礼な話だが。
低い声音に喉仏、骨格からも男性であることは間違いがない。
「それはオレが、女が大好きだから。男になんてこれっぽっちも愛情を注げないんだよ。オレと繋がってるのが男とか考えただけでも気持ち悪い。可愛いんだぞ~、先祖返りって呼ばれるほど腕も立つ。かなりオレに近い存在だ」
誇らしげに語る男神に、カデフェイルははあっと脱力する。確かに彼は整った美貌を持っているし、姉たちとそっくりではある。だが、実際に下界にいる男神の分身体とはどんなに雄々しい女なのだろうか。
しかも分身体を褒めるということは自画自賛だろう。どれほど自分が好きなのだ。
彼の分身体にはあまり期待できそうにないことは間違いない。
「お前の自分自慢はよくわかった。まあ、出産を控えているなら無事に産んでくれるように祈っている」
「あれ、父親なんだぞ。もっとこう興味あったりしないのか?」
「するか。顔も見たこともない上に、しかも勝手に子種を盗まれて孕んだとかいう相手だぞ。お前ら神たちのイタズラに巻き込まれた相手は不憫だと思うが、俺に責任を押し付けられても困る」
すでに聖女の件で手一杯だ。
とにかく新たな女を抱える余裕など微塵もない。
「えー、それは不公平じゃないか。姉さんたちの子供は引き受けるのに、オレの子供はダメだって?」
「決して引き受けたくて引き受けたわけじゃない。大変に不本意な結果だ」
サリィミアは帰る場所がない。戻っても殺されてしまうのだから。
そして聖女は保留中だ。できれば神殿で心穏やかに過ごしてほしいと願っている。
暴走気味だが、優しい祖父と伯父に囲まれれば息子もすくすくと育つに違いない。
「なんだよ、喜ぶかと思ったんだけどな。まあ放っておいてもお前の元に押しかけるだろうからいいか」
「待て…、なんだって?」
「喜ぶかと思ったのに少しも感謝されないオレを労わってくれよ。続きを読んでくれ!」
「違う。俺のところに押しかけるって言わなかったか?」
「あれ、興味でてきたのか。ふふん、やっぱり剣星ともなると気になるだろうなぁ。お前も少しは剣の道に携わっていたのだから」
「剣星?! まさか、お前の分身体ってガーラか?」
「大正解~」
満面笑顔になった男神に、カデフェイルは真っ青になった。
サイジャ王国には剣星と呼ばれる者がいる。書星、知星と合わせて三星とし、国の中でも貴族とはまた違った権力を有している存在だ。
その剣星はもちろん、剣全般の武術を修めた者に授けられる称号であり、現在、一人の女が受けている。
燃えるような赤い髪に、獰猛に光る金色の瞳が印象的な美女でもあるが近寄る男は皆無だ。鉄壁の処女の異名を持つ、鋼鉄の女だ。
恐ろしく強いこともあるが、彼女とカデフェイルの間には、ひとついわく付きの出来事があるのだ。
「殺される、今度こそ本当に殺されるじゃないか」
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