第22話

「産まれた子供は神の分身体と同じくらい強く、神の加護を受けるらしい」


すやすや眠る赤子を腕に抱えて居間のソファーに座るサリィミアの向かいに座ったカデフェイルはお茶を飲みながらゆったりと口を開いた。

夕食後のゆったりとくつろげる時間だが、話題としては微妙な選択だ。

だが、心を鬼にして話さなければならない話題だが、いつかは話さなければならない話題でもある。


「神様の加護って普通はありがたいと思うけれど、貴方の表情を見るかぎり問題があるのね?」


サリィミアの視線を受けて、思わず苦笑した。

十を語らずとも察してくれるなんて、夫婦っぽいじゃないか。それも、長年連れ添ったオシドリ夫婦的な感じだ。

それだけカデフェイルが分かりやすい顔をしていたとかは言ってはいけない。


ちなみにローテーブルの上にはお茶が入ったカップは二つだ。もちろん、カデフェイルが淹れた。1日2食の生活なので、夕御飯も自分が担当だ。夜泣きをする赤子に乳をあげているサリィミアは朝もなかなか起きられないので、朝食も自分が作ることが多い。

家事を一手に引き受けているといっても過言ではない。

執筆時間は大幅に減ったが、カデフェイルは幸せだ。


目の前に座る妻と自分そっくりの子供がいるのだから。

お金に困るので、なんとか書き続けていこうとは思うが。


「ミアの分身体である神は、今ではすっかり邪神扱いだが、愛を司っているらしい」

「愛って聞けばなんだか素晴らしいもののようだけれど、実際はその…夜の行為に溺れちゃって反省させられてるわけでしょう?」

「まぁ…だから、そういうことなんだよ。自身が司っているものを加護や呪いとして授けられるらしい。俺を不能にする呪いもかけられるわけだ」

「え、え…? ええっ?!」


つまり、あの邪神は性愛を司っているのだ。

サリィミアは言葉を濁したカデフェイルの言いたいことを察して腕の中の赤子を凝視した。


「じゃあこの子の加護って…」

「どういう影響が出るかは加護を授けた神にもわからないと言われた。ミアの加護も人よりもモテるくらいの軽いものらしいしな」


安心させるように告げれば幾分かサリィミアは安堵したようだ。表情が柔らかくなった。実際に邪神が告げたのは誰と寝ても最高の快楽を得られる、邪神いわく最高の加護らしいのだが、そんなこと本人にはとても言えやしない。

自分の呪いが解けたら一晩じっくり相手をしてほしいものだが。


「そこで、だ。子供の名前は親が希望を込めてつけるじゃないか。だから、色々と古語を調べて、この子の名前はソリュドにしようと思うんだがどうだろうか」

「どういう意味があるの?」

「それは秘密だ。秘めておくほうが、効果があがると思ってくれ。決して悪い意味じゃないから」

「いいと思うわ。この子はソリュドね!」

「本当は神殿で名前を貰うほうがいいんだが、今は近づけないからな」

「こちらの国では神殿で名前を貰うのが一般的だって言われたものね。だけど、私たちは外国人だから、いいんじゃないかしら。素敵な名前だしね」

「そうか、気に入ってくれて良かった」


ソリュドは古語で堅実という意味だ。

ぜひとも親の期待を背負って、どんなに愛欲にまみれた加護でも、性欲に流されずに着実に落ち着いた人生を歩んでほしい。

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