第25話
デイトリンの子供の名前はルウジェになった。古語で『光』という意味だ。
洗礼式も無事に終わり、手荷物を抱えたデイトリン親子を伴って恐々と家に帰れば、無言のサリィミアが玄関を開けた先で仁王立ちしていた。
家の中は外の光を取り込んで明るい筈だが、ひどく薄暗く見える。彼女が影を背負っているからだろうか。いや、闇か。
まじに怖い。
必死で自分の後ろにいるデイトリンを隠しつつ、声をかけてみる。
「ただいま、ミア。ど、どうかしたのか」
「お帰りなさい、アナタ。後ろの方はどちら様?」
「え、う、後ろか?」
「誤魔化せるとお思いですか? いくら相手が小柄と言っても隠れるのは無理がありますからね」
ですよね、と心の中で同意してカデフェイルは最大限の反撃にでた。がばりと土下座したのだ。攻撃は最大の防御。先手必勝。
戦いの定石だ。謝罪は何よりも誠意を込めることが大切だ。そうだろう?
「すまなかった、力が及ばなかった!」
肩を怒らせていたサリィミアがやれやれと息を吐いた。
どんな言葉が続くのかと覚悟する。
「最初からこうなることはわかっていました」
「え、わかって…いた、のか?」
なら自分は土下座なんかしなくても良かったのでは?
困惑したまま床に座り込んでいるカデフェイルを無視して、彼女は玄関口に立っているデイトリンににこやかに微笑みかけた。
「はじめまして、聖女様。私、サリィミアと申します。あちらにいるのが息子のソリュドですわ」
部屋の中央に据えられたテーブルの横にある籠に寝かされている息子を示す。彼はお昼寝中のようだ。すやすやと可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「はじめまして! 私はデイトリンと言います。この子はルウジェです。これからよろしくお願いします」
対して、デイトリンの腕に抱かれた赤子もすやすやと眠っている。同じ黒髪に同じ顔立ちだ。だが、やはり見比べると一回り小さい。赤子の3ヶ月の違いは大きいものだと実感する。
「うわぁ、小さいですね。ソリュドも少し前までこんなに小さかったのかしら」
「子供が大きくなるのはあっという間と言いますからね」
「そうですね。すぐに生意気な口をきくようになるってアチコチで忠告されたものよ。ああ、立ち話もなんだし、こちらに座ってくださいな。今、お茶を淹れますわ。ね、アナタ?」
テーブルの椅子をデイトリンに示したサリィミアが、土下座したままのカデフェイルに向かって命じる。
「はい、今すぐに!」
もちろん、喜んでやらせていただきますとも!
カデフェイルは立ちあがり台所に向かうと、直ちに水を入れたポットを火にかけるのだった。
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